-
業種・地域から探す
続きの記事
千葉県産業特集
伴走型支援で成長持続
中小企業基盤整備機構は、千葉県で3カ所のインキュベーション施設を運営するなど、同県の中小企業を支える。その中小企業を人手不足や物価高騰が直撃している。さらに米トランプ政権の関税政策などでグローバルリスクも高まる。千葉県の中小企業の景況感をどのように認識しているのか、その中で中小企業をどのようにサポートしていくのかなど、中小機構関東本部本部長の新保章氏に聞いた。
中小企業基盤整備機構 関東本部 本部長 新保 章 氏/売上高100億円への飛躍的成長 支援
—中小企業の景況感をどのように見ていますか。
-
中小企業基盤整備機構関東本部本部長 新保 章 氏
「1—3月期の業況判断DI(今期の水準)は全産業で低下した。物価が高止まりし、価格転嫁は道半ばであるほか、人手不足など厳しい状況が続いている。現在は、米国の関税政策の影響を注視している。中小機構の調査では、輸出・海外取引を行っている企業の43%が影響があるとしている。現段階では具体的な対策は未定で、不安に思いながら状況を見守る経営者の声を多く聞く。千葉県では自動車関税の余波は大きくないかも知れないが、個社ごとに影響を見ていく必要がある」
—どのような影響が懸念されますか。
「具体的には米国取引の減少や、米国からの引き合いの減少が考えられる。先行きが読めないことから、設備投資を控える動き、消費が落ち込むことも懸念される。中国や第三国への輸出・取引にも影響が及ぶだろう。海外戦略の見直しも必要となってくるのではないか」
—その中で中小企業が生き残るには、どのような手を打つべきですか。
「先行きが不透明で経営のかじ取りがますます難しくなっているからこそ、従来にも増して経営力が求められていると感じる。従業員の力を引き出すことも大切だろう。優れた経営者一人の力だけでなく、人材を育成し、組織として力を発揮する手腕が問われる。経営理念やビジョンを社員と共有し、経営計画で足元を固めるとともに、新しいことにも果敢に挑戦する姿勢が求められる。堅調に業績が推移している企業の経営者は、社員との対話を大切にしながら、必要な情報も開示し、常に先を見ながら手を打っていることも印象的だ」
経営課題解決へメニュー多数用意
—どのように中小企業をサポートしていきますか。
「従来のさまざまな支援メニューに加えて、地域経済に大きく貢献する『売上高100億円』への飛躍的な成長を目指す企業を応援する。工場や物流拠点の新設・増築、イノベーションの創出に向けた設備の導入などに、最大で5億円を補助する(補助率は2分の1以内)。また、海外展開や販路開拓、M&A(合併・買収)、人材の育成・確保など成長フェーズに応じた支援を伴走型で実施する。さらに『100億円宣言』をした経営者のネットワークを構築する。地域・業種を超えて、経営者同士がお互いに刺激を受け合い、経営の気づきにつながればと考えている」
—千葉県の中小企業経営者にメッセージをお願いします。
「地域の中小企業の成長が、雇用や消費などを生み、地域経済の活性化につながっている。先行きが読めない今だからこそ、経営者の一人ひとりが経営力を発揮し、企業の成長につなげてもらいたい。そのためにも中小機構を活用してもらいたい。課題をより明確にするためには、外からの視点も有用であろう。それぞれの企業のニーズに合わせて、さまざまなメニューを用意し、伴走型で支援をしていく」
《略歴》
しんぼ・あきら 1988年中小企業事業団(現中小企業基盤整備機構)入団。2011年中小企業基盤整備機構国際化支援センター海外展開支援課長、14年国際交流センター国際交流課長、21年九州本部企業支援部長、23年関東本部企業支援部長、24年関東本部本部長。59歳、山形県出身。
M&A事例
経営者の高齢化や後継者不足、あるいは新分野への進出や人材・技術・販路開拓の狙いから、中小企業のM&A(合併・買収)は増加傾向にある。優れた技術や製品を持ちながら経営的に苦しい会社を、新たな知見で再生する事例も少なくない。今回紹介するのは、そんな再建型M&Aの事例だ。
エスエス精機(工作機械部品製造)の事業承継―三和電気(微細コイル製造)
-
三和電気/エスエス精機社長 宮﨑 裕二 氏
社長急逝で業績悪化
エスエス精機(千葉県四街道市)は70年以上にわたり、コレットチャックやスピンドルなど工作機械部品を製造してきた。最盛期は従業員48人、売上高約4億円だったが、2代目社長が2006年に急逝し、その後、工作機械の海外生産シフトにより受注が減少し、近年は売上高1億円の赤字企業となっていた。
社長亡き後は妻が3代目に就任。その次を担う娘の島津利枝さんも事業承継の意志があったが、当時は相談できる幹部がおらず承継に自信が持てなかった。会社を建て直すには新たな視点が必要と考えた島津さんは銀行などに相談した。
技術・市場に魅力
三和電気(東京都品川区、宮﨑裕二社長)は直径0・027ミリメートルのマイクロコイルなどを製造する精密部品メーカー。宮﨑社長は事業の多角化と拡大を狙い、M&Aを検討。仲介会社から千葉県の事業承継・引き継ぎ支援センターへとつながり紹介されたのがエスエス精機だった。
エスエス精機を選んだ理由について宮﨑社長は「三和電気にはない新しい技術の習得と新しい市場への挑戦に興味が沸いた」「三和電気が工場を持つ東京都品川区と千葉県茂原市の間という、支援がしやすい位置関係。工場敷地には余剰スペースがあり、三和電気の工場には拡張余地がないため、将来の拡張候補としても魅力だった」と語る。
両社は23年9月から検討を始め、24年1月24日に事業譲渡契約を結んだ。宮﨑社長がエスエス精機の社長に、島津さんが取締役に就任した。
業歴が長く、高精度切削・研磨や組み立てなどの精密技術を担う人材は残っていたが、エスエス精機の設備は老朽化し、工場内も雑然としていた。宮﨑社長は、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底と、工場のレイアウト見直しから着手し、全社員に経営改革への協力を求めた。また就業規則の見直しや経営理念やビジョン、改善計画の共有など組織の基礎作りにも力を注いだ。
再建型M&Aで新市場を開拓
協力して黒字化へ
しかし、工作機械業界は技術の高度化と価格競争が厳しく、さらに主要顧客の海外移転も進み、エスエス精機の売上高はM&A以後も減少が続くが、「共創」をスローガンに三和電気との共同開発品の強化を進めている。エスエス精機の黒字化には「工作機械業界以外に販路を広げることが必要」と宮﨑社長。得意のスピンドルを、三和電気が実績を持つ産業機械向けに提案していく方針。また三和電気の中にある切削・研削の仕事をエスエス精機に任せ、グループ最適化を進めることも検討している。宮﨑社長は「三和電気が全面的に協力し、エスエス精機を27年度に黒字化したい」と笑顔で語る。
