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中部の工作機械産業(2024年1月)
2024年は工作機械業界にとって、来たるべく好況に備える転換点となりそうだ。日本工作機械工業会の調べによると、23年の工作機械の年間受注実績は3年ぶりの減少となった。一方、中部の大手工作機械メーカーのトップらは、25年頃から市況は上向くとの見方で一致しており、24年はそれまでの過渡期と捉える。いずれ上向きに転換するであろう市況に対し、中部の大手メーカーは反転攻勢の時機を虎視眈々と狙っている。
中部の工作機械メーカー トップが語る24年の戦略(2)
製造現場で複合加工機ニーズ増加/高レベルの技術力、コストで対応
中村留精密工業社長 中村 匠吾氏
―2024年の見通しは。
「今は国別より業界単位で先行きを見ている。不透明な状況もあったが、半導体分野、航空機業界は安定していて、加えて電気自動車(EV)関連の話も出てくるなど伸びる産業がはっきりとしている。その中で工程集約に適した複合加工機を求める製造現場が増加傾向にありチャンスは多い。ただ、これらの顧客の需要は高度化していて、応えるためにはこちらも高いレベルが必要になるが、当社にとってこれは良い環境なので、挑戦を続けていく」
―国内外の展示会で高い注目を集めました。
「昨年9月に開催の『EMOハノーバー2023』では、スピードをコンセプトにした新シリーズの旗艦モデル『WY―100V』を先行出展した。搭載した新技術『クロノカット』は、油圧バルブ品の加工事例では加工時間の30%短縮を実現した。高評価を受け開催期間中には10台以上の受注を獲得した。その後も引き合いは続いている。続いて同年10月の『MECT2023』での製品プレゼンテーションの時間帯には通路まで来場者が埋まるなど良い注目を受けた。そのほか自動工具交換装置(ATC)型複合加工機『JX―200』は、幅広い素材のワークを多様な加工・工法を用い、長時間の安定した多品種少量生産を1台の機械で行える。会場では自動車関連などの相談件数が目立った」
―昨年10月に新工場が本格稼働しました。
「第11、12工場と組み立て工程を3つの工場にまとめ、一気通貫にすることで会社全体の生産効率を引き上げるのが目的。合わせて刃物台の共通化などモジュール生産も行い、短納期対応も可能になった。既にリードタイムの短縮は実感している。人、モノの整流化がカギになる中で、当初予定の無人搬送車(AGV)も3月までには導入し、夜間の自動搬送による翌日の段取りや日中での部品搬送の支援を行うなど、さらに作業効率を向上させる」
―24年、社として取り組みたいことは。
「とにかく『材料だけでなく現場の負担を削る』、この思いは変わらない。さらに難しいことに挑戦していく姿勢を全社で持ちたい。顧客の相談に乗れば、解決に向けてノウハウは蓄積する。結果、搭載できるソフトウエアは充実していく。その頻度をあげるためにもスピード感をもっと高めたい。業績はもちろんだが、それだけではなく顧客からの喜びを皆で共有できる会社づくりも重要だ。そして『負担を削る』のは社内も一緒だ。例えば中途採用で入社ゼロ日でもこれまでの知見を生かした業務改善を提案できるはずだ。キャリア関係なく従業員一人ひとりが主役になれる社内環境も構築したい。その中で当社自らが楽しめば、この思いは必ず顧客に届くだろう」
汎用機、混流ラインに注力/部品加工事業、業績けん引
エンシュウ社長 鈴木 敦士氏
―工作機械事業の状況は。
「2023年は苦しかった。特に我々が『システム』と呼ぶ、自動車部品加工用ラインの受注が落ちている。24年もさほど市況は変わらないと見ている。国内では電気自動車(EV)の量産はまだ先だろうが、もう完成車メーカーがエンジン専用のラインに投資するようなことはない。エンジンやトランスミッション関連の部品加工は2次以下のサプライヤーに移管する流れが進んでいる。移管先の企業は短期的には我々のシステムの顧客になる。ただそうして移管された仕事が続くかはわからない。となるとなるべく汎用的で、さまざまな部品を加工できるフレキシブルなシステムが必要になる。22年のJIMTOFで紹介した『多品種混流生産ライン』がまさにそれで、加工する部品が変わってもラインを切り替える必要が無い。こうした案件を増やしていきたい」
―近年汎用機の販売に注力しています。
「商社との関係が深まり確実に成果が出ている。23年12月、6年ぶりに開催した自社展の反響もよく我々への期待を実感した。鍵を握るのは省エネや自動化、サービスの強化だ。小型マシニングセンター(MC)の『セービングセンタ』シリーズは省エネや省スペースが強みだ。MC内蔵型搬送装置『イーローダー』の納入事例も増えている。サービスではコールセンターの平日の営業時間を延長し、土曜日の対応を始めた。保守部品の売り上げも伸びている。21年にはサービス部門と社内の設備保全部門を統合した。保全の『外販化』として、システムの顧客に予防保全を提案している」
―部品加工事業については。
「2輪車や船外機の部品の受注が好調で、EV関連部品の取り込みにも成功している。当面は部品加工が業績を引っ張っていくだろう。部品加工の現場はシステムや自動化のモデルラインとしての役割も高まっている。これは我々でしか出せないシナジーだ。早い段階で『多品種混流生産ライン』を部品加工事業にも導入したい」
―22年にシステムインテグレーター(SIer)事業を担う子会社のエンシュウコネクティッド(浜松市中央区)を設立しました。
「狙い通り順調に成長している。売上高は23年3月期の約6000万円から24年3月期は2億円程度に伸びる見通しだ。ロボットやIoT(モノのインターネット)の活用、デジタル化などで主要顧客である自動車業界以外からの商談も多い。無人搬送車(AGV)を利用した提案の事例も出ている」
―ドイツのシュヴェービッシュ ヴェルクツォイクマシーネ(SW)と協業します。
「EV先進国であるドイツの工作機械を我々が日本向けの仕様に“ジャパナイズ”して国内の顧客へ提案する。4月以降早々に受注活動を始める。SWの機械は複数の主軸を備えた横型MCで、特に中国ではEV部品の加工に多くの納入実績を持つ。いずれは我々の部品加工事業の現場でもSWの機械を活用したい」