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茨城県産業
将来の飛躍に向けて挑戦を続ける茨城県産業界。原材料やエネルギー価格の高騰を受けて景気の先行きには不透明感が漂うものの、中長期的の経営基盤強化を見据えた人材育成や、新規事業創出を目指す取り組みが官民で着実に進展している。今回の「茨城県産業特集」では、大井川和彦茨城県知事のメッセージのほか、県内の企業立地動向、県内の国立大学の動向や大手企業の地域貢献などを10ページにわたり紹介する。
特別シンポジウム 長寿企業に学ぶ『持続可能な経営モデルとはin茨城/茨城産業人クラブ経済講演会(「100年経営の会」共催)
茨城産業人クラブ(高橋日出男会長=協立製作所会長)は11月25日、水戸京成ホテル(水戸市)で特別シンポジウム(長寿企業イノベーション勉強会)「長寿企業に学ぶ『持続可能な経営モデルとは』in茨城」を100年経営の会との共催で開いた。創業100年を超える企業3社が登壇し、長寿経営をテーマにパネルディスカッションをした。また基調講演として、茨城県日立市を創業の地とする日立製作所から「日立グループ『創業の精神』の継承と発展」について講演。現地会場とオンライン視聴で計180人以上が聴講した。その様子を紹介する。
パネルディスカッション 登壇者・企業プロフィール
■モデレーター
静岡文化芸術大学教授 100年経営の会顧問 曽根 秀一 氏
■パネラー
関彰商事(茨城県筑西市)代表取締役社長 関 正樹 氏
会社概要…創業1908年。石油類販売、自動車販売、運送業など。第4回100年企業顕彰受賞
日本濾水機工業(横浜市南区)代表取締役社長 橋本 美奈子 氏
会社概要…創業1918年。セラミックフィルター・濾過機、水処理装置の製造販売。第4回100年企業顕彰受賞
岡田鈑金(東京都大田区)代表取締役社長 増田 武夫 氏
会社概要…創業1923年。各種産業機器の精密板金加工。第6回100年企業顕彰受賞
理念継承・顧客の信頼獲得・進化へ絶えず挑戦
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関彰商事 代表取締役社長 関 正樹 氏
曽根 創業理念の継承についてお伺いいたします。まず関彰商事の関様から。1908年の創業時から時代や環境の変化があった中で、創業者の理念や思いを継承しています。
関 直接教えを受けたというわけではありませんが、事業を続ける中で、意識せずとも先代社長の父に影響を受けたと思います。きちんと過去のことを学んだうえで、その上に自らのやり方で挑戦して、新しいものを築いていく。その繰り返しでした。
曽根 ありがとうございます。日常から学んできたという点を教えていただきました。続いて日本濾水機工業の橋本様にお伺いします。創業者が薬剤師で、菌に汚染されない衛生思想の普及に努めたとのことです。現代にも通じる社会課題への挑戦にも見えました。その創業理念は、どのように継承されているのでしょうか。
橋本 社会をよりよくしたい思いは社是の中の「社会文化の向上に寄与するものを作る」に反映されています。当社に入社する社員の多くは、理念に共感し、何らかのかたちで社会の役に立ちたい思いを持って入社してきます。社内の意識調査では、当社の経営理念に対する共感度の項目が非常に高いです。社員に深く浸透していると考えています。
曽根 これも非常に大事なことですね。コロナ禍で、より注目された理念の浸透について語っていただきました。続いて岡田鈑金の増田様にお伺いします。板金加工は「100年間変わらないコア事業」とのことでした。モノづくりでは近年、短納期やコスト対応など高い要求に応えないと顧客を失う厳しい世界と伺っております。顧客を失わないという点で、創業以来の思いや、経営方針をお聞かせください。
増田氏 モノづくり通じ社会に貢献
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岡田鈑金 代表取締役社長 増田 武夫 氏
増田 当社は、日立様はじめとしたメーカー様のサプライヤーという立場です。当社の経営理念には、「全社員の幸福を追求するとともに、お客様の期待を超えるモノづくりをお届けすることで社会に貢献する」とあります。これを実現するために「付加価値の高い板金製品とサービスを提供し、お客様の開発・製造課題を共に解決すること」で、社会に貢献してお客さまの信頼を得て、成長していきたいと考えています。
曽根 顧客という話。なぜ100年続いているのかということに関して従業員というところ、あるいは地域社会を網羅されているようなお話だと思いました。続いては事業の多角化について教えていただきたいと思います。関彰商事はエネルギーから始まり、今は自動車販売や介護施設運営などにも乗り出しています。事業を進める判断軸をお教えください。
関氏 社会課題見据え事業化判断
関 先代から引き継いだ事業も多いですが、常にその事業が時代や近未来の社会課題に正しく合っているのかを考えています。どの事業を伸ばすのか、どの事業を縮小するのか。会社として変えるべきところと変えてはいけないところを決めて社員に示すことが大事だと思います。また、ファミリービジネスも資本家の立場となるのか、経営に参画するのか、事業執行に就くのかをあいまいにせずに社内に伝える。事業の進め方や企業理念も含めて考えていきたいです。
橋本氏 顧客の困り事解決に応える
曽根 橋本様はいかがでしょうか。
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日本濾水機工業 代表取締役社長氏 橋本美奈子 氏
橋本 これまで先代たちが窯業、機械加工業、プラントエンジニアリング業と発展させてきました。私は地道にお客さまの困り事の解決に向き合ってきた結果だと理解しています。さまざまなマーケティング分析もしていますが、最終的にはお客さまの困り事やニーズを考え続け、そこに技術で応えてきたのだと思います。
曽根 ありがとうございます。他方で岡田鈑金様は、一貫して板金加工の世界で生き抜いてこられました。社内一貫生産というものを掲げられております。その特徴についてお教えください。
増田 私たちの会社は東京都大田区生まれです。80年代頃までは工場から自転車で行ける距離に、さまざまな協力工場さんが多く立地する恵まれた環境でした。しかし88年に茨城に進出して周りに必要な協力工場さんが見当たらない環境に変わり、お客さまの多様な要望に応えるために必要な板金のバリューチェーンの構築に取り組みました。大田区の仲間の職人を招き技術指導を受けたほかM&A(合併・買収)を通じて、お客さまの課題を解決しながら自社の生産技術や設備投資も進めました。
曽根 こちらの話も非常に重要なお話だと思います。経営学の分野で「川上から川下まで」という話があります。一貫体制だからこそ全体を見通せる強さについて勉強できました。続いては現在の課題についてお伺いします。わが国は労働人口不足、あるいは資源高騰などあらゆる業界に共通する社会課題を抱えています。どのように対応されているかお教えください。
関 地方企業では特に人手不足が深刻だと捉えています。当社でも直近の新卒採用のエントリー数は、2021年頃と比較して半分ほど。やはり地方になかなか新卒の方が来ないという課題があります。そのため外国籍の人材も含めて採用活動を進めています。まずは自社内の課題を解決し、その知見を生かしてお客さまにも提案する。ピンチをビジネスの機会として前向きに捉えています。
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静岡文化芸術大学教授、100年経営の会顧問 曽根 秀一 氏
曽根 進めておられる日本企業の現地インド・ベトナム人の採用の支援にも共通していますね。
橋本 当社も人材不足の問題には関心があります。特に若手の採用は厳しい状況です。国内の労働人口の減少は避けられず、それに応じて社内も省人化やロボットの導入などを検討しなければならないと思っています。資源価格の高騰も突き詰めれば人件費が根底にあります。当社のお客さまには大手企業が多い状況です。価格転嫁に向けたお願いを地道に積み重ねています。
増田 私どもも同じく人の問題に困っています。自動化、省力化できる工程に関しては最先端のものを導入しています。私どもは少量多品種の製品を手がけていて自動化が難しい状況です。そこで外国人人材を積極的に活用しています。当社で製造を担当する200人のうち55人は、特定技能や技能実習生です。経験が浅くても使えるような最先端の設備を導入して工夫を重ねています。
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多くの聴講者が講演に耳を傾けた
曽根 ありがとうございました。続いては長寿企業としての自社の強みについてお伺いします。今日まで皆さまの企業が生き残ってきた最大の強みを表すとしたら、どのような考え方が挙げられるでしょうか。
関 本業から離れ過ぎなかったことが挙げられます。もちろん事業は多角化していますが、あくまでも祖業のエネルギー事業が軸です。それにお取引先さまを含め、お客さまに恵まれたということも大きいです。これから新しいことを始めるとしたら「何をするか」ではなく、今グループ全体で「どういうお客様とお付き合いをしたいか」を考えます。今後の成長を目指す上で、お客さまとどのように出会うかを考えていきます。
橋本 当社もやはりお客さまや協力会社はじめ、皆さま非常に優良企業が多いと思っています。それが本当に貴重な財産で非常に恵まれています。それも先人たちの信頼関係のもとに成り立っています。そのような関係性が至るところでリンクして長寿経営に繋がっていると思います。
増田 私たちの最大の強みは、常にチャレンジし続け、本業に対して一貫して投資をしてきたことだと考えています。創業から100年間にわたりコアコンピタンス(中核となる能力・技術)の板金加工を中心とした事業展開をしてきました。現在は塗装や組み立てなどの板金加工の関連分野にも注目しています。お客さまの多様な要望を的確に捉え、応える仕組みを進化させてきたことが私たちの強みであり、存続のカギだと考えています。
関氏 「自社の棚卸し」で理念再考
曽根 貴重なお話をありがとうございました。最後に「次の100年」についてお伺いします。これからさらに100年を考えるときに、どういったところが重要なのかお聞かせください。
関 これから複雑な時代になっていくときに一つの会社だけでお客さまの課題を解決することは難しく「どういう会社と一緒に組んでいけばいいか」が大切になると思います。まずは強みと弱みを明確にして組む相手を分かりやすくするために「自社の棚卸し」をしたいと考えています。また企業理念そのものも含めて再考し、次の世代に申し送りたい。これまで関彰商事というバックボーンがあり、さまざまな人に支えられてきた。その状況を良いかたちで次の世代に繋ぎたいと強く感じています。それが今の自分の原動力にもなっています。
橋本氏 「200年企業」へ世界市場視野
曽根 橋本様はいかがでしょうか。
橋本 私が入社した時点で創業から既に90年以上たっていました。100年を迎えるのはもう確実な中で、私は「200年続く企業」を目指しました。当然200周年のときに私は居ませんが、きちんと引き継いで、その時を迎えられる会社にしたいと思っています。当社では「世界に誇る分離・濾過技術でいのちを支える」をビジョンに掲げています。世界中と取引できるような活動をしていこうという思いを込めています。分離・濾過技術は、さまざまなところで使われています。注射液のような医療関係をはじめ、微生物を使ったバイオインダストリーなどの地球環境問題に資する分野でも伸びています。世の中が安心して暮らせるような社会につながる仕事をしていきたいと思っております。
増田氏 コア事業の板金 さらに進化
増田 当社は経営理念の「従業員の幸福を追求するとともに、お客様の期待を超えるモノづくりをお届けすることで社会に貢献する」を軸に、次の100年に向けた挑戦を続けています。コア事業の板金加工をさらに進化させて、より難易度の高いお客さまの課題にも積極的に挑戦し、信頼されるサプライヤーの頂点を目指します。最先端の設備投資や効率化、品質向上だけでなく、新たな分野も挑戦していきたいと考えています。また、次世代に向けた準備も進めると同時に従業員一人ひとりが成長を実感できる環境作りにも力を入れています。次の100年もお客さまや社会に愛される企業であり続けることを目指します。
曽根 皆さまが「本業を軸にして地域や顧客の方々にどう応えていくのか」という考えをお持ちだと思いました。本日は大変貴重なお話をありがとうございました。