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4月18日 発明の日
4月18日は「発明の日」。1885年4月18日に、現在の特許法の前身である「専売特許条例」が公布されたことに由来する。特許や意匠、商標など産業財産権の普及・啓発を目的に制定され、日本の産業発展の礎となった。技術進化や産業構造が大きく転換している現代、知的財産権の重要性は増している。競争力の源泉となる知財の創出や保護、活用のあり方について、あらためて考えたい。
知財―地域での活用モデル確立
日本の産業発展の礎
日本経済が長年のデフレから脱却し新たな成長ステージへ向かいつつある中、企業の稼ぐ力を高める方策として知財戦略が着目されている。内閣府が2021年に公表した資料によれば、企業価値に占める無形資産の割合は米国が9割であるのに対し、日本は3割にとどまる。政府の「知的財産推進計画2023」でも、「特許などの知財をビジネス価値につなげられていない」と指摘する。つまり知財の活用を促すことは、企業成長に直結するとも言える。
特に日本経済の活力の源泉である地域経済を担う中小企業と、将来のけん引役となり得るスタートアップの知財活用は大きなテーマだ。そこで特許庁は23年に、地域の中小企業やスタートアップの知財経営支援を強化、充実化する目的で工業所有権情報・研修館(INPIT)、日本弁理士会、日本商工会議所の4者で「知財経営支援ネットワーク」の構築を宣言。24年度はこの枠組みを利用し、知財活用モデル地域の創出に向けた新規事業を始める。
24年度は青森県、石川県、神戸市の3地域を重点支援地域に選定。採択された事業者が、経営コンサルタントなどマネジメントや事業創出の経験があり地域に精通する民間企業出身の「プロデューサー」を各地域に1人ずつ選出、派遣する。
プロデューサーは支援対象となる地域の中小企業に加え、知財経営支援ネットワークや地元自治体との連携チームを構築。知財活用や事業戦略立案からマーケティング、製品プロモーションまで一気通貫で伴走支援する。24年度は計15件を支援する見通しだ。
また1月には福島県、福島イノベーション・コースト構想推進機構(福島市)と、福島県内のさらなる知財保護や活用を推進すべく協定を締結。新たな産業基盤ができつつある同県で、人材育成や復興・イノベーション創出に資する企業の支援などに取り組む。
特許庁はスタートアップ支援でも新たな領域に乗り出す。2月に世界知的所有権機関(WIPO)と、途上国の中小企業、スタートアップ、起業家の知財支援で協力するとの声明に署名した。特許庁が実施している、スタートアップにビジネスと知財の専門家を派遣し助言などを行う「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」を展開し、途上国でのイノベーション創出や知財制度の整備などを推進する。
支援は日本政府からの拠出でWIPOに設置されている「ジャパン・ファンド」を通じて実施し、24年度は2億円を充てる。26年6月27日の「中小企業の日」までに627社を、将来は計1000事業者の支援を目指す。国際社会での存在感を高めている、グローバルサウス(南半球を中心とした新興・途上国)との関係づくりにもつながりそうだ。
また近年、知財審査に影響を与えつつあるのが、急速に発展する生成人工知能(AI)だ。知財推進計画2023では、生成AIがオリジナルに類似した著作物を生成するといった懸念や、著作権侵害が大量に発生し個々の権利者にとって紛争解決が困難になる恐れがある、などと指摘する。
これを受け、特許庁でも対応を強化している。AIの利活用と特許審査については、3月に「審査ハンドブック」にAI審査事例を新たに10件追加し、判断のポイントや審査基準といった特許審査の運用を分かりやすく解説。審査支援チームのAI担当官を13人から39人に増員したほか、AIを活用した創作物の特許法上のあり方についての調査研究事業なども実施している。
めまぐるしく変化する知財環境。対応力を高め中小・スタートアップのさらなる知財活用力向上を支える役割は、さらに重みを増しそうだ。
中小・スタートアップの知財活用支援/特許庁長官 濱野 幸一 氏
―知財経営支援ネットワークの形成から1年がたちました。
「特許庁、工業所有権情報・研修館(INPIT)、日本弁理士会、日本商工会議所の4者の相互理解や、中小の課題を見落とさず支援できる人材の育成などを進めている。支援が必要な企業の掘り起こしから、知財戦略構築といった総合的な支援まで、ワンストップでつながった事例も生まれている」
―さらに取り組みを発展させます。
「2024年度に始める『知財経営支援モデル地域創出事業』では、地域の担い手となるようなチームを創設する。持続的な知財活用の促進を目指す地域を創出していきたい。わが国のイノベーション、また地域経済の担い手として重要な役割を果たす中小企業やスタートアップが、知財活用を通じて経営力や収益力を強化できるよう、地域レベルでの支援体制を一層強化することが重要だ」
―世界知的所有権機関(WIPO)との連携の狙いは。
「途上国において知財を活用したイノベーションの推進や知財制度の整備が進むことで、わが国企業の円滑な知財権取得・活用やビジネス展開が促進されることを期待している」
―途上国での知財活用支援では、スタートアップに専門家を派遣し支援する「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」の知見が生かせます。
「IPASはビジネスと知財、両方の専門家が対話しながら課題を解決するメンタリングチームを組み、1社あたり5カ月にわたって伴走支援する。ビジネス戦略に連動した支援戦略を構築支援する点が非常に重要かつ特徴だ。6年間で104社を支援し、支援後に大きな資金調達やイグジット(出口戦略)を達成するなど、成功を収めている。先進国と途上国で国の違いによる課題の差もあれど、個社によって課題が異なるというのは共通だろう。いずれにしても個社の課題に沿って丁寧に支援する」
―その他のスタートアップ支援は。
「特許を出願したスタートアップや代理人に特許庁側から連絡を取り、各種支援策を紹介し活用を促すプッシュ型支援(PASS)を4月から始めた。さらに一歩踏み込み能動的にサポートしたい」
―5月からは経済安全保障に係る特許出願の非公開制度が始まります。
「非公開となりうる特定技術分野は限定的で、影響のあるユーザーは一部だろう。ただ日本国内での発明だと公になっていない特定秘密分野に該当する発明は、外国出願が禁止される場合がある。ホームページなどでも情報発信しているが、不明点があれば問い合わせてほしい」