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埼玉県川口市
創立120年 歴史の重みと責任を胸に—川口鋳物工業協同組合
経営者が頼れる場所に
川口鋳物工業協同組合が2025年に創立120年を迎えた。1905年の設立以来、川口の地場産業を支えてきた鋳物業界の要として長い歴史を歩んできた。今後は組合企業のサポートをさらに強化して競争力を高めることで、川口鋳物の次の100年につなげていく考えだ。節目の年を迎えた入野純一理事長(不二工業社長)と佐々木正専務理事(佐々木鋳工所会長)に、現在の組合の姿とこれからの展望を聞いた。
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川口鋳物工業協同組合 理事長 入野 純一 氏 -
川口鋳物工業協同組合 専務理事 佐々木 正 氏
—創立120周年を迎えられました。率直なお気持ちをお聞かせください。
入野理事長 歴史の重みを感じ、先代の理事長や先輩方が築いてきた重厚な足跡に自然と頭が下がる。川口鋳物工業協同組合は、川口市の中でも最も古い業界団体の一つだ。歴史を守ることへの責任の重さを改めて感じている。
佐々木専務理事 これだけの年月、途切れずに続いてきたことは並大抵のことではない。危機も変化も乗り越え、各代の組合員が現場を守り続けてきたからこそ。今大事なのは、この先の10年、20年をどう描くか。節目ではあるが、むしろここからが正念場だ。
—組合の強みは。
入野理事長 加盟企業数は93社。最盛期の600—700社から減ったが、今残っている企業は規模は小さくとも、いずれも基盤が強く鉄やアルミニウム、銅などの鋳物材料に対応している。自社で手が回らない案件も組合内で引き受け合える体制があり、これにより地域内完結の産業構造が成立している。顧客に対しても「川口で完結できる安心感」が大きな強みだ。
佐々木専務理事 例えば当社で対応できない材質やロットでも、組合内の別の企業に頼める。これが川口の産地力。鋳物業が横連携しやすい業態であること、そしてそれを可能にする信頼関係があることが大きい。だから仕事が川口市外に流出しにくい。地域経済への波及効果は大きい。
鋳物職人を“稼げる職業”に/佐々木 氏
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1964年の東京五輪で使用されたオリンピック聖火台は川口市で製造された。写真はその6分の1スケールモデル
—現在の組合が抱える課題は何でしょうか。
入野理事長 「ヒト・モノ・カネ」、この三つが同時に不足しているが、特に深刻なのは“ヒト”だ。鋳物は難しい仕事で、すぐに一人前にはなれない。教える側にも技術と根気が求められる。今は「背中を見て覚えろ」という時代ではない。ITも活用しながら、体系的な教育を整えなければならない。また現在、仕事はあるのに人が足りず廃業するケースが出てきた。以前は「仕事がないからやめる」だったが、今は「仕事があるのに、作る人がいない」という逆転現象が起きている。これが現場の危機感だ。
佐々木専務理事 組合員の高齢化が進み、次の担い手が育たないと、組合そのものが維持できない。顧客からも「この会社、あと何年やれるのか」と見られてしまう。だから人材確保は経営の最優先事項。私は人材確保のため、あえて川口市を出て地方に工場を構えた。若者に長期で働いてもらうには、安定した仕事と生活基盤が必要だ。もう一度、鋳物職人が“稼げる職業”になる世界を築く努力が必要だ。
将来的に最も懸念しているのは「残土処理」だ。鋳物工程で出る産業廃棄物(鋳物砂・薬品等)は処理先が限られている。処理できなければ工場内に溜まって生産が止まる。今は組合で協同排出を一部実施しているが、処理業者の人手不足がさらに進めば引受先が無くなり、機能不全に陥る可能性がある。経営リスクとしても非常に大きい。将来的には、組合自らが処理体制を整えることも視野に入れるべきだ。
—海外情勢や円安といった外部環境の影響についてどのように見ていますか。
入野理事長 トランプ政権の関税政策の影響は、現時点では限定的。ただし取引先によっては納期延期など、じわじわと変化が出てきている。また円安は原料などを海外から仕入れている鋳物業界にとっては大打撃だ。一方で足元では価格転嫁が進んできている。
かつては「安ければ海外製でも構わない」という流れがあったが、海外鋳物の品質問題や物流コストの高騰で、国内回帰の動きが強まっている。だからこそ我々も“高品質で安定供給”という責任を果たす必要がある。
佐々木専務理事 国内回帰の流れもあるからこそ、我々鋳物業がしっかり品質と納期を守る体制を整えることが求められている。
—組合の役割は。
入野理事長 最大の課題は、後継者不在だ。鋳物業は採算性に課題があるうえ、設備投資のハードルが高い。このため、既存企業が撤退しないよう支援するのが組合の役割だと考えている。補助金情報の提供、申請書類作成の支援など、行政とのパイプを組合が担う。川口商工会議所は以前から書類作成支援など実施しているが、鋳物業に特化した支援は鋳物組合が担う必要があると考えている。「組合に入って良かった」と思える体制を整えることが急務だ。
情報をワンストップで提供/入野 氏
—次の100年への意気込みをお願いします。
入野理事長 組合の存在価値は「経営者が頼れる場」であること。技術、人材、設備、補助金、保険制度等あらゆる経営資源に関する情報をワンストップで得られる拠点にしていきたい。鋳物業に特化した支援を、地元で、仲間で行う仕組みを作ることが、次の100年につながる。
佐々木専務理事 鋳物屋が仕事を持ち、人を雇い、廃棄物処理にも困らない—そんな環境を整えるのが組合の使命。川口市の地場産業としての底力は、まだ十分にある。それを継続させるためにも、組合の役割は今後さらに重要になる。
