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茨城県産業 明日への挑戦
茨城が描く次世代 人材・技術・教育の再設計
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茨城県庁舎(水戸市)
加速する人手不足と産業構造の転換に向け、茨城県が人材・技術の「底上げ」を急いでいる。産学官の交流プログラムを通じ、次世代エネルギーや高度技術を軸に地域発のイノベーションを探る。外国人人材の活用に向けてはセミナーを通じて積極的なインド人材の登用を呼びかけた。IT短大の4年制への移行も発表し、デジタル分野の教育基盤を強化する。産業現場の変化に合わせ、県内企業の競争力をどう支えるかが問われる。
ベンチャー交流プログラム 日立市で開催/中小・研究機関の連携後押し
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地元企業の経営者や中小企業の支援機関から聴講者が集まった
茨城県は中小企業や研究機関、ベンチャーらの交流プログラム「HITACHI IGNITE2025」をJR日立駅(茨城県日立市)のイベントスペースで開いた。技術シーズやエネルギー供給の展望を語った。環境対策やAI(人工知能)の台頭による電力需要の高まりを見据え、次世代エネルギーを軸に地域発のオープンイノベーションを促した。事業者の連携による地域経済振興を後押しする。
交流プログラムでは計三つのセッションで4人ずつが登壇した。日本原子力研究開発機構の植田拓郎理事は、研究成果の社会実装について「企業との相互連携が必要だ」と強調した。原子力機構が協力する東京電力福島第一原子力発電所事故の廃炉処理については「技術革新の場にもなる」との見方を示した。茨城県東海村の山田修村長は、村内の産業構造に触れ「研究と(原子力)発電が付加価値額の7割を占めるが、その多くは村外に流出する。地域企業と交流を深めて村内の経済循環を高めて」と呼びかけた。
製造業に焦点を当てたピッチでは、原子力機器のグローブボックスを設計・製作するヨシダ(水戸市)の米川周佑社長が、原子力や宇宙などより高度な技術が求められる分野における中小企業の関わり方について語った。米川社長は「研究機関や大手企業らは組織間の壁が高く、技術的な交流が難しい。その橋渡し役として中小企業が多分野で活躍すれば、社会全体の技術革新が加速する」と意気込んだ。
日立市は日立製作所の創業の地。現在も事業所や関連会社が立ち並ぶほか、東海村は原子力機構や日本原子力発電(東京都台東区)の東海第二発電所、JERAの常陸那珂火力発電所が立地する。以前からエネルギー産業が活発な地域だ。だが、大手企業などの事業転換により、サプライヤーである地元中小企業への発注は減少。各社は新規顧客開拓などの経営判断を迫られている。
交流プログラムを主催した茨城県の松長宏一技術革新課長は、日立市や東海村の中小企業について「技術力のあるモノづくりが盛んな企業が多い」と評価する。地域の安定的な発展に向けては「取引先の拡大や新事業にエネルギー分野を生かしてほしい」と訴え、企業や研究機関の相互交流を促す。
茨城県は毎月つくば市内で交流イベントを実施しており、その一環で今回のプログラムを開いた。日立市内での開催は3回目だ。当日は現地とオンラインのハイブリッド開催で141人が参加した。
インド人材活用セミナー開催/北東地域に焦点 優秀な人材獲得
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インド人材の活用を呼びかける石倉大阪支店長
茨城県は企業のインド人材の活用を促すセミナーを水戸市内で開いた。加速する国内の労働人口の減少を背景に、インド人材を取り入れて県内の地域経済を維持・向上する狙い。関係機関の担当者がインドの地域・人材の特徴や採用時の流れを紹介した。オンライン配信との併催で、県内を中心に24社28人が聴講した。
現地で人材の送り出しをするH&A India Private Limited(愛知県刈谷市)の石倉洋平大阪支店長は、インド北東地域に焦点を当て、同地域の人材は控えめな性格が多いことを例に挙げ「日本に馴染みやすい人材」と紹介した。
国際人材協力機構(JITCO)の久米正人国際部副部長は、各先進国で日本と同様の働き手不足が生じ、世界規模で人材獲得競争が激化する現状を紹介した。久米副部長は「インドは平均年齢28歳。優秀な人材がまだ獲得しやすい環境」と分析した。
県よろず支援拠点/中小支援機関連携へ研修会
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7、8人ずつ14グループに分かれ、相互連携を高める手法を考えた
茨城県よろず支援拠点は県内の金融機関や自治体などの各中小企業支援機関を招き、水戸市内で研修会を開いた。参加者は価格転嫁やリスキリング(学び直し)をテーマにした座学、支援機関同士の連携を高めるワークショップを通じ、企業支援手法の理解を深めた。県内を中心に67機関から99人が参加した。県内全体の支援機関担当者の相談能力と関係機関間の連携体制を強化する。連携機関数や連携相談対応件数・支援担当者の相談対応で日本一を目指す。
収益力向上を主題にした講演では、経営環境の変化に合わせて「稼ぐ力」を獲得することが強調された。同拠点の宮田貞夫チーフコーディネーターは「ニーズのある商品を作ることが大事。売上額とともにコスト低減も意識して」と呼びかけた。
ワークショップでは、手厚い企業支援の実現に向けた支援機関の交流を深めるため、定期的に会合の場を設けることや企業訪問に別機関の担当が同行することなどが挙がった。
IT短大を大学校に刷新/実践教育で幅広いDX人材育成
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応用情報専攻科は企業と密接に関わりながら、課題抽出と解決提案できる人材を育てる
茨城県は県立情報テクノロジー短期大学校(IT短大)を2026年4月、県立情報テクノロジー大学校に刷新する。最大4年間学べる教育体制を整え、学生はより深いデジタル知識を獲得できる。生産現場の自動化や企業内デジタル変革(DX)に広く貢献できる人材を育成する。収容定員は従来比2倍に拡張し、1・2年次の専門課程も2コースを追加する。県内産業界の要望にも応え、自ら考えて課題解決できる学生が生まれることを目指す。
3・4年次の応用課程では「応用情報専攻科」を用意する。専門課程で会得した知識を、実践的な教育課程を通じて内面化する。2年間の教育課程のうち1年間は、地域企業と連携した課題解決型学習(PBL)に使う想定だ。現場と対話しながらテーマ定義から解決策提案・実装までを経験する。応用情報技術者試験の合格を目指し、学生はAI(人工知能)やデータサイエンスも学ぶ。
専門課程では、既存3コースに加えて新たに「ITエンジニアコース」「情報サービスコース」を置く。ITエンジニアコースは、各種センサー類とプログラマブルコントローラー(PLC)などを使った生産現場のスマート化を学ぶ。情報サービスコースはデジタルやデザイン、経営知識などに幅広く取り組み、業種問わず企業のDXに貢献できる能力を身に付ける。
茨城県産業人材育成課の長谷川正俊課長補佐は「デジタル人材需要の高まりに応じて教育の質を担保しつつ『量と質』を提供したい」と説明する。専門課程は収容定員を従来比6割増の100人に、応用課程は初年度に20人、最終的には60人へと受け皿を拡大する。
入学者は県内高校の学卒者を中心に、専攻分野を問わず幅広く受け入れる。高校との連携を強化し、生徒の進路の一つとして選択してもらえるよう促す。25年度入学者募集では、専門課程の入学定員60人に対して100人以上の志望者が集まった。年明けにかけて実施する選考でも多くの応募を見込む。
授業や就職を支える産学連携も欠かさない。地元企業など約140社で構成する協議会を窓口に、校内就職説明会やインターンシップ(就業体験)を定期開催し、学生と企業の多段的な接点を用意する。9割超が県内就職という地元定着の基盤も厚い。長谷川課長補佐は加速する労働人口の減少や東京都心部への人口流出を前に「若者の地元定着にもつなげたい」と強調する。
一方で課題も見える。増員後も一定の倍率を確保する募集力、PBLを回すための産学窓口と教員体制の増強だ。IT短大でカリキュラム構成を考える日熊啓介学科主任は「現場起点でも運営を磨く」と足元の課題解決に取り組みつつ、来春の開校を心待ちにする。
