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九州・沖縄 経済特集(2024年7月)
ロボット DX ICT 産業都市の挑戦
少子高齢化による人口減少が本格化しているが、より深刻さを増しているのが就労人口の減少だ。製造業、非製造業を問わず就労者が減ればモノづくり現場は疲弊し、社会生活に必要な各種サービスもこれまで当然とされた恩恵を受けることが難しくなる。人口減少社会において自動化、デジタル化はもはや避けては通れない。“産業都市”北九州市ではさまざまな実証事業が動き始めている。
安川電機 ロボット、世界動かす アグリメカトロを強化
産業用ロボット最大手の安川電機は北九州市八幡西区の本社敷地内に、2026年稼働予定のロボット新工場を建設している。次世代ロボット「モートマンネクストシリーズ」を生産予定だが、同工場は福岡県から「グリーンアジア国際戦略総合特区」の法人指定を受けた。
モーターからロボットの完成品までを一貫生産する計画で、税額控除による税制優遇の対象となる。同社の法人指定は4回目で、同特区制度では最多。小笠原浩会長は「ロボットが工場を動かす最先端工場を目指す」と意気込む。
同社は、これまで自動車や半導体、医療など多くの分野に製品を投入してきた。いま新たに力を注ぐのが農業(アグリメカトロニクス)分野だ。
現在は作付面積が多いキュウリの収穫用途に開発を進めている。生育段階で光合成を活発化させるために、古くなった葉を取り除く「葉かき」と呼ばれる作業で一定の成果を上げている。今後は収穫の自動化などにロボットシステムの導入を検討する。夜間の稼働を含め、葉かき作業の自動化が人手に代わる有効な手段であることを長期の実証を通じて確認した。
繊細なイチゴを収穫
7月3日から北九州市小倉北区の西日本総合展示場で開催されたモノづくりの総合展示会「課題解決EXPO2024」にはイチゴの選果・パック詰めロボットを出展、注目を集めた。
イチゴは冬から春にかけて市場で人気が高いが、果肉が柔らかく、収穫作業には人手が欠かせない。だが労働力不足から負担は年々増え続けており、自動化が求められている。
安川電機は九州工業大学と共同で研究を進め、果肉が傷つかない吸着・搬送システムを開発、25年度の商用化を目指している。人手で1時間あたり60パックかかる作業を、自動化で同40パックまで実現しており、どれだけ人手に近づけることができるか改良作業を進めている。
同社は26年2月期までの中期経営計画で、コア技術を活用しながら事業領域を拡大する方針を掲げている。工業分野だけでなく農業分野の自動化にも積極的に関与することで、さらなる業容拡大を図る計画だ。
戦略特区を活用 企業誘致・人材育成 北九州市、DXで“稼げるまち“に
「稼げるまち」を目指して北九州市の武内和久市長は、産学連携を通じて地場企業へのロボットやデジタル変革(DX)の導入を積極的に進めている。
ロボットの社会実装については九州工業大学、GZキャピタル(北九州市八幡西区)と連携し、北九州イノベーションセンター(KIC、同市八幡西区)で事業を始めた。KICには国家戦略特区施設が入居しており、市は特区活用による産業振興を九州工大と連携して積極的に進める。
武内市長は「規制を打破する取り組みで市内外の企業を呼び込む」と誘致に期待する。
誘致の成功例が日本IBMだ。すでにIHI、北九州市との3者間でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)社会の実現に向けて連携協定を締結済み。6月には同市小倉北区の九州DXセンターを大幅に拡張した。
同センターは大型商業施設のオフィスフロアに床面積2000平方メートル超、300席を確保し、同市と連携して地域のDX推進やIT人材の雇用・育成、人工知能(AI)を使った業務受託サービスなどを強化する。近い将来に500人体制を整える。
またGMOインターネットグループも小倉北区の拠点を増床。IT技術者の育成に力を注いでいる。
一方、C&GシステムズはAIを使って切削条件を決める機能をコンピューター利用設計・製造(CAD/CAM)システム「キャムツール」に搭載した。これまで人に頼っていた切削条件や工具選定を自動算出することで、熟練者に依存しない加工を実現。人材難が深刻化する中堅・中小企業のモノづくり現場で威力を発揮する製品と評価されている。
ICTでタクシー業務 効率化
タクシー大手の第一交通産業は、8月5日から電子タクシーチケットサービス「タクスク」を始める。情報通信技術(ICT)を使って、オンライン上で金額や期限に合わせて電子チケットを簡単に作成できる。利用者にオンライン上で譲渡したり、利用状況をリアルタイムで把握できるため管理が簡単になるほか、紙製チケットで発生する紛失がない。
同社は現在保有している約200台の電気自動車(EV)タクシーを、24年度中に300台まで増車する計画を持つ。燃料価格の高騰が理由だが、ほかに企業としてカーボンニュートラルに積極的に取り組む姿勢を社内外に見せる狙いもある。
6月には門司営業所(北九州市門司区)に約5000万円を投じて太陽光パネルや、DXを利用したエネルギーマネジメントシステムを導入。EV12台を配置し、本格的に業務を始めた。
同システムは三菱商事、三菱オートリース(東京都港区)と連携して検証を進めている独自の製品で、営業所の電力を低圧契約で運用することで効率的に充電する。数台の車両を運行と充電に分けながら運用することで投資コストを最小限に抑え、効率的な業務を行う。デジタル時代の新たな取り組みとして業界で注目されている。