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地球環境特集
2025年は国連の「氷河の保護の国際年」。25年から3月21日が「世界氷河デー」に定められた。5月にスイス南部のアルプス山脈で氷河の崩壊による大規模な土石流が発生したように、気候変動により世界中の氷河が融解し災害を引き起こしている。20億人以上が淡水として氷河と雪解け水に依存していながら、2050年までに氷河の3分の1が消滅する可能性があると予測される。また、気候変動や生態系の破壊などに関連して大規模な山火事も増加している。将来の世代に豊かで美しい自然や生態系を残すためには、世界的に気候変動を抑制して地球環境を保護する行動を起こすことが急務となっている。今回は自然写真家の関戸紀倫氏によるメッセージのほか、研究者や企業のさまざまな取り組みを紹介する。
リサイクル
サーキュラーエコノミーにおけるマテリアルリサイクルの役割と課題/難処理プラ問題 解決へ
【執筆】 全日本科学技術協会 事業推進部 事業統括部長/理事 齋藤 太郎
日本は“リサイクル後進国”になりつつある。世界がサーキュラーエコノミー(循環経済)にかじを切りだす中、3R(リデュース・リユース・リサイクル)推進で成功を収めてきたわが国では、その対応が遅れている。循環経済実現に向けて特に障壁となるのが、容器包装類に代表される、高機能な複層素材の存在だ。このいわゆる「難処理プラスチック」問題解決を目的に2022年、高度マテリアルリサイクル研究会が発足した。活動開始から3年がたち、具体的な解決策も見えてきた。
分別困難な高機能複層材
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全日本科学技術協会 事業推進部 事業統括部長/理事 齋藤 太郎
「海のプラスチックゴミが2050年までに魚の量を超える」—。16年、世界経済フォーラム(ダボス会議)でのエレン・マッカーサー財団による発表は世界に衝撃を与えた。近年では同財団が提唱した「サーキュラーエコノミー」という循環経済システムが各国で推進されるようになり、わが国も内閣府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「サーキュラーエコノミーシステムの構築」が解決すべき課題の一つとして設定されている。わが国は3Rを核とした廃棄物削減「リサイクルエコノミー」において世界でも先進的な成果を収めてきたといわれてきた。しかし、そもそも廃棄物や汚染を発生させないことを前提とした「サーキュラーエコノミー」の視点においては、実は世界から後れている部分が少なくない。その一つが廃プラスチックの処理だ。
国内のプラスチックリサイクルの半数以上はサーマルリカバリーと呼ばれる「エネルギー回収」や「熱回収」だが、これらは新たな製品の原料として循環できないことから世界的にはリサイクルとは見なされない。これらを差し引くと日本のリサイクル率は経済協力開発機構(OECD)加盟国34カ国の中で下から5番目である。
循環型社会基本法においても原則として熱回収よりもリユース、マテリアルリサイクルが優先されると定めているが、モノからモノへリサイクルするマテリアルリサイクルもわが国ではほとんどが海外へ輸出されてきた。近年は各国が輸入禁止にかじを切りだしたため、このままでは行き場を失った廃棄物が国内に大量に堆積されることが明白だ。
わが国においてプラスチックのマテリアルリサイクル比率向上を難しくしているのは、容器包装類に代表される、高機能な複層素材の存在といえる。賞味期限延長、臭気移行防止などの機能を満たすために高度化された素材は分別が極めて困難なためだ。
「指定ごみ袋」自治体と実証
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再生材を利用したゴミ袋の試作品
高度マテリアルリサイクル研究会はこのいわゆる難処理プラスチック問題に着目し、その課題解決と社会実装の仕組み構築を目的に22年に発足した産学官連携の研究会だ。全日本科学技術協会(JAREC)が中心となり、技術課題のみならず、社会受容性の醸成において障壁となる仕組みや制度、慣習といった本質的な課題にも目を向け、自治体や国との対話を行ってきた。
そのような活動の中で自治体の「指定ごみ袋」における新たな基準づくりの動きにつながった。現在、各自治体で「指定ごみ袋」を導入する際には日本産業規格(JIS)への準拠を求められることが多いが、同規格は再生材を対象とした設計になっていない。そのため「ごみ袋」としての機能が担保できる場合でも指定袋にするのは現実的には極めて困難だ。そこで、その障壁を取り除くための実証実験を25年度中に自治体と行う見込みだ。
農林水産物残さの活用
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二つの猪口を手軽に持ち運べる「NINJA BALL」 -
また同研究会では難処理プラスチック処理問題だけでなく、地域固有の農林水産物残さの課題解決にも挑んでいる。これまでに千葉県の落花生殻を使ったスケートボード製作や、福井県の「越前がに」の殻を有効利用したアートプロジェクトなど、その地域における特産品由来の残さに新たな価値を与え、地元での消費を促そうとする「地産地消型」資源循環を推進してきた。
この一環として4月にリリースされた製品が“NINJA BALL”だ。二つの猪口(ちょこ)を手軽に持ち運べるこの「モバイル猪口」は、酒販店などでも販売されるやいなや、大きな反響を呼んでいる。
誕生のきっかけは、コメ栽培過程で処理に困るもみ殻をどうにかできないかという、ある自治体の課題からだった。「コメ由来の廃棄物なら、コメから造られる酒を飲むシーンで生かせないか」というアイデアが始まりだ。約1年かけて議論や試作を重ね、農林水産物の残さをはじめさまざまな素材を活用した、表情豊かなバリエーションが楽しめる今の形になった。
海外需要を見込んでのデザインと名称であったが、意外なことに20—30代女性の購入が目立ち、日本酒の飲み比べイベントなどでも重宝されているようだ。また、アジア圏を中心に、来日外国人からも人気だ。
研究会活動も4年目に突入し、これまでよりもさらに社会受容性を強く意識した活動にシフトしていく。本活動が少しでもわが国における循環型経済実現に向けた意識醸成に貢献することを願いたい。
【執筆者プロフィール】
齋藤 太郎(さいとう たろう) 大学卒業後、大手住宅設備メーカーなどを経て現在に至る。高度マテリアルリサイクル研究会の発足に携わり、現在も発起人の一人として活動している。
