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東北産業 未来を拓く(2024年8月)
期待される東北・新エネルギー
宮城産業人クラブ(梶原功会長=梶原電気社長)は、7月10日に仙台市青葉区のメトロポリタン仙台で「第42回宮城産業人クラブ定時総会」を開き、2024年度事業計画などを決めた。地域中小企業を取り巻く経営環境は不透明感もあるものの、今後に持ち直しの期待感もある。東北では半導体製造装置関連や自動車、洋上風力発電など再生可能エネルギー産業を中心に新たな需要を見込んで、新規の設備投資なども進んでいる。そこで、総会後にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の専門家2人を招いて、新エネルギー関連分野の特別講演会、会員企業による取り組み事例を発表した。
主催者あいさつ
開会にあたり一言、ごあいさつを申し上げます。さて、日本経済に目を向けますと、依然として厳しい状況に直面しています。電力料金や燃料費の上昇が企業活動に大きな負担をかけています。東北地方においては、少子高齢化や人口減少、首都圏への若者の流出に歯止めがかかりません。人手不足は一層深刻化しています。中小企業経営者の多くが将来の事業継続に対して大変な危機感を抱いております。
それでも明るい材料もあります。4月には仙台市内に次世代放射光施設「ナノテラス」が本格稼働し、先端技術分野の研究開発が一段と進む基盤が整いました。また台湾の大手半導体メーカーが宮城県大衡村に進出することが決定。地域経済の活性化と雇用創出に寄与することが期待されています。すでに宮城県内やその周辺地域では、半導体製造装置関連や自動車、洋上風力発電など再生可能エネルギー産業を中心に新たな需要を獲得することで、新規の設備投資が進んでいます。
本日は総会の後、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の専門家2人を講師に招いています。我々中小企業がどのように新エネルギー分野で一定の役割を果たしていけるのか。貴重なお話を伺える機会になります。本日は宜しくお願いいたします。
【講演1】水素エネルギーの成長可能性と福島(FH2R)への期待
エネルギーとしての水素には特徴が大きく3点あります。最も豊富なエネルギー源であること。さまざまな資源を出発点としてつくることが可能な点。利用時に、二酸化炭素など温室効果ガスを排出しない点。そして、電力を(水の電気分解を通じて)大量・長期間保存できること。また、長距離輸送できる点も特徴と言えます。
2017年12月、日本は世界で初めての水素基本戦略を策定。その後、世界的に水素戦略策定の動きが加速化し、水素関連の取り組みが強化されています。23年には6年ぶりに同戦略を改定。産業戦略と保安戦略を新たに盛り込んでいます。改訂版水素基本戦略のポイントは、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を「制約」ではなく、経済成長の好機と位置づけ、各種施策を盛り込むこと。そして、国内対策のみならず世界市場の獲得を目指すこと、水素普及に向け「保安」を戦略的に推進すること、水素の「色」ではなく「炭素集約度」で展開することなどを示しました。
そうした中、NEDOの基本的な考え方は、技術開発、実環境下試験、規制・基準・標準を連携させ、一体で実施していく姿勢を持っています。水素市場の創出・拡大、日本企業の海外展開を見据えた国際連携や水素社会の受容性向上に向け、一般の認知度向上に努めています。燃料電池・水素室における事業として「燃料電池・水電解」「水素サプライチェーン構築」「地域水素利活用モデル開発」「商用規模実証」などに取り組んでいます。
東北では、20年に福島県浪江町に完成した「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」での大型のアルカリ水電解技術開発などの各種実証に取り組んでいます。この水素製造拠点を活用した福島県内への水素展開拡大も期待され、地域ごとに水素利活用モデルの検討が進行中。こうしたFH2Rのようなモデルが、これから複数箇所に広がっていく可能性があります。
燃料電池製品の普及拡大・多用途化に加え、今後は水素をエネルギーシステムの中で活用する方向にあり、再エネとの結合、大規模な製造・利用技術が不可欠です。実環境下での取り組みを通じて、技術の社会実装を加速していきます。
【講演2】洋上風力発電の成長可能性と東北の立地地域への期待
NEDOは持続可能な社会の実現に必要な研究開発の推進を通じ、イノベーションを創出する国立研究開発法人です。技術シーズの発掘から中長期的プロジェクトの推進、実用化開発の支援まで研究開発マネジメントを担っています。2024年度のエネルギーシステム分野の予算は525億円。再生可能エネルギー技術などの研究開発を後押ししています。
「グリーン成長戦略」の柱の一つが洋上風力発電。競争力を備えたサプライチェーンを形成するため、産業界としての目標設定も示されました。洋上風力の産業競争力強化に向けた「技術開発ロードマップ」に基づく実証を見据え、技術開発を加速する方向にあります。
洋上風力発電の種類は大きく分けて着床式と浮体式の二つ。先行する着床式は海底に固定されているもので、水深50メートル未満程度の海域に設けられます。一方、浮体式は設備自体が浮いている形になります。水深50メートル以上程度に設置されるモデルで、まだ実証段階です。浮体式洋上風力の浮体システムは今後も開発要素が大きく、新たなサプライチェーン(部品供給網)の可能性が期待できます。
日本の累計風力発電導入量(~2023年)は約5・2ギガワット。うち洋上風力は0・2ギガワット程度。地域としては東北・北海道地方に集中しています。現状、NEDOの風力発電関連事業では主に洋上風力に注力。グリーンイノベーション基金事業による洋上風力の低コスト化では、深い海域でも導入余地が大きい浮体式を中心に洋上風力の早期のコスト削減を目指しています。
同基金事業での実海域実証事業の採択案件の一つ「秋田県南部沖」では、発電事業者を含む企業連携体が、15メガワット超級風車による実証試験の準備を進めています。この実証海域は水深400メートル前後と挑戦的な取り組みになります。
今後の課題として、既存陸上風力で経年劣化による風車の撤去・リプレース案件が増加し、その対応が求められてきます。洋上風力拡大に向けては、地域と共存する案件形成が重要です。案件形成の拡大による風車浮体の製造を行う場所の不足感もあります。風車が多数立地する東北地方においては、製造・管理維持の産業・人材が一段と重要になるでしょう。
【事例発表】未利用熱活用で脱炭素社会を実現する廃熱エンジン
NEDO戦略的省エネ技術革新プログラム実用化事業の採択を受けて、実用化開発フェーズで「ORC(有機ランキンサイクル)発電システム」の開発に取り組んでいます。狙う市場は温暖化の元になる膨大な「廃熱」。現状は適合システムがないと見ています。
課題解決に向けたORC発電システムのニーズは、小規模、独立性など。当社には卓越すぎる事業実施体制も構築されています。NEDO事業からのスタートアップを推進する「産学官金」支援体制のプロジェクトが組まれているのが特色。東京大学生産技術研究所、宮城県産業技術総合センター、イーグル工業などと連携しています。7月10日現在、自社ラボにおけるORC発電システム稼働時間は5000時間。実証現場稼働時間は約1000時間になり、ある程度、社会実装が進んできています。
開発した技術の革新性はORC発電システムと発電・蓄電システムの精緻な制御技術構築など。優位性としては、蓄電池からの電力供給により非常時も自立運転が可能なことです。可搬型蓄電システムの利用や冷熱供給システムの利用がビジネスとして見込まれます。
今後はこれまでの成果を産学連携ネットワークで広げていくことになります。一般社団法人「持続可能で安心安全な社会をめざす新エネルギー活用推進協議会」(略称・JASFA)との協働により、多様な新事業展開につなげていきます。