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茨城県産業 明日への挑戦
茨城産業人クラブ 経済講演会 循環型社会の実現に向けて
茨城産業人クラブ(高橋日出男会長=協立製作所会長)は11月25日、水戸京成ホテル(水戸市)で経済講演会を開いた。日本原子力研究開発機構(原子力機構)発ベンチャーのエマルションフローテクノロジーズ(茨城県東海村)の鈴木裕士社長が、循環型社会の実現に向けてエマルションフロー技術の普及に挑む取り組みを講演した。当日は110人が聴講した。その様子を紹介する。
エマルションフローテクノロジーズ 社長 鈴木 裕士 氏/エマルションフロー技術の普及に挑む
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エマルションフローテクノロジーズ 社長 鈴木 裕士 氏 -
創業期を振り返る鈴木社長
私はエマルションフローテクノロジーズの鈴木裕士と申します。本日は、当社の創業に至る経緯、現在の事業と技術の内容、さらには今後の展望についてお話しします。
まず、私がこの会社を立ち上げるに至った背景についてお伝えします。私は2003年に、当時、日本原子力研究所、現日本原子力研究開発機構(原子力機構)に入構し、その後約15年にわたり中性子線を利用した材料評価の研究を続けてきました。原子力分野は、総合科学と言われるほど多様な技術が存在し、優れた研究成果が日々生まれる領域です。
しかし、その成果が社会で活用される場は限られ、研究が研究の中だけで完結してしまう課題を常に感じていました。特に安全性や公共性が求められる原子力分野では、成果が社会実装に至るまでに高いハードルがあります。「このまま研究成果が埋もれてしまっていいのだろうか」という思いが、私自身が研究者から支援者へ、そして起業家へとキャリア転換する契機となりました。
次に、私がビジネスの世界へ踏み出すために必要だった学びについて触れます。18年、私はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主催する教育プログラム「NEDO SSA(スタートアップ・サポーターズ・アカデミー)」に参加し、初めてベンチャービジネスを学びました。研究一筋だった私にとって、そこで語られるビジネス用語はほとんど理解できず、まさに“日本語ですらも理解できない”不思議な感覚でした。それでも必死に専門書を読み、講義を受け、事業創出の考え方を吸収していく中で「技術を社会につなぐ」という自分の役割が少しずつ形になっていきました。
その学びを原子力機構内に持ち帰った私は「イノベーションを生み出す研究所」を作るための仕組みづくりに取り組みました。原子力機構にイノベーション推進室を立ち上げるとともに、意見交換の場づくり、所内イベント、種まき資金の創設など、可能な範囲で試行錯誤を続けました。コロナ禍でオンライン環境が整ったことで、気楽に参加できるオンラインイベントの開催が容易となり、研究者同士が刺激を受けながらアイデアを育てる文化を醸成することを目指しました。
そうした中で、私は長縄弘親(現取締役CTO)と出会いました。長縄は、原子力機構内における約30年間にわたる原子力研究から革新的溶媒抽出技術エマルションフローを開発した人物です。彼は自身の技術を社会実装したいと願いながらも、企業などへの特許ライセンスを基本とした社会実装の仕組みではビジネス化が難しく、悩みを抱えていました。私はあるイベントで彼の技術説明を聞いたとき、「この技術はビジネスになる」と直感しました。エマルションフローを活用すれば、溶媒抽出の幅広い産業応用を阻害してきた従来技術の課題を解決できると、すぐに想像できました。
その後、長縄が茨城県主催のビジネスコンテストで発表を行った際、ベンチャーキャピタル(VC)の担当者が真っ先に手を挙げて質問をするのを聞いて、私の直感は確信に変わりました。一方で、当初私は「自分が社長になる」とは思っていませんでした。NEDO SSAで学んだことをベースに、長縄の研究成果をビジネスとして形にし、事業化まで伴走したいという意識が中心でした。
しかし、ある支援者から「最初から大きな目標をもって取り組めないならベンチャーなんかやめた方が良い。いろいろな人に迷惑をかけることになるのだから」と強く指摘されたことをきっかけに、中途半端な支援ではなく、自らが創業を担う覚悟を固めました。
創業準備を進める中で、私自身が学んだのは「積み上げ型ではなく、バックキャストで考える」というスタートアップの基本姿勢です。つまり“最終的に地球規模の課題を解決する企業になる”という大きな目標を先に置き、その目標から逆算して成長シナリオを描くという考え方です。私はこの視点の重要性に気づき、最終的に自らが経営を担うことで事業の推進力を生み出すべきだと判断しました。
こうして21年4月、長縄を含む創業者4人で「エマルションフローテクノロジーズ」を設立しました。創業時はわずか4人でしたが、現在は約36人まで仲間が増えています。技術開発、事業開発、コーポレートなど、多様な専門性を持つメンバーが加わり、会社の成長を力強く支えています。
環境汚染物質の回収・除去/高純度・高回収率を実現
続いて、当社の技術と事業について説明します。当社の基盤技術「エマルションフロー」は、油や水といった互いに混じり合わない液相間の溶解度差で目的成分のみを選択的に抽出する溶媒抽出技術の一つです。従来の溶媒抽出法では、混合した油と水の分相のために大きな設備が必要で、それゆえにコストが膨らむという課題がありました。
長縄が開発した技術は、この「混ぜる」と「分ける」という相反する現象を同時に実現することを可能にし、溶媒抽出装置の小型化・高効率化を実現しました。これは分離・抽出技術において大きなブレークスルーであり、金属リサイクルから環境汚染物質の回収まで、溶媒抽出の多様な応用が期待されます。
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PFAS処理について説明する鈴木社長
特に現在力を入れているのが、リチウムイオン電池(LiB)に含まれるレアメタルの回収と「PFAS(有機フッ素化合物)」と呼ばれる環境汚染物質の回収・除去です。電気自動車(EV)の普及に伴いレアメタル(希少金属)需要は急増し、サプライチェーン(部品供給網)の安定化が世界的な課題となっています。エマルションフローは高純度・高回収率を同時に満たすプロセス構築に適しており、当社は既に1000リットルスケールの装置開発まで完了しています。
PFASについては、欧米を中心に規制が強化され、企業の環境責任が問われる時代になっています。しかし、PFASを高効率で回収し、濃縮して処理できる技術は世界的にも限られています。当社技術は濃縮倍率が極めて高く、従来の活性炭吸着や膜処理では回収が難しい条件でも性能を発揮します。さらに、濃縮後の焼却プロセスと組み合わせることで、二酸化炭素(CO2)排出削減にも貢献できる点が評価されています。
事業面では、日本国内に加えて海外展開も加速しています。欧州や北米では規制強化を背景に引き合いが強く、外部パートナーとの連携や海外展示会の出展を通じて技術発信の機会を広げています。創業から4年半で累計20億円以上の資金調達を実施し、投資家からの信頼も高まっています。茨城県からは「いばらきイノベーション大賞」などの表彰もいただき、地域の産学官連携の後押しを強く感じています。
「技術の光」最大化 「影」を最小限に
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技術を茨城から世界に発信する…と決意する鈴木社長
また、私が強く意識しているのは「技術の光と影」を同時に見据える姿勢です。リサイクルの普及が進めば、生産国で働く人の仕事が失われる可能性もあります。技術革新は必ず負の影響を生みます。だからこそ、私たちは単に“良い技術”を作るだけでなく、社会全体への倫理的影響も含めて、すべてに責任を負う必要があると考えています。「誰一人取り残さない技術革新」を実現するという理念は、当社が大切にしている根本的な価値観です。
当社が目指す未来の一つに、原子力の世界への“回帰”があります。原子力分野では、性能だけでなく安全性と信頼性が極めて重視されます。当社技術が民間市場で実績を積み、企業や自治体で確かな成果を示すことができれば、いずれ原子力分野でも信頼される技術基盤として活用されるはずです。さらにその先には、SMR(小型モジュール炉)の再処理工程など、世界的に需要が高まる領域で貢献できる可能性があります。
最後に、地域との連携について触れます。茨城県東海村には当社の本社兼ラボを構えていますが、これは村から土地をお借りできたことが大きな追い風となりました。また、県内企業との共同開発や製造支援は、スタートアップにとって欠かせない連携です。PFAS対策では環境省の実証事業に採択され、今後は各自治体での導入も想定されます。こうした地域連携は、技術の社会実装を加速する上で極めて重要な基盤です。
私たちは、原子力研究から生まれたこの技術を、茨城から世界に発信し、持続可能な未来をつくる一翼を担いたいと考えています。エマルションフロー技術が社会課題を解決し、資源循環と環境保全を両立する仕組みを広げていくことで「技術の光」を最大化し、「影」を最小限にすることを目指してまいります。
