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千葉県産業特集
中小企業の持続的成長を実現
コロナ禍が収束し、経済活動は本格化したが、人手不足や物価の高騰などが中小企業を直撃し、経営環境の厳しさは続く。現在の中小企業の景況感をどのように認識しているのか、その中で持続的な成長を実現するには何が必要なのか、そして中小企業をどのようにサポートしていくのか。4月1日付で中小企業基盤整備機構関東本部本部長に就任した新保章氏に聞いた。
中小企業基盤整備機構 関東本部 本部長 新保 章 氏インタビュー/経営課題解決へメニュー多数用意
―関東本部本部長に就任した抱負を聞かせてください。
「人手不足や物価高、カーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)への対応など、企業ごとに経営課題はさまざま。企業の話を聞き、それぞれの課題に寄り添ったサービスを提供する姿勢を大切にしたい。関東本部が管轄する1都9県の最前線に立ち、企業の課題を丁寧に吸い上げ、伴走しながら一体となって支援していく」
―海外関係の業務経験が豊富です。
「日本の中小企業は多くの優れた製品やサービスを持っている。人口が減少し、国内市場が縮小する中において、海外市場の取り込みは重要だ。とはいえ経験がないことから、海外進出に躊躇(ちゅうちょ)する企業は少なくない。中小機構は、企業の身の丈にあった海外展開の姿を一緒に考え、海外進出に際してのアドバイスをし、事業計画の策定や電子商取引(EC)の活用などの支援を行う」
―中小企業の景況感をどのように認識していますか。
「コロナ禍が明けて一時的に回復したが、現在は持ち直しの動きに足踏みがみられる。原材料費や商品仕入れ価格の高騰は少し落ち着いた感はあるものの、企業の売上単価を見ると、価格転嫁が十分ではない。人手不足は常態化しており、物流や建設業界の2024年問題など、中小企業を取り巻く環境は刻々と変化している」
―その中で持続的に成長するには、どのような取り組みが必要ですか。
「少子高齢化が進み、人手不足は今後も続く。そのためITの活用や自動化による省力化、人材の確保、定着や育成の取り組みは欠かせない。また国内市場が縮小する中、海外進出など販路開拓も重要になる。さらに今後の災害に備え事業継続力の強化も重要だ」
IT経営サポートセンター開設
―どのようにサポートしていきますか。
「関東の中小企業・支援機関向けに、IT分野の相談窓口『IT経営サポートセンター』を4月に開設した。人手不足相談窓口も設け、中小企業大学校では人材採用に関する研修を拡充している。また専門家を派遣し、採用に向けた課題整理、人事制度の構築による人材定着、中核人材の育成などを支援する。マッチングサイト『ジェグテック』を活用すれば、海外企業や大手パートナー企業とのマッチングも可能だ。簡易版BCPとも言える事業継続力強化計画策定も支援している」
―千葉県の中小企業の経営者にメッセージをお願いします。
「中小企業の課題解決につながる多くのメニューを用意している。まずは気軽に相談してもらいたい。カーボンニュートラルやITなども悩みを聞き、寄り添いながら対応する。新しい事業展開のヒントが得られるかもしれない。中小機構も支援能力に磨きをかけながら、相談をお待ちしている」
事業承継・引継ぎ支援センター M&A事例/大成機械工業(製麺機メーカー)の事業継承-明和製作所(板金加工)
板金加工を手がける明和製作所(大阪市此花区、下條聡哉社長)は、2023年5月に製麺機メーカーの大成機械工業(同)をM&A(合併・買収)した。明和製作所は下請けからの脱皮の足がかりをつかんだ。大成機械工業は後継者が不在だったが、技術の承継とユーザーサポートの継続が可能になった。ウィン・ウィンの事業承継型M&Aについて、大成機械工業の創業者で顧問の富沢昇氏と、明和製作所社長の下條氏に背景と今後の展開を聞いた。
技術つなぎ顧客サポート継続
―製麺機業界では「タイセイ」ブランドで知られています。
「1970年に大成機械工業を創業し、78年から製麺機の製造を始めた。これまでに累計で数千台の販売実績がある。最近では欧州を中心に海外でも販売している。2023年6月期の売上高は1億2000万円で、ピークは2億円を超えたこともある」
―大成機械工業を売却した理由は。
「私の年齢が77歳で、私を支えてきた加工と組み立ての各担当者も高齢と、従業員全体の高齢化が進んだためだ。身内にも後継者はいなく、後継者を育てられず、見つけられなかった。そのため千葉県事業承継・引継ぎ支援センターに相談し、M&Aのコンサルティング会社も紹介してもらった」
―M&Aの条件は。
「金額もそうだが、技術の引き継ぎと既存客へのサポート継続が重要だった。M&Aから1年間が経過するが、下條さんには私の期待に応えてもらっている」
メーカーに転身・製品グローバル展開
―M&Aの狙いは。
「これまで船舶の厨房や産業機器などの板金加工を手がけてきた。最近ではガス調理器具をOEM(相手先ブランド)供給している。ただ、下請けではなく、自分で仕事を作り出せるメーカーになりたかった。メーカーになれば経営の安定化にもつながるためだ。だが、当社には技術力が不足していた」
―何がM&Aの決め手になりましたか。
「大成機械工業は老舗の製麺機メーカーで、しっかりとした技術力も持っており、業界でも知られた存在だ。下請けからメーカーになるチャンスであるとともに、大成機械工業と明和製作所の両社にとってウィン・ウィンになることから、M&Aを決めた」
―技術の引き継ぎは進んでいますか。
「富沢さんが50年以上にわたって培ってきた技術を引き継ぐのは大変なことだ。これまで大成機械工業の旧本社がある千葉県野田市の拠点に、当社の社員を常駐させて研修を受けてきた。今後、野田市の製造機能などを大阪に集約し、千葉と大阪の行き来を解消するなど業務の効率化を進める。今後も大成機械工業は存続させ、野田市の拠点も残し、東日本のユーザーサポートを担当してもらう。富沢さんも引退には早く、引き続き顧問として残ってもらい、これからも相談に乗ってもらう」
―引き継いだ資産をどのように増やしていきますか。
「世界的にラーメンが大ブームになっている中、大成機械工業の製麺機をはじめとし、明和製作所の商品を含めてグローバル展開を進めたい」