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九州・沖縄 経済特集(2024年7月)
企業支援 中小企業と走る
企業が持続的成長を実現する上で、関係機関による支援は有効な手段の一つだ。特に中堅・中小企業では経営資源が限られる中、外部との共創を通じた課題解決は大きなインパクトを生む。
矢野特殊自動車 脱炭素化へ中長期計画 中小機構が策定支援
冷凍車やタンクローリー、車両運搬車など輸送用機器メーカーの矢野特殊自動車(福岡県新宮町)は6月、カーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ、CN)に取り組むための中長期事業計画(CNロードマップおよびアクションプラン)を策定した。計画策定では、中小企業基盤整備機構(中小機構)九州本部(福岡市博多区)によるハンズオン支援が後押しした。
矢野特殊自動車が脱炭素化に取り組み始めたのは2022年4月だ。柴田和典取締役をトップに製造部や資材部、サービス事業部、営業部から各部12人で編成したチームが、ガソリンや電気といった消費エネルギーの削減に乗り出した。
さらに矢野彰一社長と柴田取締役が講演会や勉強会に参加していたことをきっかけに、中小機構九州本部のハンズオン支援を受けることにつながった。専門家が企業を訪問し、中長期計画、投資対効果の算出、短期的な省エネ改善など課題に合わせて対応する制度だ。
同社の場合、中小企業診断士の北林博人アドバイザーが23年9月から10カ月間、計20回にわたり支援を実施した。北林アドバイザーは同社計画について「未来に向けた経営戦略」と強調する。GHG削減と業務との関係、つながりを理解、納得することが策定のポイントと指摘する。
今回の支援ではGHGの直接的排出を対象とするスコープ1、供給を受ける電気や熱などからの排出を対象とするスコープ2について削減ビジョンを作成した。
矢野社長は「なぜCNに取り組まなければならないかを社員に理解してもらえた」とし、「何を目標に、いつまでに、具体的な活動にどう取り組むかについて社内で共有した」と評価する。
さらに矢野社長は「新製品の開発や設計、サービスにCNの事例を反映する」と意気込む。具体的には工場の塗装ブースの更新を始めた。また5月の「ジャパントラックショー2024」に出展した新製品車両はすべてCN貢献モデルとした。冷凍車の断熱性能向上や輸送効率のアップにつながる構造とし、燃料消費を減らして実現につなげる。
企業に専門家派遣 3回無料
中小機構はCNに関する支援において、企業の取り組み段階に応じた事業を用意する。セミナーや講習会に加えて、関心を持った事業者の相談を受けて助言する事業もある。相談は無料で予約制。中小機構九州本部のホームページで対応日を公開している。
専門家派遣の「CN簡易診断」は、3回まで無料で専門家を派遣。CNの具体的取り組みに必要な現状把握や課題整理だけでなく対策の立案まで支援する。
ハンズオン支援の想定期間は月2回程度の専門家の派遣で6-10カ月。派遣回数に応じた費用がかかる。
福岡県-企業のコスト削減で成果 生産性向上、5年で実質13億円
福岡県は県中小企業生産性向上支援センターを通じた、企業のコスト削減で成果を挙げている。大手メーカーのOBらを製造業などに派遣し、伴走型の支援を無料で何度でも提供する制度が好評だ。2019年9月の同センター開設以来、支援が完了したのは270社。コスト削減効果は累計13億円に上る。
「従業員が残業せずに時間を使えるようになった」と喜ぶのは、久留米印刷(福岡県広川町)の熊丸正憲社長。伝票や帳票といったビジネスフォームと呼ばれる印刷物を製造、販売する。
支援を受け、成果が特に上がったのはRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)の導入だ。年500時間ほどの作業時間を年50時間以下に圧縮できた。
納品時の梱包には自動化装置を導入。それまで手作業で1日200個が限界で「事務担当者も手伝うことがあった」(熊丸社長)が、自動化により同2000個にまで高めた。
同センターの支援は福岡県内に現場を持つ中小企業を対象にする。ロボットによる自動化といった高度な領域から、「整理・整頓」のような基本的な作業環境づくりまで多様な課題に対応する。
これまで550社が申し込み、うち104社がリピート利用していることから有用性の高さがうかがえる。
ユーカス(同久留米市)は主力のソファ製品の開発で支援を受けた。分業化やプロセスの見直しにより開発スピードや精度を向上。「有意義に時間を使えるようになった」と中島慶子社長は成果を語る。
製品開発ではベテラン社員による属人的な進捗管理から転換。デザインや製造といった各工程の責任者が進行を管理する手法に移行した。開発段階ごとに内容を確認し、開発工程の見える化や開発期間の短縮につなげた。
中島社長は「半年かかっていた開発が3カ月になり、1カ月で試作品開発もできるようになった」と自信を深める。
同センターの事業について、福岡県中小企業技術振興課の野見山修治課長は「中小企業は経済発展の原動力。人手不足が厳しい中で持続的な発展には生産性向上が重要だ」として、さらなる成果づくりを目指す。