-
業種・地域から探す
続きの記事
地球環境特集
2025年は国連の「氷河の保護の国際年」。25年から3月21日が「世界氷河デー」に定められた。5月にスイス南部のアルプス山脈で氷河の崩壊による大規模な土石流が発生したように、気候変動により世界中の氷河が融解し災害を引き起こしている。20億人以上が淡水として氷河と雪解け水に依存していながら、2050年までに氷河の3分の1が消滅する可能性があると予測される。また、気候変動や生態系の破壊などに関連して大規模な山火事も増加している。将来の世代に豊かで美しい自然や生態系を残すためには、世界的に気候変動を抑制して地球環境を保護する行動を起こすことが急務となっている。今回は自然写真家の関戸紀倫氏によるメッセージのほか、研究者や企業のさまざまな取り組みを紹介する。
製造業の省エネルギー
急がれるモーターの効率化
製造業では生産効率の向上と併せてエネルギーの消費抑制に対するニーズが一層高まっている。特に産業機械や装置の動力源となるモーターの消費電力は、世界の消費電力の半分を占めるほど大きく、その効率化はさまざまな現場で課題となっている。ここに大きく切り込むため、従来以上に低損失を徹底的に追求したモーターとインバーター制御の導入拡大が急がれている。
消費電力低減 生産性向上へ/「ウルトラプレミアム」水準、メーカー競う
モーターはその多くがポンプや送風機(ファン)、圧縮機など各種産業機器などに組み込まれて工場や商業ビルなどで使われている。産業用モーターは日本だけでも1億台が稼働していると言われ、実際に電気代を負担するモーターを組み込んだ機器の最終ユーザーに至るまでには、産業界のさまざまなサプライチェーン(供給網)が関わる。
モーターの効率レベルは国際電気標準会議(IEC)で規定され、世界各国で普及する製品を決める効率規制が行われている。現在、日本では2015年4月に開始した規制の「IE3」レベル(プレミアム効率)の普及が進む。
各産業分野で省エネ製品の普及促進を目的とした「トップランナー制度」に産業用モーターを加える形で導入されたもので、IE3より効率レベルが低い「IE1」や「IE2」からの置き換えが推奨されている。
こうした中、主要モーターメーカー各社では、さらに2段階上となる“ウルトラプレミアム効率”と呼ばれる「IE5」規格モーターや専用インバーターの組み合わせ制御による、世界最高水準の省エネを追求した提案が活発化している。
IE5レベルでは、モーターの構成部品であるローター(回転子)がステーター(固定子)の回転磁界と同期している「同期モーター」が多く採用されている(図)。ローターに強磁性の鉄心を使用する「リラクタンス形」、強力なネオジム磁石を用いる「永久磁石形」などに分類される。
海外、日本市場アプローチ/規制に先駆け製品拡充
-
豪州の食品冷凍工場ではIE5クラスのモーターを圧縮機に取り付け、エネルギー消費量を年間14%削減した(ABB提供)
国内外のモーターメーカーは効率規制に先駆けてIE5ラインアップ拡充を図っている。そのうちの1社であるスイスのABBは、現在稼働中の世界の産業用電気モーター駆動システムを、IE5とインバーター制御などで最適化された高効率システムに置き換えると、世界の電力消費量は最大10%削減できると推定。グローバルでの採用実績などを紹介し、日本市場に刺激を与えている。
IE5までの高効率なモーターへの置き換えは、モーターのユーザー側となるセットメーカーやその先の最終ユーザー層までも含めて、サプライチェーン上の多様な層に理解が求められる。導入費は従来のIE3までのモーターより高価になることから、長期間稼働による省エネ効果で費用を回収することが必要だ。
モーターメーカー各社の関係者は「日本市場は時間がかかりそうだが、省エネ効果を丁寧に説明しアプローチしていく」「世界に供給する有力なモーターメーカーが複数ある日本市場こそ、高効率モーターを率先して採用するトレンドをつくっていかなければならない」と強調する。
産業のエネルギー効率化が果たす重要な役割をあらためて認識し、産業界でのさらなる省エネ推進への広がりを作るまで、粘り強い取り組みが必要とされている。
