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地球環境
建設会社が使用済み紙おむつリサイクルのわけ
使用済み紙おむつには多くの水分が含まれるため、焼却処分時に多くの二酸化炭素(CO2)を排出し環境に負荷をかけている。一方、原料の上質パルプは再生可能であるだけでなく、おむつに付着した排せつ物(汚泥)も利用可能だ。こうした取り組みが建設会社の新規事業コンテストから生まれ、緑化事業として展開されようとしている。
紙おむつリサイクル、資源循環の可能性と課題
厚生労働省の人口動態統計月報の速報値からの推計で、2024年の出生数は70万人を下回り、統計のある1899年以降最少となる見通しだ。少子化加速の一方で、内閣府の高齢社会白書によれば65歳以上人口が総人口に占める割合は29・1%で、高齢化の傾向は高まっている。これに呼応して、赤ちゃんの紙おむつ使用量は減少しているが、大人用紙おむつの使用人口・量ともに増加。今後、要介護人口の増加が見込まれることもあり、20年に145・6万トンだった大人用の使用済み紙おむつ排出量は、30年には年間約180万トンになるとの推計だ。
現状では使用済み紙おむつは焼却処分されることがほとんどだが、国も後押ししてリサイクルの取り組みが進んでいる。紙おむつの原料は上質パルプやフィルム、吸水性樹脂で、これらの素材を再生利用できれば資源の有効活用になる。
おむつについた排せつ物には植物の栄養となる窒素やリンも含まれる。これらは肥料の原料となるが、現在は主に輸入に頼っているため、国内の廃棄物を活用できればと、下水汚泥からの肥料製造の動きもある。
処分コストの削減につなげようと、一部の自治体では使用済み紙おむつの分別回収と再生利用が行われている。しかし分別回収には人員や手間など課題もあり、多くの自治体はまだ実施に至っていない。
東急建設、新規事業構想で持続可能な地球環境目指す
東急建設は、イエバエを使った有機廃棄物処理技術を持つムスカ(東京都中央区)と、使用済み紙おむつのリサイクル企業のトータルケア・システム(福岡市)と共に、使用済み紙おむつを活用したオーガニック培養土の生産を目的とした研究を始めた。
この事業は、東急建設が本業に次ぐ新たな収益の柱づくりを目標として21年から社内で開催している新規事業アイデアコンテストで選出された。廃棄物を活用した緑化事業の展開を目指すとともに、地球上の植物・動物の持続可能性を考慮していることから、このプロジェクトは「地球動物園」と呼ばれる。ムスカとトータルケア・システムはこうした事業構想に共感し参加を決めたという。
まずトータルケア・システムが水溶化処理によって紙おむつを分別・脱水し、取り出したパルプやプラスチックは建築資材の原材料として再生利用される。一方、おむつに付着していた排せつ物は微生物で分解され、肥料成分を含んだ汚泥になる。脱水された汚泥をムスカがイエバエを使って発酵させ肥料化し、有機培養土にする。
トータルケア・システムによると、現状では汚泥の脱水の際に肥料成分となる窒素やリンが水に溶けて流れ出る場合があるという。同社の山田陽三工場長は「脱水の技術を高めて汚泥に肥料成分を残すことができれば、これまで以上の水の浄化につながる。また、質の高い有機肥料の原料を提供できるように努力したい」と意気込む。
ムスカはこれまでバイオマス・アップサイクル事業を通じて自然との調和や環境負荷の低減を目指してきた。今回の地球動物園とはそうした基本理念を共有していることから「人間の社会活動の活発化によって発生する廃棄物の増大と処理などの環境問題の解決に向け、この取り組みを通し、たとえ小さくとも着実に実績を積み重ね、事業の輪を広げていきたい」(同社)と力を込める。
緑化で本業とシナジー
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青葉台東急スクエア屋上で「クラピア」という緑化植物を植えて実験した(東急建設提供)
この培養土の実証実験を、東急建設系列会社が運営する商業施設「青葉台東急スクエア」の屋上で実施。通常の培養土と比較したところ、植物の生育状況は同程度だったことから、肥料登録の申請をした。
東急建設は生産された培養土や緑化基盤材を用いて緑化工事を施工するなど、本業とのシナジーも想定している。今後さらに実証を進め、26年度の事業化を目指す。
環境省は使用済み紙おむつのリサイクルについて、廃棄物処理の合理化に加え、地域の資源循環促進、子育て世帯などの紙おむつ利用者・関係者の負担軽減など、地域課題の解決に貢献しうる重要な取り組みと位置付ける。さらに30年度までに取り組みの実施・検討を行った自治体の総数を100まで増やそうと、情報提供や自治体・事業者を支援する。