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中部の工作機械産業(2024年1月)
2024年は工作機械業界にとって、来たるべく好況に備える転換点となりそうだ。日本工作機械工業会の調べによると、23年の工作機械の年間受注実績は3年ぶりの減少となった。一方、中部の大手工作機械メーカーのトップらは、25年頃から市況は上向くとの見方で一致しており、24年はそれまでの過渡期と捉える。いずれ上向きに転換するであろう市況に対し、中部の大手メーカーは反転攻勢の時機を虎視眈々と狙っている。
中部の工作機械メーカー トップが語る24年の戦略(1)
工作機械市況ピーク25年/顧客に見合った製品提供
オークマ社長 家城 淳氏
―2023年に「寸法精度の安定性」と「エネルギー消費量の削減」の両立を自律的に行う工作機械を「グリーンスマートマシン」と定義し、市場への展開を始めました。
「これから人工知能(AI)の展開が工作機械業界にも加速していく。そこで重要になるのが、ベースとなる工作機械の精度がしっかり出て、安定加工ができることだ。加工する度に加工対象物(ワーク)の精度に大きなバラツキがあると、そのデータをもとに考察をするAIが正しい判断を下せない。モノづくりの中で自動化を進めるにせよ、人手による『精度出し』の作業が無ければ精度を出せない工作機械では、精度出しの作業が減らせず、自動化も進まない。グリーンスマートマシンは精度出しのための調整がいらず、短時間で出力できて精度のばらつきを抑えられる。加工物が変わるたびに調整する必要がなくなる。工作機械におけるAIの自動化の進展には、こうした機械が必要になる。それがグリーンスマートマシンの一番優れた点だ」
―日本工作機械工業会(日工会)が発表した2023年の工作機械の年間受注実績(確報値)は前年比15・5%減の1兆4865億1900万円でした。
「22年に比べると低いが、1兆5000億円レベルの受注高が悪い水準とは思わない。22年夏ごろから下降局面に入っていながら、23年がこの落ち込みでとどまったのは、底堅いということだ。業界全体の水準はまあまあだったが、地域や産業別には、まだら模様があった。例えば、米国であれば、航空宇宙分野で大型投資が続き、自動車も底堅かった。しかし、高金利のため中小企業は投資ができにくい状況だった。こうしたまだら模様が各国ごとにあり、産業ごとにもあった」
―24年の見通しは。
「自動車や半導体などさまざまな産業の波が高まり、工作機械の市況のピークが来るのが25年頃で、それまでの過渡期が24年と思っている。弱含みの市況の中、生産性を高め、25年に向けて準備をするのが24年になる。まだら模様の市場で、それぞれの業界ごとに見合った生産手段を提供するかが重要になる。例えば、電気自動車(EV)の生産現場では、従来は専用機を使ったラインが、5軸加工機などに置き換わっている。その時に、5軸加工機でもスループット(処理能力)が高く、調整をしなくても精度が確保できて、すぐに立ち上げられるスマートグリーンマシンが必要になる。それをグローバルに迅速に提供できる体制をつくる」
―AI関連の技術や知能化技術の開発のためにデジタル人材を育成したり確保したりする取り組みは。
「加工をしながら加工不良はしっかり止めたり、工具寿命を精度高く予測したりする技術を製品に展開するため、信頼感の高いAIを開発していく。そのために優秀なメカトロニクスのエンジニアがAIを学ぶリスキリングを進めることと、若手に集中教育をして、デジタル人材に育てる二本立てで人材確保を進めている」
国内外で受注残を早期解消/自動化ソリューション体制強化
ヤマザキマザック社長 山崎 高嗣氏
―2023年にインドに工場を開設しました。インド市場攻略の進捗は。
「受注高が計画を上回って推移しており、生産が追いついていない状況。24年の課題は、受注をいただいた分をコンスタントに届けられるレベルに生産能力を上げること。1カ月あたり40台の生産能力が目標だが、現状はその半分以下にとどまっている。人員の追加や部品の内製化など進めて、24年半ばまでには目標を達成したい。出来たばかりの工場で課題はいろいろあるが、生産量をこなすだけでなく、品質も納期もアフターサービスもしっかりした水準に高めて、リピート受注をもらえる工場にする」
―インド市場以外の課題は。
「23年に受注残の消化をかなり進めたが、相変わらず水準は高いまま。受注残の消化を促進して競争力のある納期を実現する。製品の納期は短いに越したことはない。半導体分野の市況の上向いてくると、受注高は一気に上がる。それに備えないといけない。また、大きな機械を要求される航空機分野の市場が忙しくなっている。多くの受注残を抱えたままだと、そうした生産に時間がかかる機械には手が付けられなかったり、納期がさらに長くなったりする問題が生じる。これから調子が上がってくるであろうお客さまや、上がりかけているお客さまの製品の納期が延びるのは、競争力を下げるリスクになる。それを最小限にするには、今の受注残を消化していくに尽きる」
―23年の受注は22年よりも微減でした。24年の見通しは。
「今の時点では保守的に見ている。調子が良くなっていくと見られる航空機や半導体や、中国を中心に盛んな電気自動車(EV)の分野の回復のペースがどの程度になるのかが不確定の要素だが、それらを除くと24年は23年からの横ばいを予想している。決して悲観はしてないが、順風満帆でもないと思っている。半導体の回復が早まれば、想定を上方修正するかもしれないが、今は横ばいと見て、仮に市況が落ち込んでも、受注高は当社の努力で横ばいをキープできるように計画を組んでいる。市況が予想より良くなっても生産スピードを高めることによって対応する」
―24年に注力する事業は。
「自動化に関するソリューションに携わる組織や人員を強化した。お客さまの要望をもとに、工作機械に加工対象物(ワーク)の搬送や計測といった装置も加えた生産ラインを作り、ターンキーという形にシステムアップして納める事業に力を入れていく。昨今のモノづくりにおける人手不足の問題から増えている自動化の引き合いに対するヤマザックマザックなりの回答となる。この事業は伸びしろが大いにあると思っている。また、EVの部品に適した製品の開発にも力を入れる。EVの部品加工の中には、今までの工作機械に、うまく当てはまらないものがある。それに適合した製品を作っていく」
アフターサービスを強みに/円筒研削盤の大型機を開発
ジェイテクト経営役員 佐々木 愼吾氏
―2023年の状況はどうでしたか。
「総じて調整局面だった。欧米は堅調に推移したが、国内が厳しかった。特に半導体やロボットといった好調を維持すると思われていた分野が減速した。ただ、明るい話も若干あった。例えば、エンジン作りを続ける姿勢を示しているインドでは、そこに我々の得意分野であるカムやクランクシャフト向けの研削盤が売れており、今後も期待できる」
―24年の見通しは。
「調整局面が続くだろう。25―26年頃に市況の波が上がると予想しており、24年はそこに向けての転換点と捉えている。また、昔に出荷したエンジン製造用の機械が更新時期を迎えているものが多くある。この更新需要をしっかり獲っていく。自動車エンジン向けの需要は落ちていくものの、船舶やバギーといった違う領域のモビリティー向けは底堅い。それも獲っていきたい」
―1月1日付で工作機械・システム事業本部長に就任しました。
「22年1月にジェイテクトに来るまでは、トヨタ自動車でアフターサービス全般の業務をしていた。主に海外市場を担当し、シンガポールと米国であわせて12年間駐在した。ジェイテクトに来てから初めの頃はアフターマーケット事業本部を立ち上げる仕事をし、22年7月から工作機械の営業の仕事も兼務するようになった」
―自動車業界にいた立場から見て工作機械業界の印象は。
「自動車とはずいぶんと違う商売と感じる。一品一品の値段が車よりずっと高く、使用する時間がかなり長い。だからこそ、アフターサービスを強みにしないといけない。本当にお客さまに喜ばれるアフターサービスを提供して、商品や価格だけでなく『アフターサービスもいい』という評価を得ることが、本当のリテンション(引き留め)につながる」
―新製品投入の計画は。
「22年から円筒研削盤『G』シリーズの投入を初めた。これまでに小型の『G1』と中型の『G3』を発売している。次はシリーズで最も大きな『G5』を開発する。これで円筒研削盤はフルラインアップとなり、ロール研削の分野など我々がアプローチできなかった市場でも戦えるようになる」
―23年4―9月期の決算説明会で刈谷工場(愛知県刈谷市)内で分散している自動車用電池の生産場所を集約することを表明しました。
「工作機械・システム事業本部はトヨタグループの中の役割として、電池製造設備の生産もしている。これまでは刈谷工場の随所の空いた場所で電池製造設備も生産していた。その能力を向上するため、刈谷工場における円筒研削盤の生産をグループ企業のジェイテクトグラインディングシステム(JGS、愛知県幸田町)に移管する。ジェイテクトとJGSで分担していた円筒研削盤の生産はJGSに一本化し、それで刈谷工場で空いたスペースに電池製造設備の生産ラインを集約する。これで生産効率を上げて、伸びていく電動化ニーズに応える」