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東北産業 未来を拓く(2024年8月)
新たなモノづくりへの挑戦 東北の企業・支援機関-1
現状、東北地域の景況感は全体として「持ち直している」との認識が多い。生産活動は一進一退の状況から緩やかに持ち直しつつある。ただ2024年度は調整局面との声も強く、その先への期待感が強い。体力を蓄え、次代への飛躍に各地で準備が進む。そこで、東北の企業・支援機関の将来に向けた取り組みを紹介する。
和同産業/ロボット草刈り機で新境地
ハンドガイド式歩行型除雪機で日本一を誇る和同産業(岩手県花巻市、三国卓郎社長)が、ロボット草刈り機「ロボモアKRONOS」で新境地を切り開いている。あらかじめ作業したいエリアをワイヤで区切り、その中をロボットがセンサーで感知し自動で動き回る仕組み。3輪すべてにモーターを装備した安定的な走りで雨の日も作業可能。主に果樹園や工場内の緑地、最近では太陽光発電所の敷地内などでも活躍している。
7月には上位モデル「MR-400」を追加。GPSを搭載し、目的の場所へ最短距離で移動でき、作業効率を大幅に高められる。結果、草刈りの対応面積を従来モデルの3000平方メートルから4000平方メートルに拡大。エリア内の特定のポイントを指定し、草の多い場所を重点的に刈り取る運転も可能にした。操作はすべてスマートフォンの専用アプリケーション。草の状態に合わせ「ゆっくり充電」モードに切り替え、蓄電池の寿命を延ばす機能も備えている。
イワフジ工業/林業機械のパイオニア
戦前の中島飛行機の流れをくむイワフジ工業(岩手県奥州市、有吉実社長)は林業機械のパイオニア。樹木を切り倒したり、つかんで切断し集荷したり、さまざまな重機を取りそろえる。中でも立木の伐倒から枝払い、樹木をつかんでの玉切り、そして集材まで1台で何役もこなすハーベスタは圧巻。迫力ある作業の様子は動画投稿サイトに掲載されており、人気動画の再生回数は8万回を超える。
最新の動画は林地残材を効率的に集められるグラップルフォークの作業現場。通常のグラップルに比べ、幅を広くして細い枝条や小さい端材をつかみやすくした上、先端を串状にすることで余分な土石をふるい落とせるのが特長だ。バイオマス発電の木質燃料として林地残材の需要が増えており、サイズや形状がふぞろいな残材を効率良くつかめる専用品を昨年春に投入した。山中で雑多な残材を手際よくトラックの荷台に積み込む様子に、再生回数もうなぎ上りとなっている。
ユアテック/DX推進委員会を発足
10月の創立80周年に向けさまざまな改革を断行するユアテック。まずはデジタル変革(DX)による収益拡大を掲げ、社長を委員長とする「DX推進委員会」を発足。具体的な施策を推進している。
最も進んでいるのがペーパーレス化。工事現場では紙の帳票が多く、効率改善のネックになっていたためだ。2023年秋にカミナシ(東京都千代田区)の現場DXプラットフォーム「カミナシ」を導入。タブレットに入力するだけで帳票への記入が終わり、自動でデータが送られる仕組みだ。これにより22年5月の調査枚数を基準に、25年度末には64・2%削減できると試算している。
一方、働き方改革も加速するため、本社内に人財戦略プロジェクトを設置。第1弾として24年度から順次、新人事制度をスタートした。若手向けには奨学金返還支援制度、シニア向けには定年延長制度を導入。アルムナイ採用の制限もすべて取り払い、人財の確保に向け大胆に踏み出している。
菊重/「コト売り」に重点
機械工具商社の菊重(仙台市若林区、菊地重友社長)は1906年創業で間もなく120周年を迎える老舗企業。長い歴史の中で「馬の蹄の交換に始まり、その後は農業の機械化、人口増に伴う住宅設備の普及、そして今は工業系が大半を占める」(菊地社長)というように30-40年周期で主要事業や顧客を柔軟に変化させてきた。この数十年でも東北地方への自動車や半導体産業の進出に合わせ、積極的に新規開拓を果たしてきた。
他方、機械工具の市場にもネット通販など電子商取引の波が到来。単なる「モノ売り」だけでは顧客の支持が得られないため、その困り事にきめ細かく対応する「コト売り」へとシフト。社員一人ひとりが「モノ作りコンシェルジュ」を宣言し、設備の定期的な修繕やメンテナンスなど、顧客の製造プロセス全体を見据えたソリューションを提供。技術的なアドバイスや個別対応を通じ、製品価値を最大限に引き出すことでさらなる信頼を勝ち得ている。
東光鉄工/ドローン 用途拡大
飛行ロボット(ドローン)の開発から製造・販売、保守・操縦教習までを一貫して提供する東光鉄工(秋田県大館市、菅原訪順社長)。農薬散布や災害対策に加え、最近はその用途拡大にも力を入れている。
まずは林業向けの苗木運搬。林道が狭く険しい山には重機が入れず、人が背負い急斜面を登って運んでいる。そもそも重労働な上、地方では担い手不足が深刻化。「最近は豪雨で山崩れが頻発し、クマに遭遇する危険性も高まっている」(伊藤均副社長)とその重要性を強調する。釣り具メーカー、ミヤマエ(大阪府東大阪市)の電動リール技術も活用し、苗木を安定的につり下げ、目的地へ適切に降ろす機能も加えた。
また、道路などののり面を緑化する新工法にも展開中。複数のドローンから種子の入ったカプセルを散布することで、土砂災害などで人が立ち入りにくい斜面に効率良く緑化施工ができる。現在、緑化資材メーカーなどと実証実験を積み重ねており、早期の事業化を目指す。
馬渕工業所/低温廃水でも安定発電
工場や焼却炉、温泉など熱量が小さい施設の廃熱でも発電可能なシステムを開発する馬渕工業所(仙台市太白区、小野寿光社長)。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」で宮城県産業技術総合センター、東京大学、京都大学、イーグル工業らとの産学官連携で2025年度中の商用化を目指す。
有機ランキンサイクル(ORC)発電システムにより、約80度Cの廃温水を使い4・5キロワット程度で安定して発電することに成功。NEDOによるとこれは国内最高水準の発電効率を誇る。「カーボンニュートラル実現が求められる時代、廃熱を捨てることすら難しくなる」(小野社長)と先を見越す。さらに蓄電池を連携させることで商用電源と系統連系なしでも運転できるよう、世界初の自立運転型として開発。大規模停電をもたらす大災害時も稼働でき、普及をさらに後押しすると見ている。