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工作機械産業
[2面] 加工準備工程を変える3DCAD/CAM
デジタルが開く切削加工現場のスタンダード
【執筆】 ゼネテック ES事業部 エンジニアリング開発部 部長 池田 陽一
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ゼネテック ES事業部 エンジニアリング開発部 部長 池田 陽一
近年、切削加工で重要な役割を果たしている3次元(3D)コンピューター利用設計・製造(CAD/CAM)システムについて解説する。CAD/CAMはCADで製品を設計し、CAMでその設計を基に数値制御(NC)プログラムを作成する。NCプログラムはマシニングセンター(MC)などを動作させるための制御プログラムである。今回は3Dに対応した3DCAD/CAMの重要性や効能、運用上の課題と解決に導く次の技術動向について解説する。
製造現場が直面する課題と3DCAD/CAMの重要性
製造業、とりわけ切削加工を中心とする工作機械の現場では、これまでの常識が急速に通用しなくなっている。多品種少量生産の増加、短納期要求の強まり、精度保証への意識の高まりなど、これらは単体でも大きな負荷だが、同時多発的に進んでいる現状では、従来の経験と勘に頼る生産体制では対応が難しくなっている。
その中でも特に負荷が集中しているのが「加工準備工程」である。設計意図の読み取り、加工プロセスの検討、工程設計、段取り指示、ツールパス(工具動作の定義)の作成などが属人化しており、担当者の熟練度に依存して品質が揺らぐ現場が多くなってきている。特に複雑形状や高精度が求められる部品では、設計者と加工準備者の認識ズレが手戻りの原因となることもある。
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図1 3DCAD/CAMの画面
近年、こうした課題を解消する基盤となっているのが3DCAD/CAMだ。世界最多のインストール数を持つMastercam(マスターキャム)をはじめ、さまざまな3DCAD/CAMが現場に普及し、加工準備工程の効率化を支えている。
3Dモデルは形状そのものが情報を持ち、2次元(2D)図面では伝わりにくい形状も完成された状態で次工程に引き継ぐことができる。ツールパス生成はもちろん、加工意図の共有、シミュレーションによる品質確保までを一つの流れに統合するため、設計の意図がそのまま加工で生かされる(図1)。
3Dデータがもたらす“正確さ”と“スピード”
3Dモデルは、平面、凹み、突起、角度、厚み、曲面、穴、フィレット(製品形状の辺の丸み)、面取りなどの形状情報を内包している。これにより、加工準備者が図面を見て頭の中で立体を再構築する必要がなくなり、理解の正確性とスピードが大幅に上がる。理解の差が減ることで、初品不良の減少や段取り時間の短縮が期待できる。
自動解析と加工戦略の最適提案
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図2 シミュレーション画面 -
最新の3DCAD/CAMは、3Dモデルの自動解析精度が大幅に向上している。例えば、粗加工では負荷が一定となるツールパス、曲率に応じた送り速度の調整、5軸加工で工具姿勢を自動最適化する機能などが搭載されており、3Dモデルから最適解を導ける仕組みが整っている。
コンピューターの演算速度も飛躍的に向上した。黎明期には一晩かけて翌朝に結果を確認するような運用も珍しくなかったが、現在では同時5軸加工のような高度な加工の演算も短時間で完了する。
ツールパス作成後はシミュレーションで干渉をチェックでき、実加工での工具破損や治具干渉などのリスクを大幅に低減できる。安全性と信頼性が向上し、品質保証面でも効果が大きい(図2)。
3DCAD/CAMの性能向上により、生産量の平準化や加工品質の安定を実現。さらに、取引先との情報伝達を迅速化し、内製化の促進や外注費削減など、企業や組織の経営面の改善にも貢献する(図3)。
それでも残る“運用の壁”と現場の葛藤
3DCAD/CAMは高機能であるがゆえに操作が複雑で、担当者の習熟度に大きく依存する状況がある。結果として“一部の担当者しか扱えない”という問題が生じ、むしろ属人化が強まることすらある。
3Dデータ運用ではルール整備が不可欠である。更新手順や加工意図の記載方法、ファイル管理が曖昧なままでは手間が増大し、データ不整合を招くことになる。運用最適化が伴わなければ、導入効果は十分に発揮されない。
材料のクセ、切削音での判断、摩耗予測などといった熟練者の経験を含めた暗黙知は、データ化されにくい領域である。しかし、加工履歴や改善点を蓄積し続けることで、CAD/CAMは“自社特有の加工ノウハウの蓄積装置”となり得る。この形式知化こそが、属人化からの脱却と長期的な競争力の源泉につながる。
先進技術が現場にもたらす革新
カスタマイズ・AI(人工知能)・クラウド・IoT(モノのインターネット)などの先進技術が現場にもたらす次の革新として、以下が挙げられる。
①ユーザーの環境や運用に合わせたカスタムCAMによるフルオートメーション
最新の3DCAD/CAMの中にはカスタマイズが可能な製品がある。例えばマスターキャムは、顧客の加工プロセスに合わせた自動化システムを開発している。
加えて、豊富なポストプロセッサーにより多種多様な工作機械に対応し、同時5軸加工や複合加工機向けの高度なツールパス生成にも標準で対応している。こうした仕組みを活用することで、完全なオートメーションCAMシステムを目指すことも可能である。
②AIが熟練者の判断を学習・再現
AI技術は加工形状の自動認識、加工条件推定などに応用され、CAMにおいても熟練者の判断プロセスを再現することが将来予想される。これは属人化解消の大きな武器となるはずである。
③高性能計算(HPC)で高速安定処理
超並列演算処理が可能なコンピューターを用いたツールパス計算により、複雑形状5軸加工の演算が大幅に高速化した。
④クラウド対応によるロケーションフリーの実現
拠点間のデータ共有やバージョン統一も容易であると同時に、場所にとらわれず多くの人材を確保できることから、人材不足や地域による就業機会の偏在解消にもつながる。
⑤IoTによるフィードバック型モノづくり
設備データ(負荷・摩耗・振動・温度)をリアルタイムで収集しCAMに反映することで、加工条件の最適化、工具寿命予測、不具合の早期発見が可能になる。
⑥機上測定と連携した製品品質の向上
機上測定の工程設計・生成はCAMの標準機能になると予想される。加工結果の計測データに基づく予測と再加工を自動で繰り返し処理することで、人手による微調整を不要にし、高精度な製品加工を実現する。
3DCAD/CAMが支える、これからの製造現場
3DCAD/CAMは、もはや単なる加工プログラム作成ツールではない。設計意図の正確な伝達から、加工戦略の最適化、シミュレーションによる品質保証、さらにはAIやIoTとの連携によるフィードバック型モノづくりまで、その役割は拡大を続けている。
一方で、その効果を引き出すには、現場の運用設計と暗黙知の形式知化が欠かせない。デジタル技術は熟練者の代替ではなく、その経験と技術を次世代に継承するための仕組みである。
導入から運用最適化まで一貫して支援できる正規代理店やディストリビューターの存在も、3DCAD/CAMの効果を最大化する上で重要な選択基準となる。先進技術の進化と現場の運用力、この両輪がそろったとき、3DCAD/CAMは製造現場の“共通基盤”として、モノづくりを支えていく。
