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埼玉県川口市
金融機関一押し 個性派・実力派企業7社
埼玉県川口市は、日本を代表する「産業集積都市」の一つだ。鋳物や機械、部品、金属、精密加工などの「ものづくり産業」が存在し、地域経済を下支えしている。さらには大消費地である東京都に隣接し、交通網も発達しているため、近年は「住みやすい街」としても注目を集めている。地域活性化のため中堅・中小企業支援を続ける7金融機関に、高い技術力や特徴あるビジネスモデルを有する「一押し企業」を紹介してもらった。各社の技術や製品、サービスを取り上げるとともに、金融機関から一押しポイントを聞いた。
大木産業/3年後には「中堅企業」に成長
大木産業(埼玉県川口市、大木康嗣社長)は鋳物用材料の製造販売を手がける。砂型に添加して鋳肌改善と焼着防止となる石炭粉「スーパーコール」が主力製品。国内シェアは2位を占める。「自動車メーカーや建機メーカーと直接取引しているのが当社の強み」と大木社長は強調する。
創業は1938年。大木社長の祖父が設立して4代目になる。福島県いわき市に小名浜工場、岩手県奥州市に東北営業所を構え、海外はインドネシアに貿易会社、タイに全額出資の製造・販売会社を設けている。昨年は本社にグローバル戦略室を立ち上げた。
同じ川口市内に3階建ての新本社を建設中で秋に移転する計画。分析室を新たに設置して鋳肌改善や焼着防止のメカニズム解明などに取り組む。土壌改良材や熱源などの用途開発も進める。「3年後には中小企業から『中堅企業』へと成長を遂げて、関連する企業と連携しながら新たな時代の鋳物産業を築いていきたい」と強調する。
【金融機関コメント】
埼玉りそな銀行 川口支店 石井 良輔 支店長
創業80年超の鋳物用資材製造販売業者。今後の飛躍が期待される企業であり、同社の成長を応援していきたい。
大洋画地/社員満足度高め働きやすい職場に
大洋画地(埼玉県川口市、遠藤秀徳社長)は、測量や土地区画整理などを手がける総合建設コンサルタント。設立は1971年で50年を超える歴史がある。
埼玉県や東京都など関東圏を中心に事業を展開しているが、東日本大震災の復興に向けた区画整理事業では、最も多い地区を同社が担当した。遠藤社長は「震災を契機に『技術を通して社会貢献』を経営理念に掲げた」と強調する。
地上レーザー・UAVなど最新機器での測量や建設コンサルのほか、補償コンサル、区画整理事業、地理情報システム(GIS)など幅広い分野に事業を展開する。自社開発のGISエンジン「HandyMap」を駆使した独自のシステムも強みだ。他にも労務費調査など新規分野でも豊富な実績を持つ。「100年企業に向けて顧客満足度をさらに充実させるとともに、社員満足度も高めて働きやすい職場作りを進めていきたい」と今後の将来像を描いている。
【金融機関コメント】
武蔵野銀行 川口支店 渡部 嘉夫 支店長
官公庁からの依頼を中心とした総合建設コンサルタント事業者。今後も同社の事業発展を支えていきたい。
永瀬留十郎工場/デジタル技術で作業効率化
永瀬留十郎工場(埼玉県川口市、永瀬重一社長)は今年で創業153年を迎える老舗企業。フラットパネルディスプレーの製造装置部品や電車の遮断機周辺で使われる歯車など、多様な工業用鋳物を手がける。強靱(きょうじん)さを特徴とするダクタイル鋳鉄が主力で売上高の約8割を握る。薄肉で複雑な形状をした製品作りを強みに長年成長してきた。「お客さまの要望に誠実に対応して難しい注文も引き受けることで、技術力向上を図ってきた」と永瀬社長は力を込める。
鋳造の強みは、鉄に黒鉛を分布させることで制振性などの機械的性質を付与させる点だ。同社は強度が高い反面、欠陥が出やすいダクタイル鋳鉄を得意として技術力を高め、埼玉県鋳造技術コンクールで表彰された実績がある。
目下の課題は人材不足だ。そこで同社はデジタル技術の活用を進めている。コンピューター利用設計・製造(CAD/CAE)を導入し、より分かりやすく可視化された作業指示書を作成して効率化を図りながら、品質にばらつきのない安定したモノ作りを目指す。
【金融機関コメント】
商工中金さいたま支店 鈴木 清輝 支店長
明治4年創業の老舗鋳物工場。時代を超えた技術承継でお客さまの信頼獲得。今後も同社の発展を支援していく。
山燕庵/ぬか袋カイロ製販で社会貢献
山燕庵(さんえんあん)(埼玉県川口市、杉原晋一社長)はコメの販売や玄米から作る甘酒、ぬか袋カイロを生産・販売する。2008年に杉原社長の父が農業生産法人を設立し、福島県鮫川村でおいしく安全な農産物の生産を始めた。東日本大震災を機に石川県志賀町の地元農家にコメの生産を委託する。
販売が伸びているのが、ぬか袋カイロ。使い捨てカイロと違って、ぬかの蒸気で温めるため保湿効果がある。電子レンジで温めて何度も使える。ぬか袋は障がい者施設で縫製して社会貢献にもつながっている。
有名な手ぬぐいブランド「かまわぬ」と連携したり、自然派化粧品「SHIRO(シロ)」の美容液やフェイスマスクに米ぬかが使われている。フェリー船内で疲れをいやすアイピロー(目元枕)の開発も進んでいる。「今後もOEM(相手先ブランド)供給の拡大などを進めることで、能登半島地震の復興にも貢献していきたい」と強調している。
【金融機関コメント】
日本政策金融公庫 浦和支店 飯沢 貴志 支店長
自然循環型の農法で農産物や加工品を提供する企業。震災復興にも取り組む同社の成長を支援していきたい。
ミサオネットワーク/建築現場向けIoT機器関連製品 好調
ミサオネットワーク(埼玉県川口市、板倉康裕社長)は、IoT(モノのインターネット)製品や関連ソフトウエアの設計・開発、販売を手がける。
2002年に設立。当初は中古の電子機器の販売が主力だったが、11年の東日本大震災を機に放射線量を全地球測位システム(GPS)により地図上で表示する装置を大手ゼネコン向けに開発し、事業の幅を広げた。割安な海外製をカスタマイズするのが得意。内蔵ソフト、電源、電波などの仕様を日本向けに改良し価格競争力ある商品を提供する。
現在、各種情報を見える化する建築現場向けIoT機器関連製品が好調だ。ソーラーとLTE回線で動作する防犯カメラ、騒音や振動、降水量を可視化するセンサー、それを表示する製品などを展開。さらに各種温度計で得た情報をもとに、暑さ指数を割り出すユニットも開発。今夏注目を集めそうだ。
同社の強みは「多分野の開発に精通しているので、どんな機械でも作れること」(板倉社長)。今後は自社のIoT製品を一括管理できるプラットフォームを構築する。
【金融機関コメント】
埼玉縣信用金庫 川口朝日支店 阿部 勇二郎 支店長
IoT製品や関連ソフトウェアの設計・開発、販売を手がける企業。今後も同社の事業展開を支援していきたい。
ラッキーワイド/高度技術と多彩な知識で造形物製作
ラッキーワイド(埼玉県川口市、吉沢広寿社長)は美術館・博物館向けの立体芸術作品や、大型テーマパーク向けの造形物の製作などを手がける。顧客である芸術作家などの要望に応じ、同社の職人集団が作品を製作する。扱う素材は金属やプラスチックなどさまざま。「お客さまの声を丁寧に聞き取り、高い技術力で創造してきた」と吉沢社長は自信を見せる。
1991年に設立。川口市を選んだのは、モノ作りに携わる人を大切にする環境が根付いていたからだ。設立当初から「常に期待を上回る作品を創造した」(吉沢社長)ことから評判を集め、業績は好調に推移。今も多くの仕事が舞い込んでいる。2018年には本社近隣に新工場を完成。樹脂熱溶融積層式の3Dプリンターを備え、3D関連業務の拡大を図る。
また毎年、社員が制作した作品や同社が携わった国内外のアーティストの作品を展示する「ラッキーワイド造形の世界」を開催。培った高度な技術と多彩な知識を表現する場所として機能している。これからも「世の中が明るくなるような創造物を作り続ける」と吉沢社長は力を込める。
【金融機関コメント】
川口信用金庫 本町東支店 新井 賢彦 支店長
「月曜日の朝が一番楽しい!」と仕事ができる喜びを目を輝かせて語る社長は、とても素晴らしい人格者です。
相見砲金工場/純銅鋳物の不良品ゼロ目指す
相見砲金工場(埼玉県川口市、井上勝彦社長)は各種鋳物部品を手がける。同社のモットーは「技術で誠心誠意努力前進」。高い技術力を要する難度加工に取り組みながら、顧客の声にも誠実に対応して成長してきた。
同社はシェルモールド鋳物やアルミ青銅鋳物、クロム銅鋳物、青銅・黄銅鋳物、軽合金鋳物など多様な製品を製造。中でも主力とするのが、大手電力会社向けに提供する純銅鋳物部品。売上高の過半を占める主力製品だ。
純銅鋳物部品は、ピンホールと呼ばれる細かな気泡が出来やすく、鋳物製造でもかなり難しいとされる。「約3年をかけて技術を習得して、ようやくお客さまに満足いただけるレベルに到達した」と井上社長は話す。
高い技術力を有する同社が力を入れるのが、人材育成や技能伝承だ。老練の技術者の技能・技法を文章でまとめた「マニュアルノート」を作成し、技能伝承に努めながら若手人材の技術力向上を図っている。将来的には「純銅鋳物の不良品ゼロを目指す」と井上社長は力を込める。
【金融機関コメント】
青木信用金庫 本店営業部 根本 隆幸 部長
純銅鋳物の加工技術が強みであるが、若手社員への技術承継が課題。今後も同社の発展のために支援したい。