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東北産業 未来を拓く(2024年8月)
新たなモノづくりへの挑戦 東北の企業・支援機関-2
現状、東北地域の景況感は全体として「持ち直している」との認識が多い。生産活動は一進一退の状況から緩やかに持ち直しつつある。ただ2024年度は調整局面との声も強く、その先への期待感が強い。体力を蓄え、次代への飛躍に各地で準備が進む。そこで、東北の企業・支援機関の将来に向けた取り組みを紹介する。
トラスト・メカ/人手不足に悩む小規模工場向け
電子機器や自動車部品などの工場向けに、各種組み立て装置を製造するトラスト・メカ(宮城県加美町、越後浩社長)。2023年末には食品製造用省力化装置に参入した。加工食品や総菜、カット野菜などを袋詰めする装置を専用機として低価格で製造。既存の高価な装置には手が出ない中小零細の食品会社を中心に拡販している。
食品向け包装機を手がけていた県内企業から事業譲渡を受け、同社製の袋をつかんで開くユニットと、自前の自動化装置などを組み合わせ完成品に仕上げた。「食品工場も人手不足に悩んでいる。簡易な専用装置として安く提供したい」(越後社長)との方針で、小規模経営が多い食品工場の省力化ニーズに狙いを絞る。すでに地元の水産加工会社だけでなく、和歌山や愛知、福岡、遠くは沖縄まで装置を納品した。全国各地から予想以上の反響があったため「装置をメンテナンスするメーカーや個人事業主を募りたい」(同)と全国に呼び掛けている。
福島製作所/電力機器事業を強化
福島製作所(福島市、太田光一社長)は電力機器事業に力を注いでいる。長年にわたり同事業に携わってきたが、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)開始により水力や風力といった再生可能エネルギー市場が急拡大。地球温暖化防止の観点からカーボンニュートラル(CN)の実現に向けた、国の施策という追い風もあった。そこで同社は8年前から電力事業のてこ入れを図っている。
大型機械メーカーならではの技術力を生かし、発電用水車の本体機器や各種入口弁の製造、設置工事を行っている。圧油装置、冷却クーラーといった水力発電に不可欠な付帯設備も数多く手がける。それらができるのも、清掃工場向けグラブバケットや舶用機械など、あらゆる産業機械を作ってきた技術力と、その技術を受け継ぐ人材力のたまものだ。
今後はさらに製品・サービスの付加価値を高め、国内外メーカーとのアライアンスを模索しつつ「全国の電力会社から常に頼られる存在を目指し、事業でCNに貢献する」(同社)と意欲を見せる。
スズキハイテック/ダイバーシティー経営
山形からメッキでレボリューション―。最先端の部材から身近な製品まで各分野に使われるメッキ。伝統産業でもあるメッキ会社の革命に乗り出しているのがスズキハイテック(山形市、鈴木一徳社長)。
2024年で創業110年を迎えた同社は変革の中にある。中小企業家同友会全国協議会(中同協・東京都千代田区、広浜泰久会長)が7月に、仙台市青葉区の仙台国際センターで開いた「第56回定時総会in宮城」での分科会で、同社の取り組みが事例として取り上げられた。多様性を取り入れたダイバーシティー経営の実践での分科会。鈴木社長は外国人材活用による伝統企業の改革を紹介した。
15年に社長のバトンを受け継いだ鈴木社長。受託型から開発型への事業構造の転換が進む。同年に山形大学大学院工学研究科の留学生2人を採用。現在では多くの外国人社員が集う会社になっている。自動車関連や半導体関連分野などで相次ぐ設備投資も実行している。異なる人材が集まることで、メッキ業の革命が続いている。
伊藤製作所/新たな複合加工機導入
山形市と山形県上山市にまたがる「蔵王みはらしの丘」産業エリアに本社工場を置く伊藤製作所(山形市、伊藤明彦社長)。半導体製造装置関連部品、自動車用各種機能部品、建設機械関連部品などの精密切削加工、組み立てなどを手がけている。現状においては、売上高に占める半導体関連分野の割合が約6割を占める。
同社は半導体関連分野向けなどの増産を視野に自動旋盤をベースとした新たな複合加工機を本社工場に導入した。約3メートル長の長尺になるバー材料供給が可能で複雑な穴あけ加工などに対応する。今後も生産性向上に向けた投資を継続する。新たな投資としては、生産管理面を向上させるシステムの導入を計画する。付加価値のあるモノづくりを追求する姿勢を示す。
2023年には、中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」を策定した。人の安全を徹底し、工場を止めない環境整備づくりが大きな力点になる。生産性向上を進める中、持続するモノづくりにも目を向けている。
岩機ダイカスト工業/新工場を完成
岩機ダイカスト工業(宮城県山元町、斎藤明彦社長)は、金属射出成形(MIM)で製造する焼結合金「モルダロイ」の生産を強化する。7月末に同事業の拠点となる小平工場(同町)敷地内に新工場を完成した。医療機器関連分野の需要拡大に対応するのが大きな狙い。MIM事業の生産スペースを現状の1・3倍程度に引き上げる。稼働時期は早ければ年内を見込む。
MIMは、高精度・高密度、複雑形状部品の生産に適する。MIMに特化した小平工場では、歯列矯正用の金具や内視鏡部品などの医療機器関連向けを中心に手がけている。自動車関連部品を主力とする同社はMIMを新規事業の柱として育てている。
新工場の延べ床面積は約3600平方メートル。投資額は10億円弱。新工場は省力化を追求する方針だ。無人搬送車(AGV)の導入などの省力化プランを検討する。現在MIM事業は社員約40人を中心に対応しており、今後は増員が視野に入る。
中小企業基盤整備機構東北本部/中小企業応援士に女性経営者4人
中小企業基盤整備機構東北本部(仙台市青葉区、矢内友則本部長=写真左)は、2024年度の東北管内における「中小企業応援士」を計4人の経営者に委嘱した。同応援士は、中小機構の支援メニューなどを地域中小企業に伝える役割を担う。この取り組みは19年度に設けた。東北を含めた全国では計41人への委嘱が決まった。
東北での中小企業応援士の委嘱状は、中小機構東北本部から直接手渡された。24年度に委嘱された東北管内の中小企業応援士は全員が女性経営者だった。宮城県からは東北電子産業(仙台市太白区)社長の山田理恵氏、工藤電機(同)社長の引地智恵氏の2人。秋田県からは、青山精工(鹿角市)社長の青山亜起菜氏。岩手県からは及源鋳造(奥州市)社長の及川久仁子氏にそれぞれ委嘱された。
新たに中小企業応援士を委嘱された経営者からは「それぞれに必要な支援メニューを使っていくことを、地域中小企業に呼びかけていきたい」との声があった。