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第56回機械工業デザイン賞 IDEA
最優秀賞(経済産業大臣賞)/キヤノン
商業印刷向けカラープロダクションプレス varioPRINT iX1700
この製品はインクジェット技術を導入し、オフセット印刷と同等の品質を持つ。用紙対応力と徹底した省人化、工程自動化、オペレーションの簡易化を追求し、属人的要素を最小化するデジタル・オンデマンド・プリンター。
印刷幅359ミリメートルをワンパスで印刷可能なサーマル方式長尺プリントヘッドの印刷モジュールを核に、高濃度ラテックス水性顔料インクの採用、新開発のインク循環機構によるヘッドクリーニングの自動化で、オフセット印刷に迫る高品位な高速印刷と安定稼働を実現した。
用紙はB3サイズで50gsm(1平方メートル当たりのグラム数)の薄紙から450gsmの厚紙まで対応。反応液の最適化で対応メディアを拡大し、デフォルト登録のベースメディアから最も近いものを選びウィザード形式で簡単に登録できる。
ストレートパスの搬送部にはエア分離給紙機構や高精度レジ(位置・色ずれ)補正技術、定着部にはクローズドヒーターなどの要素技術を実装する。
装置は七つのモジュールの組み合わせで構成。設置はモジュール単位で行い接続は束線をつなぐのみ。各モジュールには属人化解消とオペレーション簡易化に対応するステータス表示のナビゲーションLED(発光ダイオード)ランプが装備され、トラブル箇所を容易に特定できる。トラブル時は21インチカラータッチパネルの「PRISMAsync」において、該当する復旧コマンドの実行で自動解決する。
作業者が稼働状態を視認できる大型透明窓を付設した印刷モジュールのカバーは上方に開く構造で、メンテナンス時の作業性・保守性に配慮。ナビLEDと大型透明窓の組み合わせ装備で安全な作業性をもたらす。
ストレートパス・R100両面パスで一定の高さを保ったまま紙に負荷を与えない搬送設計によるホリゾンタル造形を必然づけ、高速印刷を支える機能的合理性とサイコベクトルを基調としたプロダクトデザインを両立。特に大型透明窓を装備した印刷モジュールキューブは、スタイリッシュな製品に緊張感と精度感を醸成、また各モジュールを横断するメタリックラインは印刷の流れを視覚的に表現し、効果的に信頼感を表出する。さらに、これに沿う黒い帯には機器の状態を示すナビLEDと、近傍に紙づまり対応や用紙補給時のユニット開閉ハンドルが付設され、視覚的アイコン性と操作性を兼ね備えている。
この製品はオフセット印刷からデジタル印刷へのシフトチェンジを、総合的デザイン力で具現化し、秀逸な完成度をみせる。印刷に不可欠な用紙対応や、ラテックス顔料インクの採用と新開発のインク循環機構の搭載によるヘッドクリーニング自動化にフォーカスし、技術のアイコン化を的確にデザインしていることは注目だ。
開発担当者に聞く/キヤノン デジタルプリンティング商品第一開発センター シニアプロジェクトマネージャー 清水 昭博 氏
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キヤノン デジタルプリンティング商品第一開発センター シニアプロジェクトマネージャー 清水 昭博 氏
循環機構でヘッド状態最適化
—開発の出発点を教えてください。
「商業印刷では多品種・小ロット化や短納期化が進んでいます。デジタル印刷の特徴を生かしながら、トナー方式では難しい生産性と、オフセット印刷に迫る画質を実現しようと考えました。キヤノンが家庭用プリンターなどで培ったバブルジェット技術を商業印刷の領域へ引き上げ、B3判に対応するインクジェット機の開発に挑みました」
—特に難しかった技術はどこですか。
「印刷幅359ミリメートルのラインヘッドの開発です。多数のノズルからインクを安定して吐出し続ける必要があります。ノズル付近のマイクロメートル単位の微細な流路でインクを循環させ、常に新鮮なインクをヘッドに供給できる仕組みを作りました。滞りない印刷を実現するため、付着したインクを拭き取りながら吸引する自動清掃機構も作り込みました」
—開発を成功に導いたブレークスルーは。
「インクを従来機同様に熱風だけで乾かすと、非常に長い乾燥経路が必要になります。このままでは装置を小型化できません。検討やシミュレーションを重ね、熱風で水分を除いた後、約90度Cに加熱した幅広のベルトを使って紙を低圧で挟み、インクに含まれる樹脂を溶かして定着させる方式にたどり着きました。トナー機にも使うベルト定着の考え方をインクジェット機に応用したことが、突破口になりました」
異常箇所、光でお知らせ
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異常をLEDで表現することでオペレーターの操作性を向上
—デザイン思考をどう取り入れましたか。
「開発初期から欧米や日本の印刷現場を訪ねました。見えてきたのは、人手不足やオペレーターの教育負担、機械の連続稼働のニーズです。そこで、異常や消耗品の交換場所を光で知らせるナビゲーションLED(発光ダイオード)を採用しました。操作画面まで戻らなくても対処する場所が分かり、作業動線を短くできます。初心者にも直感的に扱える構成を目指しました」
—使う人の立場に立って配慮した点はどこですか。
「オペレーターは1日の長い時間を機械と過ごします。強い警告光を受け続けると、心理的な負担になります。注意を促す機能を保ちつつ、LEDを柔らかなグラデーションで光らせました。基本操作は短期間の研修で身につけられることを想定しています。機械の生産性だけでなく、人が介在する作業全体をスマートにすることを大切にしています」
—今回の成果をどう発展させますか。
「ヘッドからインク、定着機構、筐体(きょうたい)まで、ほぼ全てを新たに作り、多くの知見を得ました。完成がゴールではなく、ようやくスタート地点に立った感覚です。実際に使うお客さまの声を取り込み、生産性や画質、使いやすさをさらに磨き、長く発展する商品に育てていきます」
