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兵庫・神戸産業界
兵庫・神戸地域の企業や機関などで、デジタル変革(DX)への取り組みに意欲が高まっている。兵庫・神戸のDXの旗手は、2021年に共用開始した理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS、神戸市中央区)のスーパーコンピューター「富岳」と言えるだろう。23年には日本マイクロソフトが人工知能(AI)の開発拠点を神戸市中央区に設置と、大きな話題が続いている。地元企業も、DXで独自の展開を見せている。
IT大手、「富岳」活用しサービス提供
クラウドで気軽に体感
R-CCSは2021年3月にスーパーコンピューター「富岳」の共用を開始した。利用料は原則無料だが、審査を通過した企業や研究者などにアカウントを発行し、各自の研究に役立てている。新型コロナウイルス感染症の流行期はサービス共用開始前だったが、完成前から同ウイルスの飛沫シミュレーションや治療薬候補の同定などに使用された。
そして8月、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドを活用した「バーチャル富岳」の提供を始めた。創薬に活用できる「GENESIS(ジェネシス)」、自動車や飛行機のボディーの空気抵抗や騒音の解析のほか血管内の血液の流れが解析できる「OpenFOAM(オープンフォーム)」など約30の「富岳」向けに整備したソフトウエアをAWS上にまず用意した。AWSにアクセスすることで利用者は、「富岳」を気軽に体感出来るという仕組み。「富岳」とAWSには「富岳」と互換性のあるサーバーがあり、比較的容易に「富岳」のソフトウエアが動作可能だ。汎用性があり、普及が進むAWSへ「富岳」のソフトを投入することで「富岳」の利用の底上げを図る。
井口裕次運用技術部門副部門長は、「『富岳』を中心としたスーパーコンピューターのエコシステムを作りたい。世界中どこでも動くプログラムを目指す」と話す。
システム開発期間短縮/AIラボ フル稼働続く
神戸市中央区にある日本マイクロソフトのAI開発拠点「Microsoft AI Co-Innovation Lab(AIラボ)」は23年10月に開設。まもなく1年が経過しようとしている。AIラボは、神戸市や神戸経済界が積極的に誘致した肝いりの拠点。神戸市が姉妹都市の米ワシントン州シアトル市に訪問団を派遣した際、マイクロソフト本社を訪れたのを契機に誘致を進めた。結果、23年に神戸市や川崎重工業、神戸商工貿易センターが協力機関となって開設に至った。
「攻めのDX」を進めるためのAIを開発する意欲を持つ企業のIT技術者とAIラボの技術者が協業する場にするねらいだ。企業とAIラボの技術者の協業により、システム開発の期間を数週間などと大幅に短縮できることが特徴。企業側が開発の目的やねらいを明確にした上で関連する情報を持ち寄り、これをもとにしたAIを作成する。
AIラボは世界に神戸市を含めて6拠点ある。神戸市への進出に先駆けて、洋菓子のバウムクーヘンが代表的な商品のユーハイム(神戸市中央区)が、米ワシントン州レドモンド市のAIラボを活用した実績があるという。CCDカメラなどを駆使しながら熟練職人の技術をデータにして、AI化。熟練職人と同じレベルでバウムクーヘンが焼けるように制御したオーブン「THEO(テオ)」の開発に成功した。こうした神戸企業の実績なども、開設への追い風になったと見られる。
誘致を進めた神戸市によると、神戸市のAIラボはフル稼働の状態が続く。実績も着々とできており、理研ベンチャーで人工多能性幹細胞(iPS細胞)を活用した網膜疾患治療の開発を進めるビジョンケア(神戸市中央区)もAIラボを活用。1カ月ほどで、再生医療について患者への説明と同意を支援する生成AIを開発した。高橋政代ビジョンケア社長は「日本IBMも同様のAIの開発を進めている」と話すが、神戸にいながらこうした企業と同じ方向性の製品開発に挑戦できるのだ。
デジタルヘルスなど/独自の商材開発も
兵庫・神戸にはこのほかにも、独自に商材の開発を進めている企業も多い。デジタルヘルスへの期待が高まる中、検査薬大手シスメックスのグループ会社のディピューラメディカルソリューションズ(神戸市中央区)は23年、中核病院と訪問看護師間で患者の情報をリアルタイムで共有するアプリ「カレイドタッチ」のサービスを始めた。パソコンのほかスマートフォンやタブレットにアプリをインストールして使用する。腹膜透析のケアで最も評価されており、写真などに残すことで病状の悪化などの予見が容易になっているという。岡田正規社長は、「ソフトの受託開発のほか、(シスメックスの)検査とのシナジーが出せるような方向性を模索している」と話す。
神戸製鋼所グループの、コベルコE&M(神戸市灘区)は熟練技術者の溶接技術をVRによって習得するアプリ「ナップ溶接トレーニング」を自社開発し、人材育成に役立てている。アーク溶接やTIG溶接のほか、半自動溶接に対応。市販のVRヘッドセットを使用し、溶接を疑似体験する。神鋼グループの販売網を活用し一部、外部への販売も始めている。神鋼グループでは溶接棒を手がけており、VRソフトとのセット販売なども期待できそうだ。