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茨城県産業 明日への挑戦
茨城県特集 座談会① 産業都市ひたちなかの可能性
産業集積と人口減少のはざまで、ひたちなか市が次の一手を探っている。市内企業や行政が参加した座談会では、地域経済を支える強みと、採用難や外国人受け入れ、企業認知の不足といった課題が率直に語られた。港湾や工業団地を背景に多様な産業が広がる一方、若手人材の確保や技術継承、新規事業への越境に向けては“地域ぐるみの仕組み”が欠かせないとの声が相次いだ。産学官金をつなぐネットワークへの期待も高まる。次のひたちなか市の地域像が浮かび上がる。
座談会 出席者
ひたちなか市長 大谷 明 氏
JX金属 ひたちなか事務所長 久保木 陽央 氏
エムテック(ひたちなか市) 代表取締役 松木 徹 氏
菊池精器製作所(ひたちなか市) 代表取締役 菊池 宏昭 氏
コロナ電気(ひたちなか市) 代表取締役社長 柳生 昌克 氏
(司会)日刊工業新聞社 茨城支局長 圷 満義
圷 最初のテーマは「ひたちなか市経済の現状」です。人口動態や企業進出、産業の多様化など、地域の産業土壌をどう見ているのか伺います。まず大谷市長に現状認識をお願いします。
新規事業が地域活力生む
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ひたちなか市長 大谷 明 氏 -
JX金属 ひたちなか事務所長 久保木 陽央 氏 -
エムテック 代表取締役 松木 徹 氏 -
菊池精器製作所 代表取締役 菊池 宏昭 氏 -
コロナ電気 代表取締役社長 柳生 昌克 氏
大谷 最近「元気があるまちだ」と言われることが増え、県を引っ張る存在になってきたと感じます。ひたちなか市は首都圏から約100キロメートルで東京へも特急で直通80分。日帰りは可能ですが通勤となると負荷があり、その分独自の商圏と生活圏が育ちました。
人口は減少局面ですが生産年齢人口の割合はほぼ横ばいで推移しており、周辺からの通勤者も増えています。常陸那珂工業団地は2019年に完売し、現在は新たな工業用地の確保に向け、県と連携して工業団地の拡張事業を進めています。港湾整備も着々と進んでおり、貨物需要の増加に対応するため新たな岸壁の工事が進められるなど投資しやすい環境が整いつつあります。
工業だけでなく農業・水産業・観光業も活発で、干し芋やおさかな市場などが好調。観光客数は県内最多で、人の動きの回復とともに良い循環が生まれています。近年は新たな分野に挑戦する企業も増え、製造業の力に加えて新規事業が地域活力につながっています。
久保木 当社のひたちなか新工場は半導体材料事業の新たな中核拠点です。港湾・高速道路・鉄道の整備で物流がしやすく、県内の他拠点とも連携しやすいのが利点です。行政の迅速な対応も大きく、商業施設や医療機関など生活環境も整い、社員の満足度も高い。「ぜひひたちなかで勤務したい」という声も多く、働く場としても住む場としても魅力ある地域です。
松木 当社は日立市で創業し、取引先企業の拠点移動とともに旧勝田市(現ひたちなか市)へ移転してきました。顧客の近くで仕事ができる強みがあり、大手工場が集積して関連企業も多い。試作や打ち合わせなど顔の見える関係で進められる環境は他地域にない利点です。医療機器などにも挑戦していますが、基盤にあるのはこの地域で培ったモノづくりの力です。新しい挑戦をする企業も多く、刺激を受けながら取り組める土地柄です。
菊池 ひたちなか市周辺には技術を持った人材が多く、モノづくりへの理解が地域に根付いています。OBのシニア採用などで技術継承にも力を入れていますが、優れた人材が身近にいるのはこの地域の大きな強みです。サプライチェーン(部品供給網)も地域内で完結し、加工から組み立てまで顔が見える連携が可能。工業・商業・観光が結びつき、地域との一体感の中で産業が育ってきました。
柳生 当社は組み立てを中心に設計も行う製造業で、旧勝田市への移転とともに工業地域の発展を歩んできました。技術と人材の蓄積は地域の資源で、多様な製造業が周囲にあるため、協力関係が得られやすく生産変動があっても心強いです。工業集積と技術者集団が共に存在する地域で、この資源をどう次につなぐかが今後のテーマです。
圷 続いてのテーマは「ひたちなか市の課題」です。採用、人材育成、外国人受け入れ、企業認知、地域ネットワークなど、多面的なテーマについてうかがいます。まずは大谷市長からお願いします。
大谷 まず人材確保が最大の課題です。日本全体の人口構造から見ても、私の世代は“団塊ジュニア”で210万人生まれていますが、いま全国の出生数は70万人を割り込みました。3分の1の規模で社会を回していくことになる。これは特定の地域だけの問題ではなく、構造そのものが変わっているということです。その中で、ひたちなか市や茨城県が「生産年齢人口を維持できるまちづくり」をどこまで実現できるか。交通、住環境、教育、医療、生活サービスを総合的に整えることが、自治体としての責務だと思っています。
さらに重要なのが外国人の受け入れ体制です。企業の皆さんからは「外国人材は必須」という声が強くありますが、行政側の組織が分散しており、相談窓口が市民課、国際交流、市民活動課などに分かれてしまっている。支援が一本化されず、結果的に外国人住民のみならず、市民の不安にもつながってしまう。これを改善するため、来春をめどに“多文化共生の専門部署”を新設し、受け入れ・生活支援の機能を一元化する方向で検討しています。
企業情報を保護者に発信
菊池 中小企業としての課題は、まず“認知の低さ”です。工業高校の文化祭に出展した際、先生方から「中小企業は親御さんに知られていないので、推薦しづらい」と言われました。高校生自身よりも、実は親世代の情報不足が深刻です。「どんな会社か分からないから選ばれない」。技術力があっても、保護者に届いていないため、採用に結びつかない。
中小企業自身がもっと積極的に情報を出し、保護者世代へ直接届ける動きをしないと、母集団が確保できません。これは地域全体に共通した課題だと思います。
工業と観光つなぐPRを
柳生 当社も採用は厳しいです。特に「設計」「経理」「品質保証」などの専門職は集まらない。製造・営業など比較的入り口の広い職種はまだ来るのですが、それでも年々採用が難しくなっていると感じます。企業自体を認知していただくことはもちろん、地域としての強みである工業と観光資源、もしくは両方をつなぐ内容のPRがあるとより人も集まるのではないか。3Dデータなどを取り扱うデジタル化の技術、文化を教育機関含めて地域として活性化することも有効と考えます。
それから、外国人材の活用も避けて通れません。ただ採用するだけではなく、住居・生活・言語学習まで含めて企業側がどこまで面倒を見るのか、体制づくりが必要です。ひたちなかは転勤族が多い地域で、これまでは“世帯での流入”によってある程度人材が循環してきました。企業・行政・地域がセットになって「働く場所」「住む場所」「子育て環境」をひとつのパッケージとして整えていかないと、採用はますます厳しくなると思います。
企業の“地域認知”強化を
久保木 当社も人材確保は大きなテーマです。市長がおっしゃったように、採用の“取り合い”は現実として起きている。他社と競争するというより、地域全体で人材の総量が足りなくなっている状況です。
そこで重要なのが、まず知っていただくことです。JX金属がひたちなかに来た背景や、どんな事業をしている会社なのか、地域の皆さま、特に就職を考えている方々にもっと届くようにしたい。広告や地域イベントの協賛などを通じて積極的に認知を広げる取り組みを進めています。まず存在を知ってもらい、理解されて初めて人が集まる。採用の基盤としての“地域認知”を強化していく必要を強く感じています。
情報発信力の弱さが課題
松木 モノづくりの会社として、当社も事業の柱を増やそうとしています。医療機器や陸上養殖など、新しい領域に踏み出しているのですが、感じるのは新規事業に挑むときの地域的な難しさです。ひたちなかは工業の土壌が強く、製造の技術基盤や人は豊富にいます。しかし、新領域に挑むときに必要な情報・ネットワーク・マーケティングは、まだまだ地元だけでは完結しない。これは中小企業にとって大きな課題だと思っています。
もう一つは「情報発信力の弱さ」です。事業が多角化しても、誰にどう知らせればよいかが分からない。地元テレビや新聞、SNSなど手段はいろいろあるのに、“会社の中に広報担当という概念そのものがない”ケースが多い。製造業は特に情報を出す習慣がなく、良い取り組みをしていても知られないままになってしまう。
例えば陸上養殖を始めても、どこに販路を広げるか、自治体や商業施設との連携をどう作るか。そういうときに産学官金言の横串のネットワークがもう少し平時から動いていれば、中小企業はもっと挑戦しやすいと思います。
圷 各立場で課題は少しずつ違いますが、共通しているのは“人をどう呼び込み、どう支えるか”という点だと感じます。企業認知、外国人受け入れ、職種のミスマッチ、地域ネットワーク。いずれも、地域全体の競争力に直結するテーマと言えそうです。
