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非破壊検査・計測・診断技術
第4世代非破壊評価(NDE4・0)は何を目指すのか
【執筆】 東芝 総合研究所 所長 工学博士 落合 誠
第4世代非破壊評価(NDE4・0)という言葉が生まれて8年が経過した。欧米ではすでにテキストが発行され、専門委員会も活発に開催されている。しかし、日本では必ずしも同様な広がりを見せていない。これは「デジタル化」という概念・コンセプトが先行し、具体的な目的が明確でないためではないだろうか。ここではNDE4・0が目指すものについて紹介する。
第1世代である五感検査(NDE1・0)から進化してきた非破壊評価の最新世代がNDE4・0である。一言でいえば「検査のデジタル化」だ。ただし、ここでは二つのデジタル化を意識する必要がある。
一つ目は、いわゆる一般のデジタル化(Digitization)で、「探傷装置のアナログ部をデジタル化する」などだ。ここには、例えばデジタル通信やクラウド、タブレット端末やロボット、ドローンの利用なども含まれ、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の利用、探傷画像のAI(人工知能)による解析や高度な波形解析などのデジタル信号処理の利用もある。すなわち、デジタル技術を導入し、非破壊検査を一層高度化する取り組みだ。
二つ目は、広義のデジタル化(Digitalization)だ。デジタルデータは共有や相互利用が容易で、非破壊検査データ同士を融合させる、もしくは非破壊検査データと非破壊検査由来ではない他のデジタルデータ(非・非破壊検査データ)を連携させることで、新たな価値を共創するという取り組みである。
例えば、ある設備をデジタル的に再現したデジタルツインを考える。部品の形状や構成から成る3次元(3D)設計データをベースに、材質データ、部品の切削や接合に関する加工データ、設備の運用や負荷に関わる運転データ、過去の部品交換や損傷の履歴など設備管理データなどが関連づけられている。それら仮想上の装置に、非破壊検査という実部材の現状を直接的に示す健全性データを重ね合わせることで、例えば設備の余寿命をより正確に予測したり、損傷を許容しながら設備の運用を継続できる条件を見出したりすることが可能だ。
デジタル化の恩恵を享受して非破壊検査そのものを高度化するだけでなく、他のデータとの連携によって、検査対象に関する新たな価値を創り出していく。それがNDE4・0の本質的な意義となる。