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4月18日 発明の日
4月18日は「発明の日」。1885年4月18日に、現在の特許法の前身である「専売特許条例」が公布されたことに由来する。特許や意匠、商標など産業財産権の普及・啓発を目的に制定され、日本の産業発展の礎となった。技術進化や産業構造が大きく転換している現代、知的財産権の重要性は増している。競争力の源泉となる知財の創出や保護、活用のあり方について、あらためて考えたい。
中小企業が取り組むべき知財情報の活用
日本には約360万の企業が存在するが、そのうち99・7%が中小企業である。大企業に比べると、中小企業にはヒト・モノ・カネといった資源面において制約が存在するが、インターネットの普及により、入手できる情報という面では大きな差はなくなりつつある。組織規模の大小に拠らず、誰でも等しくアクセスできる情報の一つとして知的財産情報がある。知的財産には特許、実用新案、意匠、商標や著作権、ノウハウ・営業秘密などがあるが、ここでは特に特許に焦点を当てて紹介する。
イーパテント 代表取締役社長
野崎 篤志(知財情報コンサルタント)
特許情報でアイデア・創造
特許というと、自社が生み出した研究開発の成果である発明を出願して、自社の製品やサービスを保護することを思い浮かべる方が多いかもしれない。図1に小泉政権下で約20年前に提唱された知的創造サイクル(創造→保護→活用)に対応する知財の活用方法を示す。
従来は出願・権利化に代表される保護・活用フェーズにおける権利としての知的財産〝権〟であり、これらの知財活動の重要性が減じることはないが、中小企業でも今後積極的に取り組むべきなのは創造フェーズにおける特許情報の活用であり、IP(知的財産)ランドスケープと呼ばれている。新規事業テーマ探索や既存製品・サービスのアイデア出しに特許情報を活用することができると同時に、自社単独では研究開発や製品開発・販売が難しい場合の提携先や販路開拓にも適用することができる。
中小企業に限らず、企業を維持・発展させていくためには既存事業のテコ入れだけではなく新規製品・サービスの創出、新たな販路開拓が求められる。ここで特許情報が中小企業の抱えている経営課題に積極的に活用できるエビデンスとして、2023年12月に東京商工会議所が発表した中小企業の経営課題に関するアンケート調査結果を図2に示す。
20年以降に実施したイノベーションに関する新たな取り組みの中で生じた課題を見ると、顧客ニーズの把握・情報収集や、アイデア出しや企画・戦略策定といった企画段階において課題を抱えている中小企業が多いことが分かる。無料で入手できる特許情報には、さまざまな企業が研究開発でどのような課題に取り組んでいるのか、またその課題に対してどのような解決手段を用いたのかが記載されている。それゆえ、中小企業の企画段階における経営課題である顧客ニーズの把握・情報収集や、アイデア出しや企画・戦略策定に役立てることができるのである。
知財の専門家活用 弁理士・公的機関
特許情報へはJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)やTokky.Ai、Google Patents、Lens.orgなどの無料データベースを通じてアクセスできるが、特許情報は特許権という権利的な側面もあり、かつ技術的な側面を持つ情報だ。特許検索や特許分析の知識やテクニックを持っていないと、いきなり特許情報を活用するのは難しいという実情もある。
そのため、自社だけで取り組むのではなく知的財産の専門家である弁理士や、公的機関の支援事業を活用することが望ましい。
特許庁の外郭団体である工業所有権情報・研修館(INPIT)では、22年度からIPランドスケープ支援事業(21年度までは中小企業等特許情報分析活用支援事業)を行っており、「市場・戦い方・連携相手を見極めるIPランドスケープマニュアル」を公表している。
このマニュアルでは特許情報の活用タイプとして①自社の強みを生かせる新たな市場の探索②特定市場で競争力を獲得する方法の検討③自社にない技術を持つ連携相手候補の探索―の三つを挙げ、表に示すような中小企業の支援事例について解説している。
一例としてピクシーダストテクノロジーズでは、強みである「超音波技術」が効果を発揮する領域を発見するための戦略を立てることを目的として特許分析を行い、ヘルスケア分野における特定の疾患が次の進出先として有望であるとの結論を得ている。
特許は技術情報であるため、製造業ではないと意味がないのではないかと感じる方がいるかもしれないが、IPランドスケープ支援事業の利用者のうち29%は非製造業だ。「どうせ製造業の話だろう」と考えるのは早計である点を付記しておきたい。
中小企業 トップダウンで即実行
そして、実は中小企業のほうが特許情報活用・IPランドスケープを実施しやすい環境なのである。特許庁の知的財産活動調査結果によれば、大企業では経営トップが知的財産統括責任者であることはまれである。一方、中小企業の経営トップ(代表取締役・社長など)の42・6%が知的財産総括責任者である。経営トップが知財および知財情報の活用を強く意識することで、トップダウンで組織的に取り組むことが可能である。
いきなり経営トップの理解が得られない場合は、先述のIPランドスケープ支援事業の事例を経営トップと共有したり、INPITの専門家派遣(弁理士・技術士などの専門家を派遣し、知財に関する課題解決を支援)や解説動画(IP ePlat)などを活用したりして、まずは知財に対する啓発を行うことが望ましい。
ただし、とりあえず特許情報を分析してみれば何か分かるのではないかと、目的・課題意識を持たずに分析することは避けるべきである。IPランドスケープマニュアルには仮想事例による失敗ケーススタディーも掲載されている。失敗してしまう例として自己分析の不足、調査目的が不明確、特許情報だけに偏った分析などを挙げている。
冒頭でも述べた通り、現代は情報が氾濫している。Googleなどの検索エンジンでキーワードを入力すれば、何かしらの情報を収集することは容易である。しかし、特許情報分析に限らず、目的を持たずに漫然と情報収集・分析を行っても、自社ビジネスに生かすことのできる有益な結果を得ることは難しい。しっかりと自社の課題を認識し、その課題を解決するための仮説を持った上で情報収集・分析を行うことが望ましい。
ここまで特許情報分析・IPランドスケープの有用性について述べてきたが、特許情報分析・IPランドスケープは魔法の杖(つえ)ではなく、特許情報を分析すれば戦略が自然と導出されるわけではない。今まで事業戦略の策定や新製品・サービス開発に特許情報を活用してこなかったのであれば、今後は特許情報〝も〟積極的に利用し、事業の維持・発展に役立てていただきたい。