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九州・沖縄 経済特集(2024年7月)
シリコンアイランド 半導体で地域躍動
九州で半導体産業を振興する力強さの源には、地域が一体となって取り組んでいることがある。大学、経済団体、自治体がそれぞれの役割、強みを生かした動きが「シリコンアイランド九州」を支える。
九州の全体構想を策定 生産・応用、人材でリード
半導体の“イノベーション・マルチハブ”に-。「シリコンアイランド九州」の新たなグランドデザイン(全体構想)が6月にまとまった。半導体の生産・応用、人材輩出でリードし続けることを目指す。構想は熊本県で開かれた九州地域戦略会議で承認された。同会議は官民一体で発展戦略の具体的施策を推進することを目指す。
構想に描かれたのは、ビジネスエコシステム(生態系)の中核となる産学連携拠点を多極的に整備し、各拠点が連携する姿「イノベーション・マルチハブ」だ。半導体を作る側と使う側の企業を中心に、ビジネスモデルを創出するエコシステムを築く。目指す姿の実現に向け、テーマごとに課題整理マップをまとめた。テーマにはまちづくり、公的支援・金融支援の確保、地域連携・国際連携も含む。
九州経済連合会は産業振興・デジタル推進委員会に半導体戦略専門部会を置く。エネルギー、金融、物流、まちづくり分野からもメンバーを加える考え。10月までに初回会合を開催する方針だ。
半導体に関連する連携の動きは大学による取り組みが活発だ。熊本大学、九州大学、熊本県の3者は2023年12月、包括連携協定を結んだ。半導体に関する研究や人材育成、研究成果の実用化で連携し、研究者の人事交流を進める。
24年4月には九大と台湾積体電路製造(TSMC)が包括連携の覚書を締結。半導体分野における研究や人材育成での協力関係の発展を目的とする。学生や教員に対する研究奨励金や講義、インターンシップ(就業体験)などで連携する。
同月には九大など九州・沖縄の全11国立大学法人と、台湾大学など台湾の12大学が参加する学術プラットフォーム「UAAT」が国際連携に関する覚書を結んだ。11国立大で構成する連携枠組み「九州・沖縄オープンユニバーシティ(KOOU)」として連携する。
6月には九大と台湾の国立陽明交通大学との共同研究室を九大に設置することを決めている。半導体とバイオサイエンスに関する研究や人材育成などで連携する。産学連携の促進も目指す。8月には両大学の教員が数人ずつ参加して活動を始める考え。学生の交流も進める。国立陽明交通大学は、熊本大とは半導体分野における大学間交流協定の補遺を締結した。共同教育プログラムの実施や設備の相互活用による研究開発の推進などをテーマとする。
福岡県 グリーンデバイスの一大拠点へ
約400社の半導体関連企業や研究開発支援施設が集積する福岡県。県はグリーンデバイスの開発・生産における一大拠点の形成を目指している。グリーンデバイスとは省エネルギーに貢献するパワー半導体や低消費電力化につながる半導体、関連製品などを指す。県は研究開発支援と人材育成に力を入れる。
福岡県糸島市の「三次元半導体研究センター」は、次世代半導体の重要技術である3次元実装分野で設計・試作から評価・解析までを一貫して支援できる公的支援機関。これまで延べ約260社、約3500件の支援実績がある。
同センターが主なテーマとするのは、半導体パッケージの組み立て技術による高機能化、高集積化、高密度化だ。チップとチップを高密度につなぐための技術を蓄積して生かそうとしている。
センターが強みとする技術は、微細な配線形成、3次元配線を実現する穴加工、部品内蔵、高周波伝送損失評価の各技術。設備では前工程のシリコンウエハー加工ライン、後工程のプリント配線基板、部品内蔵基板量産ラインを整える。前工程と後工程の垣根を越えた新たなプロセスへの挑戦が可能だ。
県は同センターの機能を強化するため「クラウドファンディング型ふるさと納税」による寄付の募集を始めた。寄付金は集束イオンビーム装置、反応性イオンエッチング装置、真空ラミネーターなどの導入に活用する。募集期間は8月19日まで。目標金額は2000万円とする。寄付は、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」から申し込める。
人材育成では「福岡半導体リスキリングセンター」を2023年8月にスタート。半導体を「作る側」と「使う側」の両面の内容で講座を開いている。目指すのは、若手技術者からトップエンジニアまで幅広い人材の育成だ。
作る側向けでは半導体の設計、製造、テストなど工程別の講座がある。使う側向けの講座では自動車や組み込みなどの分野に関して学べる。講座は対面だけでなく、オンライン、時間や場所を選ばず学べるeラーニングで受けられるものもある。中小企業や大企業など幅広い企業が受講しており、県外の受講者もいる。
そのほか県は、理工系の大学生や高等専門学校生を対象に半導体関連企業などを見学する「オープンカンパニーツアー」を実施。中高生に半導体の役割や可能性を学んでもらう事業も行っている。