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兵庫・神戸産業界 特集
教訓・経験を糧に新たな明日へ/震災復興30年を振り返って・・・
“想定外”減らす対策重視/神戸市長 久元 喜造 氏
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神戸市長 久元 喜造 氏
1995年1月17日の阪神・淡路大震災の発生は、多くの神戸市民にとって予想だにしていなかった出来事で、甚大な被害を受けた。震災直後から神戸市は全力で被災者の支援にあたるとともに、災害に強い強靱な神戸を作ろうと強い決意を持って各プロジェクトに取り組んだ。
震災直後、地域によっては90ー100日もの間断水し、避難所も極めて悲惨な状況になった。水の確保の重要性を感じたことから翌96年から約20年の歳月と膨大な事業費を投じて、大容量送水管を整備した。これにより、神戸市民の12日間の生活用水を備蓄できるようになった。
また将来的に発生が予想される南海トラフ大地震とそれに伴う津波対策として防潮堤を整備し、23年に完成した。これを有効に機能させるため、水門を遠隔操作できるようにした。この機能の導入は、全国的に早いケースだったのではないか。このほかにも、多様な水害対策を行っている。
こうした対策を打つ理由は、阪神・淡路大震災が想定外だったことに尽きる。その反省と教訓の上に立ち、想定外を想定内に変えることを重視するようになった。計画的に着実に、かつスピード感を持って対応することを意識して。災害への対応力は相当強くなったと考えているが、それでも想定外のことは起こる。神戸市は24年発生の能登半島地震への支援として、職員を送ってきた。同地震での支援の経験を踏まえて、神戸市の災害時の対応を総点検している。
災害対応のテクノロジーの進化にも期待している。LINEを使って災害の被害状況を情報収集し、AIの判定を使いながら地図に落としていくサービスの提供を始めた。だが、地震の具体的な予知はできないという前提に立つべきと考えている。これは阪神・淡路大震災の大きな教訓だ。震災前は駿河湾沖での地震が取り沙汰されていたが、実際に大地震が起きたのは神戸だった。また神戸の対応を経験から言うと、震災前は土砂災害や高潮対策などに目が行っていて、地震対策は行っていなかったのは反省すべき点である。
24年10月末の新長田キャンパスプラザ完成により、震災の被害が大きかった長田区のまちづくりにめどをつけた。昼間人口において課題はあるが、夜間人口は震災前よりも上回ると見る。未来に向かって明るい希望が持てるのではないだろうか。長田区では空き家対策と合わせて、新しくビジネスを起こす若年層への支援事業「下町スタートアップ事業」も実施。これを地元の協力を得ながら、進めていきたい。
(談)
将来見据え、産業育成目指す/神戸商工会議所会頭 川崎 博也 氏
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神戸商工会議所会頭 川崎 博也 氏
阪神・淡路大震災の発生から30年を迎えた。政府の支援が十分でない中、神戸の経済人は地元復興へ強い信念で動いた。中でも、神戸製鋼所第14代社長を務めた当時の神戸商工会議所会頭だった牧冬彦氏、給湯器メーカーのノーリツを創業した副会頭の太田敏郎氏の2人の存在は大きかったと思う。牧氏は経済界の要求を地道に取りまとめ復興に挑み、太田氏は震災の犠牲者への鎮魂の意を込めた行事「神戸ルミナリエ」を始めるために多くの企業を個別に訪問し協賛を取り付けた。
98年には震災復興プロジェクトとして、神戸市内の人工島ポートアイランドを研究開発や医療、福祉などの複合拠点にする「神戸医療産業都市構想」が始動した。現在、理化学研究所など約360社・機関が立地し、約1万2700人がここで働く。
神戸医療産業都市などに深く関わってきた神戸経済界では、あらためてスタートアップを支援する動きが12月中旬に始動した。神戸の主要企業約70社の新規事業担当者などが集う「神戸イノベーション・コミュニティ」を設置し、スタートアップとのビジネスマッチングを進めていく。また神戸の起業家に対してサポート意欲がある「神戸イノベーション・リーダーズ」も複数人選び、アドバイスする仕組みも始めた。
大手企業は研究開発を一定規模で実施しているが、埋もれている技術もかなりある。これらの技術をスタートアップが活用する仕組みなども想定できる。医療産業と次世代エネルギー、循環型社会などをカギにしながら、神戸で次の産業を育成していきたい。きっちりとしたロードマップを描くことは今後の課題だが、神戸の潜在能力は高いと思っており、30年、35年ごろを意識した取り組みを進めたい。
25年4月、1万人規模を収容できる大型アリーナが完成するほか、神戸空港に国際チャーター便が就航するビッグイベントも控える。国際線の就航は神戸経済界の悲願だ。周辺自治体の首長や経済団体トップで構成し関西国際空港や神戸空港、伊丹空港のあり方を議論する「関西3空港懇談会」の場で、30年前後の国際定期便の就航を目指すこととなった。
今回の国際チャーター便の就航は、それに向けての大きな一歩。関空を補完する国際線の必要性を訴え続けてきたことが実った。神戸の活力の源になる若い世代が街に魅力を感じられるように、多様な場を提供し対話していきたい。
(談)