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第56回機械工業デザイン賞 IDEA
専門審査委員 講評
「自照化他」—シン・マシン生態学
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機械工業デザイン賞IDEA 専門審査委員代表/東京藝術大学名誉教授 尾登 誠一
機械工業デザイン賞IDEA 専門審査委員代表
東京藝術大学名誉教授 尾登 誠一
昨年の審査講評に、生態学の主体である“生物”を“マシン”と置き換えるとき、「マシン生態学」なる思考が開発に大いに関わるということを記した。 生物(マシン)は、さまざまなカタチで周囲の環境(人間・市場・社会)と関わりをもつと同時に、多数の生物(自/他社製品)とも相互作用を繰り返しながら生活(存在・機能)している。すなわち多様な生物種(製品群)の生活(開発)の法則を解明することが、マシン生態学の目的であることを示す。
自己を客観視し、環境を含めた他との関わりの中で協働しつつ相互が利する「自照化他」という思考法がある。それは企業理念構築の礎であり、新価値創造のイノベーションを獲得する行動連鎖を誘発させるが、ラインからセル生産へのシフトチェンジも一つの具体例と言えるのだろう。
今回の申請をこの視座から見る時、製品は、コンパクト化・自動化システム・インターフェース・高生産性などの市場ニーズと、省力化・省人化・SDGs・カーボンニュートラルなどの社会・環境への対応を開発トリガーとしていた。また、毎々指摘してきたハードとソフトの融合や、全体バランスと部分ディテールの関係性は、コアコンピタンスをベースに工夫を凝らし、その最適解により優秀さを誇示するのが観て取れた。
これらの状況下における審査は、私見ではあるが、現在を起点に時間軸の付与により将来を見据えた開発を志向し、製品の独創性や新規性、永続性や拡張性、社会性・経済性へのインパクトをいかに成し得たかの「革新性」が優劣判断の境界線となった。
製品は企業が市場や社会に示す、最終的な責任の証である。モノゴトづくりに関わるこの自照は、おのずとそのこだわりであるプロダクトフェイスをデザインを介して凝縮・明示させる。筆者は芸術系デザイン科に所属していた特性から、常に可視化されたハードの内面に潜む、作り手の思想やこだわりをソフトとして「観照」し、独創的コンセプトと技術に裏打ちされた審美性のいろいろを観てきた。よりシンプルにプロポーションやバランスの良きモノ(ハード・作品・製品)である「図」の背景には、明確なコト(ソフト・メッセージ)としての「地」が必然的に仕組まれるのである。
ART(芸術)は、これに連なるARTIFICIAL(人工的)という概念を派生させ、これの対義語であるNATURE(自然・科学)と対峙する。一方、デザインは、ARTと異なりDESIGN SCIENCEとして枠組みされ、芸術と科学の中間域で両者のバランスを図る「シン・マシン生態学」を本意とする。
機械工業の絶え間ない技術革新
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専門審査委員/日本工業大学理事 松野 建一
専門審査委員
日本工業大学理事 松野 建一
本賞の審査に初参加して以来、四半世紀を超えた。毎回現物審査で新技術や新機種の詳細に出会って大いに刺激を受けている。
本賞は外観・色調など狭義のデザインだけでなく、開発意図・目的から、機能・性能・品質の独創性・優位性、操作性・安全性・保守性、経済性・環境性、そして造形処理までを総合的に審査する点が特徴である。現物審査では企業側の説明を聞き、実機の稼働・操作状況を確認した後、質疑応答を行い、苦労した点なども聞いた上で総合的に評価する。
特に近年は作業者の負担軽減など、ユーザーの課題や要望も十分認識した上で、従来機種を超える製品の開発に取り組むことが常識となっている。機能・性能の向上に加え、操作・制御系の改良・革新を意識した製品が多く、操作盤の構成・機能・性能の向上が著しい。今回はさらにその傾向が強まっていた。
世界最高レベルを維持している工作機械などの生産機械類では、生産性と加工品質の一層の向上とともに、工具交換を含む段取り時間の短縮、安定加工、遠隔監視などにより、作業者の負担を一段と軽減している。また、省エネルギー、脱炭素、環境といった社会的課題への対応も意識して、工夫が加えられたものが多くあった。
特に今回は、面積生産性の向上を強く意識して各種工夫を加え、従来機を超える製品を実現したものや、加工中の機械の状況を診断して反映させる技術を組み入れた製品もあった。その絶え間ない技術革新に感心した。
鍛圧機械では、大型プレス機械に多数の金型(パンチとダイ)を並べ、数工程の縦方向加圧と多段送りで行うのが常識であった板材の深絞り成形を、一本のパンチと重ね合わせた複数のダイを用いて一工程で成形する横型成形機の出現に驚いた。独創性・新規性に富み、金型部品点数、機械重量、使用床面積に加え、騒音、電力・加工油消費量も大幅に減少できる。一方でこの方式に適する成形材料・製品形状・潤滑法などの確立が必要と思われた。
部品加工業で頻繁に行われるノギスなどによる寸法検査は、部品の微細・高精度化に伴い負担が増大している。これを解決するために、最新の光学技術や画像処理技術などを駆使して開発された計測機器も、現場の負担軽減に大いに貢献すると思われた。
今回も、わが国の機械製造産業の絶え間ない努力と発展を再確認できたことは嬉しい。受賞製品の公表が刺激になって、今後さらに多くの新規技術が開発され、人材の確保・育成にも効果があることを期待している。
もう一つの審査軸
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専門審査委員/慶應義塾大学名誉教授 松岡 由幸
専門審査委員
慶應義塾大学名誉教授 松岡 由幸
本デザイン賞の審査基準は、募集要項に以下の四つが明記されている。①企画力・社会性(企画内容・コンセプトの有効性や社会的貢献度)、②機能・性能・品質(要素技術・システムにおける発展的な思考や独創性)、③操作性・安全性・保守性・経済性(人間要因や保守・点検に対する配慮)、④造形・造系処理(モノ・コトと上記3要件との有機的関連性)―である。これらはいずれも、審査対象である製品やシステムが有する直接的な特性であり、私はこれらを「オブジェクト型因子」と呼んでいる。
しかし私は審査の際、これらの基準に加え、もう一つの審査軸ともいえる「バックグラウンド型因子」に常に注目している。これは、製品やシステムそのものの評価を超え、それを生み出した企業の技術力や不断の努力、モノづくりに対する固有の文化などである。例えば、企業における未知の領域へ果敢に挑戦し続ける姿勢、課題解決に向けた真摯(しんし)な熱意とたゆまない研さん、さらには、微細な細部に至るまで決して妥協を許さない誠実さなどである。
こうした「バックグラウンド型因子」は、単に新製品・システムの評価にとどまらず、顧客からの信頼を生み、企業の永続的なブランディング効果を創出する。製品・システムに独自の価値あるイメージが定着したとき、市場において「選ばれ続ける状態」が自律的に形成される。したがって、顧客の内に安定的な価値観を醸成するこの因子は、製品開発において重要な意味を帯びることになる。
ただし、このブランディング効果を担保する「バックグラウンド型因子」を獲得するためには、製品・システム自体の揺るぎない信頼性と品質を確保していることが不可欠である。
一般に、新製品のデザイン賞審査においては、その内在的な信頼性や品質を見極めることは難しいとされている。なぜなら、限られた審査の場では、すべての審査項目に関して実験データなどを用いて網羅的に検証することは不可能だからである。
しかしながら、本賞にはこの課題を乗り越える強みが備わっている。それは、「現物審査」の導入である。私たちは現物の精緻なメカニズムを直接的に理解し、さらにそれが実際に作動する動的な様態を子細に確認することができる。この現物審査というアプローチを最大限に生かし、充実した審査を遂行すること。それこそが、専門審査委員会に課された使命であると考える。
効率性を追求した機械工業デザインの発展
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専門審査委員/東京大学大学院教授 村上 存
専門審査委員
東京大学大学院教授 村上 存
今回の受賞製品のいくつかに共通に見いだされるデザインの特徴の一つとして、さまざまな意味での効率性の実現に注目した。
小型複合加工機では従来機より高い加工精度を長時間安定して維持しつつ、高い加工性能をコンパクトに凝縮し、多品種中少量化する高精度小物部品の生産を実現する上での面積生産性、面積効率を向上するデザインがなされている。
3次元レーザー統合システムでは、2種類の異なる波長のレーザー発振器(ブルーレーザー/ファイバーレーザー)を選択搭載可能とすることで、切断、溶接、積層造形(AM)といった多様なレーザー加工を1台で実現する、機能集約によるシステム効率を向上するデザインがなされている。
コンピューター数値制御(CNC)精密自動旋盤では、基本構造部分である刃物台/回転工具/アンプのモジュラー構成部と機能/周辺アタッチメントの自由度の高い組み合わせにより、先進国における工作機械の機能高度化の要求と、新興国におけるシンプルで低価格な工作機械の需要に、迅速かつ柔軟に対応可能な、製品展開効率性を向上するデザインがなされている。
マルチポジションCT診断装置では、検査時の姿勢として従来の横向きの臥位だけでなく、90度回転かつ上下移動する独自の新ガントリ機構により、立位、座位を加えた3体位での撮影が1台で可能となり、立位や座位で症状が発現・憎悪する疾患を的確に可視化できる、機能集約によるシステム効率を向上するデザインがなされている。
端子カバー形計測器ではブレーカーの端子カバーを、形状や意匠に互換性がある非接触電流計測ユニットにワンタッチで差し替えるだけで、製造業で可視化のニーズが高まっている使用電力量の計測を可能とする。配線作業などの施工が不要で新たな設置スペースも必要としないデザインがなされている。
熱量測定装置では測定用途や測定条件に応じた7種類の電気炉の付け替えと、固相マイクロ抽出アタッチメント、試料自動搬送アタッチメントなど各種のアタッチメント・ユニットの追加により、1台でマルチユースに対応する、製品展開効率性を向上するデザインがなされている。
製品の価値向上には、達成される機能の向上と、機能を実現する効率の向上という二つの方向がある。製品の分野や、その時々の産業、社会の状況によって、どちらが効果的であるかが異なってくる可能性がある。それを正しく判断して二つの方向を使い分けることが、持続的な機械工業デザインの発展につながるのではないか。
精緻な技術力の継続的研鑽
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専門審査委員/広州美術学院特別招聘教授 渡邉 誠
専門審査委員
広州美術学院特別招聘教授 渡邉 誠
今年度の機械工業デザイン賞IDEAは、一言で言うと「精緻な技術力の継続的研鑽」であると思う。ちょっと分かりにくいかもしれないが、日本の企業(日本人)にしかできないような精緻な技術を、継続的に磨き上げることにより、新たな高みとして実を結び実現した機械が多かったように思う。全く新しい機械というよりも、過去の機械を見直し、作り変えることで、新たな感動を与えるような技術を実現している。
例えば、最優秀賞を受賞したオークマの「小型複合加工機 MULTUS U1000/U2000」は、コラムユニットの画期的な小型化を実現している。まさに設計技術のたまものである。そしてもう一方が、AI(人工知能)による機器の重要部分の異常診断である。これは素晴らしい。同社が30年以上にわたって蓄積した機器の故障や破損状況に関するデータベースを基にしたものであり、まさにAI時代の産物である。
日本商工会議所会頭賞に選ばれた日清工業「両頭平面研削盤 VNX―585i」も、40年来の機器を一新したもので、新規リブ構造、研削盤調整自動化、研磨砥石交換方法の改良で、機器自体がとても新しく、素晴らしいデザインである。
他社の機械もこのような技術開発がなされている。一方で、機械全般に派手さはない。半分以上の機械は、造形的な新しさはない。本賞の工業製品のデザイン振興・発展という目的からすると、新たな技術により完成された機械としてデザインは十分であるものの、機械の新しさを表現するインパクトのある機械は少なかった。デザインの振興・発展という観点からすると物足りなさを感じたのも事実である。外観に関わるような内部の基本構造や、機械を構成するパッケージのレイアウトは変更が難しいのかもしれない。そのため、外観が全く変わるような派手さはなく、デザインとしての変化がないのかもしれない。
言い換えれば、技術がある程度円熟してしまったからなのかもしれない。もちろん、外観はきれいに仕上がっている。しかし機械をラッピングしているだけのようにも見える。
それぞれの機械の技術は本当に素晴らしい。これだけ精緻なものが作れるということ、そして、それらが全て過去からの知識や経験に裏打ちされ、さらにそれらを超えたアイデアを結実させたことは、「機械工業賞IDEA」という賞であれば合点がいくものである。
厳しい言い方をするが、「デザイン」という言葉が入り、造形も審査対象となる賞であるならば、造形そのものも重要な審査対象となり、もっと何かできるようにも思える。新たな機械工業デザインには、何が必要なのだろうか。未来の景色を変えてくれるような機械の開発に期待したい。今回の審査の対象にもそのような機械があった。日本の技術開発で、新しい未来を実現してほしい。
