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4月18日は発明の日
4月18日は「発明の日」。1885年4月18日に現行特許法の前身である「専売特許条例」が公布されことに由来して制定された。今年は日本における特許制度の確立から140周年。特許をはじめとする産業財産権制度の内容は時代とともに変化してきた。日本の産業競争力を高めるためにも、発明の促進や知的財産の保護、活用のあり方についてあらためて考えたい。
知財-中小・スタートアップで活用促進
知財創出-戦略的に活用
明治維新後の産業近代化の観点から「発明」を保護する制度の必要性が認識され、専売特許条例が公布されたことが日本の特許制度の始まりだ。1905年には同制度を補完する実用新案法が制定され、1921年の法改正で最も先に出願した人が特許を受けられる「先願主義」の原則を採用。59年には特許法など産業財産権制度に関わる法律が全面的に改正され、現行法が確立された。
創作意欲
特許制度は多くの発明家の創作意欲をかき立てた。日本の繊維工業の発展と、その後の自動車産業の勃興にもつながった自動織機。そのほかにも八木・宇田アンテナ、即席ラーメン、2次元コード(QRコード)など、その時代ごとに社会や生活を便利にする革新的な発明を日本で生み出すことに貢献した。
そして近年、日本経済が長年のデフレから脱却し新たな成長ステージへ向かいつつある中、企業の稼ぐ力を高める重要な経営資源として特許などの知的財産が注目されている。専門部署などを持つ大企業では知財活用に取り組む企業は比較的多い。そのため、今後は中小企業やスタートアップでの知財活用促進が期待される。
中小企業は日本企業の99%超を占める一方、2023年の特許出願件数に占める中小企業の割合は17・6%にとどまる。さらに19年の調査では、特許を保有する中小企業はそうでない企業に比べて営業利益率が高いことも明らかになった。成長投資や賃上げの原資として稼ぐ力の向上が求められる中、知財をはじめとする無形資産を創出し、戦略的に活用することが重要になっている。
特許庁と知財専門家派遣事業などを展開する工業所有権情報・研修館(INPIT)、日本弁理士会、日本商工会議所は中小企業やスタートアップ向け支援で連携。23年から「知財経営支援ネットワーク」を展開し、24年には中小企業庁が連携枠組み参画した。地域の実情を踏まえた上で、各機関の支援メニューをワンストップで提供できる。企業庁が連携に加わり、各都道府県の経営相談窓口「よろず支援拠点」での支援や知財取引の実態把握も強化する。
社会変革
知財を通じて社会や生活をより良くするためには、発明や社会変革の担い手であるイノベーターの存在も欠かせない。特許庁は環境問題や貧困などの社会課題解決に向けて、新たな取り組みに挑戦するスタートアップや個人などの知財活用を伴走支援する「I-OPEN」プロジェクトを展開。採択者は専門家によるメンタリングや、コミュニティー形成などの支援を受けられ、21-24年度に37者を採択・支援した。
企業間連携
これまでメディセプト(東京都台東区)による塩分などの摂取が制限される腎疾患患者向けの味噌を使ったインスタントみそ汁、シンフラックス(同中央区)による廃棄生地を削減できる衣服の型紙生成ソフトウエアなどさまざまな技術・製品の開発や事業計画策定などを支援。知財活用に基づく企業間連携も実現するなど、社会課題解決に貢献する技術の実装を後押ししている。
万博で紹介
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大阪・関西万博「EXPOメッセ」での
展示イメージ(特許庁提供)
大阪・関西万博ではI-OPENプロジェクトを含む活動を紹介し、知財活用による社会課題解決の取り組みを世界に発信する予定だ。10月に万博のテーマウィークに出展し、特許技術の体験やステージイベントなどを開催。社会をより良くする上での知財の役割について考えてもらうことを目指す。また、足元では政府の有識者会議で産業財産権制度に関わる法律の改正が議論されている。将来にわたり発明家やイノベーターの支えとなる制度を構築し、産業の発展や社会課題解決の促進につながることが期待される。
【INTERVIEW】特許庁 長官 小野 洋太氏
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特許庁 長官 小野 洋太氏
-制度確立から140周年を迎えました。これまで特許制度が産業に果たしてきた役割をどう考えますか。
「特許は技術の種の産業化を助けるものだと考えている。例えば豊田佐吉は1890年代以降、動力織機や自動織機で数多くの特許を取得したが、それらは織物工業の発展や、その後の自動車工業への多角化などにつながる資本の蓄積を支えた。またエネルギーや素材など産業の基盤とされる技術の多くは、もとは海外から取り入れたものが多い。技術導入のインフラという面でも日本の経済成長を支えてきた」
-今後、特許に期待される役割は。
「経済がデフレ脱却に向かい経営の質を高めることが企業に求められる中、利益の源泉として無形資産が注目されている。知財は無形資産の大きな部分を占め、活用次第では経営を刷新できる。製品の権利保護や差別化に加え、経営資源としての役割が期待される」
-中小・スタートアップへの知財経営支援に注力しています。
「事業目的達成のために知財をどう活用するか、経営面から考える形で支援している。知財制度は誰でも活用できる一方、中小の出願は限定的で知財に関わる人材も限られるなどの課題がある。さらに大企業との連携などオープンイノベーションが活発化する中、特許で中小の技術を適切に保護した上で、権利侵害を受けにくい環境を整える必要がある」
-生成AI(人工知能)の台頭など新たな変化の中、特許制度で対応すべき課題は。
「有識者会議などで議論しているが、主な論点は二つある。一つは発明の主要な役割をAIが代替した場合の主体に関する問題だ。AIを用いた人、発明のためにAIを発展させた人などの貢献をどう考えるか。もう一つは新規性・進歩性の概念が変わるのではという論点だ。例えば材料開発で特定の課題に沿ってAIが化学式などを大量に創作した場合、その権利をどう扱うか。将来の発明に大きく影響することが考えられ、法改正の必要性も含め制度のあり方を丁寧に議論していく」
-万博を通じて発信したいことは。
「知財を活用し未来をより良いものにしようとする動きを伝えていきたい。発明の背景とともに、特許技術を実際に体感できる展示を企画している。ステージイベントでは世界知的所有権機関(WIPO)や各国の知財庁と連携し、国際的な環境技術移転の事例紹介や、女性・若者が発明に関わることの意義などを考えるラウンドテーブルを予定している。こうした課題にどうアプローチすべきか、ともに考えたい」