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茨城県産業
将来の飛躍に向けて挑戦を続ける茨城県産業界。原材料やエネルギー価格の高騰を受けて景気の先行きには不透明感が漂うものの、中長期的の経営基盤強化を見据えた人材育成や、新規事業創出を目指す取り組みが官民で着実に進展している。今回の「茨城県産業特集」では、大井川和彦茨城県知事のメッセージのほか、県内の企業立地動向、県内の国立大学の動向や大手企業の地域貢献などを10ページにわたり紹介する。
成長分野の県内企業立地が加速
茨城県では、半導体や次世代自動車関連などの成長分野における企業立地が進展している。首都圏に近いことや、高速道路網を中心とした交通インフラの充実などの優れた立地環境が評価されているうえに、全国でもトップクラスの優遇制度が企業の進出を後押ししている。このほど東京都内では、茨城の産業立地の魅力を伝えるセミナーを開き、計512人が参加するなど企業からの関心の高さも伺える。茨城県の企業立地に注目が集まる。
交通インフラ充実/全国トップクラスの優遇制度
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セミナーに詰めかけた参加者へ茨城県の魅力を自らPRする大井川和彦知事
茨城県は東京都内のホテルで「いばらき産業立地セミナーin東京」を11月21日に開いた。将来的な新工場建設予定地を模索する大手製造業の担当者などが参加した。壇上では大井川和彦茨城県知事が「スピード感を重視して民間企業の皆さまの声に応えていく」とあいさつ。知事自ら企業にトップセールスを行った。
先端産業の誘致に向け、半導体業界に焦点を当てたプログラムを用意した。ICT向けの市場調査、データ分析などをするインフォーマインテリジェンス(東京都千代田区)の杉山和弘コンサルティングディレクターは半導体産業の概要を国の施策や大手IT企業の傾向を交えて紹介した。
杉山ディレクターは「半導体産業は政府の積極的な投資も後押しして急成長している」と説明。茨城県の半導体関連企業の集積については「10月時点で85社が立地している。人材の集まりやすさが重要で、東京との近接性が効いている」と解説した。
また茨城県内に工場を構える半導体産業の企業を代表して、レゾナック研磨材料事業部の近藤誠一事業部長が半導体産業の収益性について、他産業との比較も交えながら講演した。近藤事業部長は「半導体産業は営業利益率が高く高付加価値製品を生み出せる。利潤を次世代投資にも回しやすい」と市場の魅力を力説した。このほか県の担当者が工業団地や高速道路、空港、港湾などの交通網についても説明した。
県は企業立地に向けた独自の優遇制度を手厚く用意して誘致を促す。半導体や次世代自動車などの成長産業について、県外からの本社機能の移転整備に焦点を当てた「本社機能移転強化促進補助」は、建物の建設や設備の購入のための費用の一部を補助する。そのほか立地企業が使う電気について、料金の一部を補助する制度や、課税免除が受けられる特例も企業にアピールする。
半導体や次世代自動車などの成長産業以外でも、最近では、積水化学工業が、二酸化炭素(CO2)を原料とした高付加価値化学品の製品化の実証実験について、ひたちなか市内で2027年1月から着手すると発表した。既につくば市に「先端研究・技術開発の中核基地」としてR&Dセンターを持ち、茨城県内でさまざまな社会課題の解決に挑戦している。またパンの具材などとして使うフィリング(詰め物)製造大手のソントン食品工業(東京都江東区)は、茨城中央工業団地の笠間地区(笠間市)に製造拠点を建て、業務用カスタードクリームの生産体制を強化する。
経済産業省の調査によると、23年は県外企業立地件数が47件に達し、7年連続で全国1位となったほか、工場立地件数は前年比25・0%増の75件で、3年ぶりに全国1位に輝いた。
新たな産業用地確保 ニーズに対応
新たな用地整備にも積極的だ。常陸那珂工業団地(ひたちなか市)の拡張地区では、北関東自動車道や大型貨物船も接岸できる茨城港常陸那珂港区の近くで、計61万平方メートルの整備が進行中。フロンティアパーク坂東(坂東市)でも、順次公募を予定する。各市町村の産業用地整備を促す「未来産業基盤強化プロジェクト」では、下妻市や日立市の事業に対して部局横断的な支援をする。産業用地の確保を早め、高まる企業の立地ニーズに対応する。
高付加価値化学品 実証実験/積水化学工業
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先端技術を生み出すR&Dセンター(茨城県つくば市)
積水化学工業は、社会課題の解決に向けた取り組みを進めている。二酸化炭素(CO2)から高性能な化学品の原料を生み出す実証実験について、茨城県ひたちなか市内で2025年1月に建設を始める。またつくば市内には研究開発拠点を持ち、フィルム型のリチウムイオン電池(LiB)やCO2回収・有効利用の技術(CCU)の研究開発を行ってきた。茨城県から国内外に広まる先端技術が生まれている。
カーボンニュートラルに向けたポリマー原料の生産では、ひたちなか市と東海村が共同利用する廃棄物の処理センターの敷地内に実証実験棟を新設する。処理センターから、ゴミの焼却で発生したCO2が実証実験用プラントに直接送られる。
その後は微生物を使いながらポリマー原料に変換して樹脂を作り出す。事業を担当する小野世吾主管研究員は「石油由来の樹脂にはない、生物由来ならではの特徴も見えてきた。実用化することで(樹脂の)ケミカルリサイクルが生まれる」と自信を見せる。
この高付加価値化学品をはじめとした同社の先端技術を生み出すのが、R&Dセンターだ。実用化が進むペロブスカイト太陽電池のほか、樹脂基板の表面処理などに使われる大気圧プラズマの発生装置も手がけた。1987年に前身の応用電子研究所として設置以来、積水化学工業のさまざまな事業領域の発展に寄与してきた。
ひたちなか市を実証実験の場所に選んだ理由について、候補地選定に携わった髙島浩之グループ長は「自治体の後押しがあったことが大きい」と振り返る。互いの密なやり取りを通じて、信頼感を得た。将来につながる技術開発を加速させる。
製菓・製パン向けフィリング生産/ソントン食品工業
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フィリング製造を続ける石岡工場(茨城県石岡市)
ソントン食品工業(東京都江東区、石川紳一郎社長)は製菓・製パン向けの業務用フィリングの生産拠点を茨城県笠間市内に新設する。需要の高まりに合わせ、2028年4月の本格稼働を目指す。投資額は土地代で15億4000万円。同社生産本部長の上田義宗取締役は「業界シェアを伸ばし、さまざまなお客様へフラワーペーストが届くようにしたい」と熱を込める。
新工場の敷地面積は10万平方メートルで、建屋や生産ラインなど具体的な計画は未定。茨城県が用地を整備中で26年3月に土地が引き渡され、その後に着工する。現在製菓・製パン向けの業務用フィリングの主力製品であるフラワーペーストは、石岡工場(同石岡市)と大阪工場(大阪府茨木市)で製造している。これらの生産能力を高めて余力を増やし、現工場の生産設備の更新なども視野に入れる。
フラワーペーストは、小麦や油脂を材料にしたペースト状の材料で、クリームパンの中身などとして、大手製パンメーカーから中小事業者まで幅広く使われる。顧客の要望に応じて味や粘度を変えて提供する。新工場の従業員は、石岡工場からの異動も含めて計100人程度を計画する。
ソントン食品工業は、親会社のソントンホールディングス(HD)の製造会社。食用パンに使う家庭用のジャムやクリームでも知られる。ソントングループとしては1942年にピーナッツバターの製造で創業した。
ソントングループの24年3月期の売上は328億8400万円で、その半分ほどが業務用のフラワーペーストだ。今後も「新規顧客獲得などを進め、フラワーペーストの業界シェアを伸ばしたい」(上田取締役)と強調する。