-
業種・地域から探す
続きの記事
地球環境特集
2025年は国連の「氷河の保護の国際年」。25年から3月21日が「世界氷河デー」に定められた。5月にスイス南部のアルプス山脈で氷河の崩壊による大規模な土石流が発生したように、気候変動により世界中の氷河が融解し災害を引き起こしている。20億人以上が淡水として氷河と雪解け水に依存していながら、2050年までに氷河の3分の1が消滅する可能性があると予測される。また、気候変動や生態系の破壊などに関連して大規模な山火事も増加している。将来の世代に豊かで美しい自然や生態系を残すためには、世界的に気候変動を抑制して地球環境を保護する行動を起こすことが急務となっている。今回は自然写真家の関戸紀倫氏によるメッセージのほか、研究者や企業のさまざまな取り組みを紹介する。
環境・エネルギー政策
排出量取引制度でGX推進/成長と脱炭素を両立
政府は2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現を掲げ、グリーン・トランスフォーメーション(GX)を推進する。5月に改正「GX推進法」が成立し、参加義務がある排出量取引制度「GX—ETS」の導入が決まった。「資源有効利用促進法」の改正も一体的に進め、GX推進の柱でもあるサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現を図る。脱炭素電源を主軸にした第7次エネルギー基本計画や、水素の社会実装を強力に進める「水素社会推進法」も整えた。
GX—ETSは政府が企業ごとに二酸化炭素(CO2)排出量の上限である「排出枠」を割り当てる。企業が排出量を減らして排出枠が余れば他社に売却できる。一方で、排出枠超過分は取引市場から調達する必要がある。枠の購入が負担となるため、企業に排出削減を促す効果が期待できる。
26年度の本格始動に向けて、7月から詳細な制度設計の審議が始まった。削減量などを数値化した「カーボンクレジット」使用に実排出量の10%分の上限を設定する方針で検討。「J—クレジット」と「JCMクレジット」を同制度で使えるようにする。
注目されるのは排出枠の決め方。余裕がある排出枠の設定では、企業に設備投資意欲が起きにくい。逆に厳しい枠を設定すると、企業はコストが増し競争力が低下する。設備投資による成長と脱炭素を両立するルールづくりが制度のカギを握る。同一製品の生産に伴う排出量の基準を設定して目標を決める「ベンチマーク方式」と、過去の排出実績から決める「グランドファザリング方式」を検討していく。
GX—ETSは直近3年間のCO2排出量の平均が年10万トン以上の企業に参加を義務付け、化石燃料の燃焼に伴って排出されるCO2が対象となる。燃料消費で発生したCO2の削減は難しいため、脱炭素型設備への投資を促す狙いもある。例えば水素や合成メタンへの燃料転換、高炉から電炉への更新などだ。排出量削減のために設備投資が活発になると、設備メーカーにはビジネス機会になる。
GX推進法と一体的に改正が行われた資源有効利用促進法では、プラスチックなど再生材の利用義務を課す製品を特定した上で、メーカーに利用計画と定期報告を義務付ける。また、解体・分別しやすい、長寿命化に資するといった要件を満たす製品設計を環境配慮設計として認定し、事業者への金融支援など優遇制度を設ける。資源の流出を防ぎ、サーキュラーエコノミー関連産業の育成を促す。
第7次エネ計画/再生エネが最大電源に
世界的に気候変動対策と産業政策を連動させエネルギー転換を産業競争力につなげる政策が打ち出される中、日本では2月に第7次エネ計画が脱炭素化に向けたGX戦略の「GX2040ビジョン」と一体的に示された。
第7次エネ計画では、初めて再生可能エネルギーが最大電源に位置付けられた。原子力も最大限活用し、脱炭素電源に主軸を置く。S+3E(安全性+安定供給・経済性・環境)の原則は維持。特定の電源や燃料源に過度に依存しないバランスの取れた電源構成を目指しつつ、脱炭素効果の高い電源を安定的に確保できる地域への産業集積などを促し、GX実現を目指す。
40年度の電源構成は再生エネ4—5割程度、火力3—4割程度、原子力2割程度とした。23年度に15%だったエネルギー自給率が40年度に3—4割に引き上がる見通しだ。
国産の再生エネの普及拡大と、技術自給率の向上を図ることは産業競争力の強化にもつながる。日本発のペロブスカイト太陽電池や、浮体式洋上風力などの開発・実用化が期待されている。
水素実装加速/発電・モビリティー展開
-
水素エネルギーを体感できる水素燃料電池船「まほろば」(岩谷産業提供)
脱炭素社会の実現に向けて、カギとなるエネルギーの一つが水素。日本は世界に先がけて水素に関する研究開発や実証実験を行ってきた中で、24年10月、水素の社会実装を強力に推進する「水素社会推進法」が施行された。
水素は使用してもCO2を排出しないクリーンなエネルギーだが、製造の際に化石燃料が使われる場合がある。同法では「低炭素水素等」を定義。水素を製造する際に排出されるCO2の量が一定以下、または「水素等」に含まれる合成燃料などの利用がCO2削減に寄与するものであることが定められた。国内の再生エネを利用して作ることもできるため、エネルギー自給率の向上にもつながる。
水素は既存燃料に比べてコストが高い。今後、大規模に活用していくには事業者の初期投資や運営費もかさむため、水素等製造事業者の事業計画を認定して資金補助などを行う。既存燃料に比べ割高な水素価格に対する値差支援を行うほか、液化やアンモニア製造の設備、貯蔵タンク・輸送パイプラインなどのインフラの整備にも資金援助が行われる。
水素の利用拡大で期待されるのが発電分野で、さまざまな技術開発や実証が行われている。大阪・関西万博会場(大阪市此花区)には、関西電力が液化天然ガス(LNG)火力の姫路第二発電所(兵庫県姫路市)で実証中の30%水素混焼で発電した電力が供給されている。30%混焼の場合、CO2排出は混焼しない場合と比べて10%削減できるという。関西電力は30年頃の混焼実現を目指している。
また岩谷産業は万博会場までアクセスできる水素燃料電池船「まほろば」を運航している。モビリティー分野では燃料電池車(FCV)やFCバス、FCフォークリフトが実用化されており、トラックや船舶などのFC化も期待される。まほろばは燃料電池による発電とプラグイン電力のハイブリッド動力のため、CO2排出量をゼロにできるほか、燃料のにおいがなく騒音・振動が少ないのが特徴。
