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工作機械産業
[3面] 金属AMの“作りながら品質保証”
【執筆】 東北大学 未来科学技術共同研究センター 兼 島根大学 先端マテリアル研究開発協創機構 特任教授 千葉 晶彦
金属積層造形(AM)の実用化では、造形欠陥の抑制に加え、量産での再現性確保が課題となる。造形中の画像・形状・装置ログをAI(人工知能)で解析し、欠陥兆候や品質指標を推定して条件を補正する「作りながら品質保証」が注目される。特に後工程検査の制約が大きい部材では、こうした取り組みが手戻り低減と開発期間短縮に直結する。ここでは、その枠組みと、粉末表面の酸化皮膜やガス捕捉欠陥など材料起点の要因まで含めた統合的な品質保証の考え方を紹介する。
造形中データ×AIで推定・補正 粉末起点の欠陥も抑制
AMの社会実装が進む一方、粉末床溶融結合(PBF)方式では溶融・凝固、粉末供給、熱履歴が複雑に絡み合い、ポロシティー、未溶融、酸化物介在物などの欠陥をゼロにしにくい。高信頼部材では欠陥が疲労・耐熱強度の保証を難しくし、適用範囲を制約する。欠陥の発生を抑え込めたとしても、材料ロット差、粉末劣化、装置状態、形状差により結果が安定せず、次段の課題として再現性(バラつき低減)が残る。AMを量産工程に組み込むには、欠陥レス化と再現性の両面で、経験則に依存しない品質保証の仕組みづくりが欠かせない。
大型・高信頼部材ほど「後検査」が限界に
疲労強度や耐熱強度など性能保証が前提の部材では、品質保証のハードルが一段高い。航空機、エネルギー、自動車、医療などでは微小欠陥が寿命や信頼性に直結する。一方、大型・複雑化するほどX線CTなど造形後検査は難しく、コストとリードタイムも増大する。そこで、造形中に品質を推定し、必要に応じて補正する工程内保証がカギとなる。なお、ここでは欠陥抑制を第一段、次段の「品質」を熱履歴で不均一になりやすい組織と特性の再現性と位置付け、狙い通りにそろえることを次のハードルとする。
造形中に欠陥を検知し、補正で未然に抑える—“監視”から工程内QA(推定→補正→記録)へ
工程内保証の中核は、各層の天面画像、形状(高さ)情報、装置ログなどを蓄積し、AIで欠陥兆候や品質指標を推定する枠組みである。異常兆候を捉えた時点で出力・走査条件の変更やリメルトに介入し、その判断根拠を記録してトレーサビリティーを担保する(図1)。加工工程でいえば、in—situ(インサイチュ)監視とフィードバック制御を統合する発想に近い。こうした仕組みを現場で運用可能な形に落とし込むには、どの計測データがどの品質指標に結び付くのかを整理し、判断の基準と介入の方法を標準化することが重要になる。
天面画像DBが品質推定の土台に
その土台となるのが天面画像データベース(DB)である。造形条件を系統的に振った試験片について光学像・高さ情報を取得し、相対密度、内部欠陥(CT)、粗さ指標などとひも付けて学習データを整える(図2)。天面に現れる溶融痕や凹凸、未溶融由来の兆候は、内部欠陥や密度低下と相関を持つことが多い。オペレーターが経験的に「表面の乱れ」を警戒サインとして見てきた現象を、データとして扱える形にし、推定と補正の根拠に変えることが狙いだ。
粉末起点の要因が供給安定性と欠陥に直結
ただし工程監視だけでは不十分で、PBFでは粉末表面状態が供給安定性から欠陥形成まで連鎖的に影響する。粉末流動性は粒度や球形度に加え、粉末表面の酸化皮膜と電気的特性(抵抗、帯電量、帯電緩和)にも左右され、静電凝集を介してリコート挙動や粉末床品質(平坦性・充填密度)を不安定化させる。
ステンレス(SUS304)ではガスアトマイズ(GA)粉末の酸化皮膜厚が約18・9ナノメートル、プラズマ回転電極(PREP)が約11・4ナノメートルと差が確認され、厚い酸化皮膜ほど電荷が残留しやすく、供給断続や粉末床品質悪化を招きやすい。リサイクル粉末でも酸化膜増大などが流動性低下に寄与するとの指摘があり、材料側管理を品質保証の一部として設計する必要がある。
酸化物介在物、ガス捕捉欠陥:材料側の“種”を減らす
粉末表面の酸化皮膜は酸化物介在物の起源にもなり得る。電子ビーム粉末床溶融結合式(EBM)は真空環境を用いるためレーザー粉末床溶融結合式(SLM)に比べて追加的な酸化を抑えやすい。一方、粉末表面に由来する酸化物は方式差だけでは根本的に解決しにくい。レーザー方式で問題となる高温スパッターの酸化や粉末表面酸化物の再配置・凝集でマイクロメートル級酸化物が形成され得るため、投入粉末の酸化皮膜が厚い、あるいは酸化物が多い場合、欠陥の“種”が材料側に残り続ける。工程条件を最適化しても材料起点のリスク要因が大きいと、欠陥リスクをゼロに近づけるのは難しい。さらに、製粉ガスが粉末内部に捕捉される欠陥は工程側だけで根本的に解消しにくく、粉末段階で「ガス捕捉欠陥が少ない粉末」を選別・使用すること自体が品質保証の一部となる。
生成AI・LLMで「探索」や「説明」を補う
AI活用は予測にとどまらない。造形条件から天面画像を生成する生成モデル(条件→像)と品質推定モデルを組み合わせれば、試験造形回数を抑えつつ条件探索を高速化できる(図3)。PBFはパラメーター空間が広く、材料や形状が変わるたびに条件出しが膨らみがちだが、探索の高速化は開発期間短縮と再現性向上に直結する。また大規模言語モデル(LLM)を併用し、判定と根拠の言語化を同時に行えば、現場導入で課題となる説明性を補える。将来的には異常層のみの再溶融など、閉ループ制御への接続も視野に入る(図1)。
マルチスケール×学習で“高速解析”を補完技術に
プロセス解析と学習を組み合わせた「高速解析」も有効だ。マクロ計算の温度場・熱履歴を起点に、超解像で解像度を補い、学習ベースのサロゲート/生成モデルで高速化してミクロ量(組織・表面高さ)を推定する。推定結果は実造形品や3次元(3D)ミクロ計算との照合で妥当性を検証し、品質予測や条件探索へ展開できる(図4)。計算と実データを往復しながら、工程設計と品質保証の精度を上げていく考え方だ。
粉末—工程—データを一体設計する段階へ
AMの品質保証は、条件最適化に依存する段階から、粉末—工程—検査—データを一体で設計する段階へ移りつつある。工程内の推定・補正に、粉末表面の酸化皮膜制御やガス捕捉欠陥の抑制を重ね、検査の後追いを減らして不良低減を工程内で回すことが実用化のカギとなる。欠陥抑制と再現性確保を同時に進める「作りながら品質保証」は、AMを“試作技術”から“生産技術”へ引き上げるための基盤になる。
K ProgramでEBMの統合型実装を加速
これらの取り組みは、2018年から23年度の次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)関連事業の知見を基盤に、24年度開始の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「経済安全保障重要技術育成プログラム」(通称K Program、課題名「全面統合型次世代金属積層造形技術の開発」)で加速している。「全面統合型」とは、粉末・造形プロセス・造形中データを同時に設計し、工程内で品質を担保できる統合システムとして成立させる考え方である。
同事業は電子ビーム積層造形装置(EBM)を対象に、真空環境を生かした造形安定性などレーザー積層造形装置(SLM)にはない特徴を前面に出し、適用拡大につなげる。EBMは酸化の影響を受けにくいプロセス設計が可能で、粉末状態や条件変動の影響を抑えやすい。反り・残留応力、量産再現性の観点でもSLMユーザーの課題に対する別解になり得る上、造形後検査の制約が大きい高信頼・大型・肉厚部材で工程内品質保証と組み合わせた展開を見込む。プロジェクトには東北大学のほか、日本積層造形、日本電子、先端力学シミュレーション研究所が参画する。
