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九州・沖縄 経済特集(2024年7月)
エリアトピックス 持続可能な価値
国連の持続可能な開発目標(SDGs)が広く浸透するにつれて、サステナブル(持続可能)な社会が現実のものになりつつある。遅れが指摘されていた製造現場でも、環境や消費、働きがいといった意識の醸成が積極的に進められている。これからの企業は、規模の大小を問わず、サステナブルな製品や技術を生み出すことが価値向上につながり、利益を生む。
清本鉄工 食品残さ・排水汚泥などを資源化
サステナブルな世界の実現に向けて日々、チャレンジし続ける清本鉄工(宮崎県延岡市)。オカドラ(横浜市磯子区)と資本・技術提携を結び、4月に縦型蒸気間接乾燥機事業を本格スタートした。工場や下水処理で発生する汚泥や油脂・廃液、魚や野菜といった食物残渣(ざんさ)の生ごみなど廃棄物を煮沸・凝縮・乾燥させ、一気通貫で堆肥や肥料に処理するリサイクル事業だ。現在、オカドラ本社に社員2人を送り込み、技術承継を急いでいる。
特許取得済のオカドラ独自の縦型乾燥機のラインアップは11種類ほどと多い。実際に客先を回りながら一つひとつ仕事を覚えて行くという地道な作業の繰り返しだ。
難しいのは、客先で相談された場合、その場でアイデアを提示しなければならない点。相談に即応できれば信頼を得られ、次の仕事につながる。知識と経験を積むことが必要になる。
オカドラが設置済みの国内400カ所の施設メンテナンスも清本鉄工が引き継いだ。保守点検では年1回、現場に行き、ベアリングの交換など容易な処置で済む。機構がシンプルなため、36年間そのままの装置もあるほどだ。
ただ模造品が客先に迷惑をかけているのも悩みの一つにある。金井正夫オカドラ社長は「皆さんの困っていることを解決してあげたい。それが自分の最後の仕事だ。今後も特許を取り、技術だけやっていきたい」と語る。
過去、1件10億円以上という大規模装置の導入実績もあることから、清本鉄工が掲げる数年後のリサイクル事業の売上高目標20億円(現状比3倍強)の達成は射程圏内だ。
今後は東南アジアや米国、欧州への海外展開も視野に入れる。熱計算や化工計算ができる人材のほか、設計、現場監督者を採用し、事業拡大を進める。
柳井電機工業 箱積みの負担を軽減 自動パレタイザーで働きやすく
柳井電機工業(大分市)は、重量物の箱積み作業者の負担を減らす自動化システムを協働ロボットで実現する。自動パレタイザー「PALLET CREW(パレクルー)」は、コンベヤーを流れる箱を1個ずつつかみ、パレットに積むことで作業者を重労働から解放する。中小企業が導入しやすい価格に設定した。
ロボットと架台、ハンドと安全装置、システム統合サービスに加えて、顧客自身でできる技術支援が標準パッケージとなっている。
ジュース缶や瓶などが入った1箱15キログラムの箱を人手で積み上げる場合、長時間の重労働となり、腰痛やケガにつながる。それを毎分6個の速さで積み上げる。
アンカーレスで設置できる架台と折り畳み式のパレット当てになっているほか、車輪付きなので必要な時に必要なラインに移設・移動できる。標準カメラとランドマークを使用することで移設後の位置合わせも自動補正し、稼働開始までの時間を大幅に短縮する。100ボルト電源のみで使用でき、外部エアーも不要だ。
4月の発売以降、食品業界や機械メーカーから受注が入っており「業種を問わず多くの引き合いが来ている」(産業FAソリューション部)。中小企業庁「中小企業省力化投資補助金」の製品カタログにも登録を見込む。
10月16日から福岡市博多区のマリンメッセ福岡で開催される産業見本市「モノづくりフェア2024」に実機を持ち込み、デモンストレーションする。
大分・宮崎 観光に新たな魅力
観光の活況が新型コロナウイルス禍からの経済回復に貢献している。東九州地域ではインバウンド(訪日外国人)に人気の観光地があるほか、食材の宝庫として誘客につながるコンテンツを擁する。
JR九州は4月、観光特急「かんぱち・いちろく」の運行を始めた。ゆふ高原線(久大本線)経由で博多-由布院・別府間を片道約5時間かけて走る。同線を走る観光列車は3本となった。
地元産木材を随所に用いた車内では、車窓から豊かな自然を眺めながら、地域の厳選された食材を生かした食事を楽しめる。途中の停車駅での“おもてなし”も醍醐味の一つだ。
ゆふ高原線では「或(あ)る列車」も運行中。夏休みに合わせて、料理をカレーライスにするなど親子で楽しみやすい設定にした。
同じく「ゆふいんの森」では乗客の8割以上をインバウンドが占める。JR九州の古宮洋二社長は「由布院へのインバウンド観光は定着した。強化したいエリアだ」と意気込む。大分では福岡とともに大型観光キャンペーンも実施中で、盛り上げに力を注ぐ。
「畜産王国」と呼ばれる宮崎県は、さらにその存在感が高まりそうだ。九州観光機構は九州各県で生産される食肉をテーマに観光振興を図る。
九州は牛や豚、鶏の食肉産業で高いシェアや品質を誇る。多様なブランドや料理も擁しており、観光コンテンツとして積極的に活用する狙いだ。宮崎県も肉用牛、豚、ブロイラーで鹿児島県と並び全国上位を占める。
同機構の唐池恒二会長は「(九州の食肉は)九州で切磋琢磨(せっさたくま)しているが、東京では有名でない」と見る。知名度を向上させるとともに「九州の力強い武器として重要な観光資源にする」として、イベントなどを通じて「キラーコンテンツ」に育てる構えだ。