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地球環境特集
2025年は国連の「氷河の保護の国際年」。25年から3月21日が「世界氷河デー」に定められた。5月にスイス南部のアルプス山脈で氷河の崩壊による大規模な土石流が発生したように、気候変動により世界中の氷河が融解し災害を引き起こしている。20億人以上が淡水として氷河と雪解け水に依存していながら、2050年までに氷河の3分の1が消滅する可能性があると予測される。また、気候変動や生態系の破壊などに関連して大規模な山火事も増加している。将来の世代に豊かで美しい自然や生態系を残すためには、世界的に気候変動を抑制して地球環境を保護する行動を起こすことが急務となっている。今回は自然写真家の関戸紀倫氏によるメッセージのほか、研究者や企業のさまざまな取り組みを紹介する。
再生可能エネルギー/再生可能エネルギー導入のポテンシャルと拡大に向けた課題
【執筆】 自然エネルギー財団 常務理事 大野 輝之
脱炭素化へ 自然エネ開発加速
第7次エネルギー基本計画は温室効果ガス(GHG)削減目標を達成するために、2040年までに電力部門をほぼ完全に脱炭素化するシナリオになっている。自然エネルギーが4—5割、原子力が2割、「ゼロエミ火力」が3—4割を供給する目標だ。一方、24年に世界全体で導入された発電設備の9割以上は自然エネルギー電源だった。脱炭素目標の達成には、日本でも太陽光発電や風力発電がもっと大きな役割を果たせるのではないだろうか。
太陽光、目標達成へ設備3倍に
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自然エネルギー財団 常務理事 大野 輝之 -
第7次エネ基の40年目標では、太陽光発電が23—29%程度を担う最大の電源になる。太陽光の供給割合は現時点では10%程度だから、目標達成には発電設備を現在の3倍程度まで拡大する必要があるし、原子力やゼロエミッション(排出ゼロ)火力の不確実さを考慮すると、4倍近い導入が求められそうだ。太陽光発電の年間導入量は、15年には11ギガワット程度に達していたが、近年では6ギガワット程度まで減少している。期待されるのは、年間の導入テンポを3倍近くまで高めることだ。
ここで参考になるのはドイツである。太陽光の導入量は10年代当初には各年7—8ギガワット程度だったのが、15年頃には2ギガワット以下になっていた。ところが20年代に再加速が始まり、23年、24年には各年16ギガワットという大幅な導入を実現した。ドイツの電力規模は日本の5—6割だから、16ギガワットは日本では26ギガ—30ギガワットに匹敵する規模だ。
この再加速を可能にしたのは、許認可手続きの簡素化、付加価値税の免除、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)と補助金の拡充、州レベルでの建築物への設置義務化など総合的な対策を導入したことだ。特筆すべきは、新規導入量の6割が屋根置きなど、建築物に設置された太陽光発電だという点である。ベランダなどにも取り付けられ、家庭のコンセントに接続するだけでいい「プラグインソーラー」も急速に普及している。
洋上風力で首都圏支える
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垂直型の太陽光パネルを設置した田んぼで酒米を栽培
日本でもこの4月からは、東京都と川崎市で一部の新築住宅への太陽光パネル設置義務化が始まった。ペロブスカイト太陽電池の活用も含め、建築物への設置を加速する政策の強化を進めるべきだ。耕作放棄地を活用し農業再生に寄与するソーラーシェアリングも全国で好事例が拡大中だ。垂直型パネルの利用も進んでいる。建物設置、農業と共存する太陽光発電だけでも、日本の全電力をまかなうポテンシャルがある。
もう一つ日本での自然エネルギーの豊かな可能性を示すのは、洋上風力発電である。既に促進区域、有望区域を合わせて10ギガワット程度のプロジェクトが進んでいるが、さらに広がりを見せている。象徴的なのは、6月末に伊豆諸島でいっぺんに五つの準備区域が位置づけられたことだ。東京都は今年改定したゼロエミッション東京戦略の中で、伊豆諸島海域でギガワット級の浮体式洋上風力発電ファームの実現を目指すとしている。
この地域には10ギガワット近いポテンシャルがあると見られる。電力の大需要地である首都圏に直接、大量の自然エネ電力を供給するこのプロジェクトは、脱炭素化だけでなく、この地域のデータセンター立地を支えるなど、今後の日本の経済成長にも極めて大きな意義を持つ。6月には洋上風力発電の開発を排他的経済水域(EEZ)まで拡大する再生可能エネルギー海域利用法の改正法が成立し、さらに大規模な開発が進むことが期待される。
【執筆者プロフィール】
大野 輝之(おおの てるゆき) 2013年より現職。前職の東京都では、ディーゼル車排ガス規制、排出量取引制度の導入など、国に先駆ける環境政策をけん引。10—12年に東京都環境局長、21―23年に東京都参与を務める。
