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九州・沖縄 経済特集(2024年7月)
サステナビリティー 革新をつくる 課題解決にチカラ
持続可能な社会を実現する上で、モノづくり企業の存在感は大きい。生産や加工といった現場を擁する製造業自身が、現場を変えることで社会に直接・間接に好影響を与えることができる。同時に各者が培ってきた技術を基にした製品・サービスを新たな視点で見直すことで、より幅広い対象に革新をもたらすことが可能になる。
西部電機 産業機械事業70年 バルブ装置で社会支える
西部電機は搬送機械、産業機械、精密機械を主力とする総合メカトロニクスメーカー。産業機械事業はバルブコントローラーを製品化した1954年に始まり、今年70周年を迎える。製品には上下水道やエネルギーといった、インフラや各種プラントの機能を支えるバルブ駆動装置、水門を開閉するゲート駆動装置などがある。
産業機械事業の強みは柔軟な対応力で、顧客のニーズや仕様などの要望に応える。品質の向上と安定ではネジの締め付けトルクを計測しながら一定に保つなどの改善を続ける。開発では小型・軽量化などを進め、新しい価値の創出に取り組む。
最近では情報通信技術(ICT)を生かしたIoT(モノのインターネット)システムを構築する。同システムはスマートフォンでの遠隔操作・監視を可能にし、既存設備への後付けもできる。カメラやセンサーを組み合わせ、さまざまな状態を見える化する。太陽光発電システムやバッテリーで駆動させることもできる。
日本タングステン 希少金属に強み 接合技術で資源を有効活用
脱炭素推進による再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の需要増加に伴い、それらの機材に必要な希少金属の需要が高まっている。希少金属の使用量を必要最低限に抑える上で重要な技術の一つが、ろう付けなどによる接合だ。
日本タングステンと同社の子会社である昭和電気接点工業所(福岡県飯塚市)は、種々の接合技術を有する。長年培ってきた連続式雰囲気炉による接合技術は、タングステン、およびモリブデンなどの希少金属と鉄・銅との接合を得意とし、主に電機産業機器や自動車部品、治工具のタングステン・モリブデン使用量低減に貢献してきた。
2021年12月に「サステナビリティ宣言」を掲げた日本タングステンは、枯渇リスクの高い資源の有効活用として、資源使用量削減の積極的な提案に取り組んでおり、今後も接合技術を生かして持続可能な社会の実現に貢献していく。
昭和鉄工 熱源と空調を最適化 コスト減と脱炭素化に貢献
昭和鉄工は、ボイラやヒーターなどの熱源機器や空調機器の運転を最適化するサービス「省エネリファイン」の提供を始めた。省エネによる環境対策やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への取り組みに貢献。エネルギーコストを削減する。
同社の強みは豊富な知見。重油、灯油、ガス、電気とあらゆるエネルギーに対応する製品ラインアップの幅広さに裏打ちされている。無駄を省く運転方法や必要に見合った出力調整など、比較的簡単な取り組みでも大幅な省エネが期待できる。
機器の仕様や燃料の変更、ダウンサイジングなど一時的に投資しても長期的にはコストを抑えられる方法を提案する。ヒートポンプ式と燃焼式を組み合わせた給湯システムも構築可能だ。
省エネリファインで活躍するのが運転データを蓄積できるコントローラー。既存設備への後付けもできる。最短2週間分のデータ分析から提案が可能。運転データの管理は機器の予防保全にもつながる。
堀内電気 屋根借り太陽光発電 再生エネの普及を後押し
堀内電気が手がける太陽光発電システムによるオンサイトPPA(電力販売契約)事業が好調だ。2022年10月に「屋根貸して事業」と名付けてスタート。23年度は目標20件としていたが30件を超えた。24年度に入っても工場や事務所で活用するなど引き合いは多い。
注目されるのは初期投資がかからない点。需要家の建物屋根や土地を借り、掘内電気が発電システムを構築するため設備や工事の初期費用は不要。発電した電気は需要家が使う。売電電力料金単価を固定した契約のため、再エネ賦課金や燃料調整費の影響を受けにくいなどのメリットがある。
福岡銀行のポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)の実行など複数の金融機関から融資を受けたことで「信頼性が高まり、事業に弾みがついた」(堀内重夫社長)と意気込む。国連の持続可能な開発目標(SDGs)実現に向け、さらに再生可能エネルギーの普及を後押しする。
西部ガス 合成メタンの地産地消モデル 北九州・ひびき基地で実証
西部ガス(福岡市博多区)は、二酸化炭素(CO2)と水素でメタンを合成する「メタネーション」の地産地消モデルの実証事業を始めた。地域で発生するCO2や再生可能エネルギーの余剰電力で水電解して得られた水素などを用いて合成メタン「e-メタン」を製造し、都市ガス導管を通じて需要家に届ける。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向け、産学官を挙げて取り組む。
西部ガスを代表企業に、IHIや九州大学、日本ガス協会などが参画する。環境省の事業にも採択された。
実証は西部ガスの拠点である、ひびきLNG基地(北九州市若松区)で実施する。地元の福岡県や北九州市、福岡市も協力する。2024年11月頃に実証設備の建設に着工し25年夏ごろにはe-メタンを供給開始する計画だ。
ひびきLNG基地内のボイラー排ガスからCO2を高効率で分離回収する装置は、九大発ベンチャーのJCCL(福岡市西区)が先進技術を提供する。また水素には近隣の工場の副生水素も活用し、製造コスト低減を目指す。
西部ガスグループではe-メタンを「カーボンニュートラルの切り札」と位置づけており、原料調達から供給まで完結した地域モデルを実現し、メタネーションの社会実装に向けた契機にする。
リックス 電源多様化で安定供給 ポータブル式ハイブリッド装置
産業界向けの商材を取り扱うメーカー商社、リックスが開発した電源装置「エネミックス」。太陽光発電に、サブ電源として水素燃料電池やガソリン発電機などを組み合わせて充電するポータブルハイブリッド電源だ。従来のガソリン発電機と比べてガソリン使用量を削減でき、環境負荷低減に貢献する。
電気の安定供給も特徴だ。これまでの太陽光発電のみを搭載した電源装置では、非日照時や夜間に電源不足となる弱点があった。一方、エネミックスは太陽光発電をメーンとしつつ、サブ電源も搭載することで安定した電気の供給を実現させた。どんな場所でも電源確保が可能なため、河川や土木工事をはじめ、生産現場や災害時にも活用が見込まれる。
2022年11月から約1年4カ月の期間で、神奈川県川崎市が提供する河川実証フィールドでエネミックスの実証試験も実施。同市担当者は「電源がない場所で、天候に左右されず安定した電源供給が可能であり有効性が確認できた」などと話した。
スタートアップ支援拡充 福岡、成長度合い「高さ」重視
社会の課題解決において、スタートアップ企業は不可欠な存在になった。従来の企業や組織で解決が難しかった課題を、新たな視点や技術によって解決に導くためだ。スタートアップ支援で全国的に注目される福岡と沖縄では、新たな取り組みが動き出した。
「パワーアップした『フクオカ グロース ネクスト(FGN)』とともに、新しい時代をつくりたい」。5月、福岡市の高島宗一郎市長は新たなスタートアップ支援策の発表会で力を込めた。会場となった同市中央区のFGNは、市が起業支援を目的に運営する中核施設だ。
新たな支援策は大きく二つだ。一つは支援対象を拡充する「フクオカ グロース ネットワーク」。FGNの入居企業以外でも、本社登記が福岡市内であれば対象となる。企業の活動実績を基に、さらなる成長を狙うことなどが条件になる。
さらに「ネットワーク」の参加企業から年10社ほど採択するのが「ハイ グロース プログラム」。福岡を代表する企業に成長するべく、支援をカスタマイズして事務局や外部人材が集中支援する選抜型プログラムだ。
高島市長はスタートアップ支援で「高さ」の創出を目指す。これまでの施策で進めてきたスタートアップ企業のすそ野拡大に対して、成長による企業の規模拡大など“頂点”を高めることを指す。
加えて海外拠点の設置などグローバル支援や、社会課題解決に特化したソーシャル分野でも支援を始めた。こうした施策を通じて「次の時代の雇用と税収を涵養してくれる企業をつくる」と高島市長は意気込む。
沖縄科学技術大学院大学 今年度、ディープテック4者始動
科学技術などをベースにする「ディープテック」領域でスタートアップ支援を続けてきたのが、沖縄科学技術大学院大学だ。自然科学分野で世界トップクラスの研究機関を目指す中で、産業化による社会課題解決のために国際的・学際的な研究開発環境を起業家に提供する。
沖縄県内での起業を条件に支援希望者を公募し、世界各地から応募が集まる。2018年度以降、23年度までに11チームを支援。うち10チームが事業化した。沖縄の自然環境や社会課題を反映できるユニークで先進的なテーマが特徴的だ。
24年度は単年度で最多となる4チームの支援が始まった。今回も国際性豊かなメンバーがそろい、南米やインドから沖縄に移住した起業家もいる。
各チームは、低侵襲のがん治療薬や肢体不自由者の支援ロボット、人工知能(AI)を用いた研究者支援システム、栄養成分の摂取効率を高める食品パウダーを開発テーマに据える。
沖縄科技大の担当者は「東京では埋もれてしまうアイデアも、沖縄では価値を提供できる」と期待をかける。