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地球環境
再生エネ・省エネ技術、新たな動きと課題
資源の多くを輸入に頼る日本にとって、省エネルギーや再生可能エネルギーへの取り組みは経済や産業の持続可能性に関わる課題だ。再生エネ電源としてペロブスカイト太陽電池や洋上風力発電が注目されるが、その導入にはコストが課題となっている。省エネ分野では生成AI(人工知能)などの普及による電力需要の増加を見越し、消費電力を大幅に削減するサーバーなどの実用化が進む。一方、生物や植物由来のバイオマスを活用して、環境性能や強度なども併せ持つ新素材の開発も盛んだ。多くの企業のさまざまな努力で、環境負荷低減への取り組みが強化されつつある。
太陽光発電に柔軟性
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大阪・関西万博のバス停の屋根に設置されるペロブスカイト太陽電池
第7次エネルギー基本計画(エネ基)では、2040年度の電源構成として再生可能エネルギーで4-5割程度(23年度実績は22・9%)という野心的な計画が示された。中でも23-29%程度を占める太陽光は、薄型かつ柔軟な次世代型のペロブスカイト太陽電池の早期社会実装を明記した。
4月に開幕する大阪・関西万博では、積水化学工業のフィルム型ペロブスカイト太陽電池を搭載したバス停屋根が西ゲート交通ターミナルに設置され、夜間の発光ダイオード(LED)照明としての活用を予定している。
洋上風力、課題を克服 海外と組み規模拡大
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再生エネ主力電源化の切り札とされる洋上風力発電(イメージ)
また、洋上風力発電を「再生エネ主力電源化に向けた『切り札』である」と位置付ける。太陽光発電設備の設置がかなり広がってきた中、今後の再生エネの拡大は洋上風力への期待が大きい。
ただ、洋上風力は世界的な建設コストの上昇により〝クライシス〟と言われるほどの困難に直面している。電気事業連合会の林欣吾会長は、「インフレや供給網の先細りなどから洋上風力発電は厳しい状況にある」と話す。
発電大手のJERAは厳しい事業環境を乗り越えるため、英BPと洋上風力発電事業の統合を決めた。子会社を通じ9月末をめどにBPと50対50の出資比率で新会社「JERA Nex bp」を設立する。開発中を含む総持ち分容量は世界4位の約1300万キロワット規模となる。規模拡大によって競争力を高める狙いだ。
浮体式本命、コスト減急ぐ
一方、日本の海は沖合に出て水深がすぐ深くなるため、風車を海に浮かせる「浮体式」の実現が重要だ。この方式のコスト低減検討も急がれている。海上工事に実績のある建設会社などは24年6月、「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合」を設立した。浮体式の大量導入やコスト低減に向け、海上施工全体の最適化に取り組む。
横浜市と東京電力パワーグリッド(東京都千代田区)、海上パワーグリッド(東京都港区)、戸田建設、三菱UFJ銀行は1月、関東近海沖に浮体式洋上風力発電を設置し、発電した電力の横浜市臨海部へ送電する共同検討を開始した。送電ケーブルではなく蓄電池を載せた電気運搬船で電気を運ぶ想定だ。
コスト競争力は今後の検討結果次第だが、技術や適地、制度などを一気通貫で検討できるメンバーがそろったことで、前進が期待される。
消費電力8分の1のサーバー商用化
今後、AIの普及やデジタル変革(DX)の進展によるデータ処理量の急増で、消費電力の増大が懸念されている。
科学技術振興機構(JST)によると、国内にあるデータセンター(DC)の消費電力量は30年に、東京都の電力需要量の75・8テラワット時を突破し、50年には22年度の日本全体の電力需要量902・8テラワット時を超える恐れがある。
こうした中、NTTは26年にも光通信技術を用いた次世代の通信基盤「IOWN(アイオン)」を用いて消費電力を従来比約8分の1に抑えられるサーバーを商用化。大阪・関西万博のNTTパビリオンで公開する。
万博で実装するサーバーは来場者の感情に応じてパビリオンを変化できるよう、パビリオン内を撮影した数十台のカメラ映像をAIでリアルタイム分析するために用いる見込みだ。
サーバーはキーデバイスとなる「光電融合デバイス」を実装。これにより、演算処理を行うチップ内の配線を電気から光に置き換えることで、消費電力を大幅に抑制する。
新素材で省エネ貢献
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旭化成のCNFなどを活用した3Dプリンターの造形品例
大手化学メーカーでは環境負荷低減や省エネルギーに貢献する素材開発が盛んに行われている。化学メーカーはグローバルで、さまざまな環境に関わる規制や顧客ニーズなどを踏まえた対策を講じる。その取り組みはバイオマス化や消費エネルギーの削減、リサイクルに関わる技術開発と幅広い。
三菱ケミカルグループはバイオマス原料の活用を注力分野の一つに位置付ける。植物由来のポリカーボネートジオール「ベネビオール」は、設計の工夫などで品質の高さを維持しつつ、バイオマス比率を高めたグレードの提供を開始。ポリウレタン製品やポリエステル製品に柔軟性や耐久性などを付与できる植物由来ポリオール「バイオPTMG」は、加平(大阪府泉佐野市)の合成皮革に採用された。バイオPTMGは「顧客ニーズも一部出てきており、今後は未利用の植物由来(非可食)の開発も目指す」(三菱ケミカル)という。
一方、旭化成は綿花の種子周りに残る産毛であるコットンリンターを再利用したセルロースナノファイバー(CNF)を生かす。伊アクアフィルと協業し、同社のケミカルリサイクル(CR)ポリアミド6「エコニール」と旭化成のCNFを組み合わせた3次元(3D)プリンター用樹脂材料を開発する。環境性能や強度などを併せ持つ素材として、25年から日本や欧州、米国で先行して提供を開始する考えだ。
環境負荷の低減に向けては、エネルギーの効率化も重要な点だ。例えば、自動車の窓枠材料などに使われるエチレンプロピレンゴム(EPDM)関連。三井化学は塗膜防水用途を想定し、耐摩耗性などを高めたEPDM「VNB-EPT」を使った常温硬化EPDMコーティング材などを提案する。耐候性が特徴で、同コーティング材を対象物に塗ることによってメンテナンスの頻度が下がるなど、省エネルギーにつながると期待する。
省エネに寄与する素材では、住友化学が開発する半導体向け窒化ガリウム(GaN)基板もその一つだ。GaN基板にGaNエピタキシャル層を形成するGaNオンGaNエピウエハーなどを通じ、生成AIの普及で電力消費量が増えるデータセンターの省エネ化に貢献する。
「縦型でないとできないデバイス構造がある」(住友化学)ため高耐圧・高出力といったニーズに対応できるとみており、大口径化の開発にも取り組んでいる。