-
業種・地域から探す
熊谷俊人千葉県知事インタビュー/立地優位性を経済拡大の力に
千葉県には、工業や農業、漁業、観光業など地域によりさまざまな産業が集積している。また、日本最大の貿易港である成田空港の滑走路新設などの機能強化、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)、北千葉道路の全線開通を控え、立地優位性が高まっている。他方、中小企業にとっては原材料価格の高騰や人手不足など経営課題も多い。任期4年目を迎えた熊谷俊人知事に経済産業施策を中心に話を聞いた。
成田空港機能強化・道路インフラ拡充 企業誘致追い風
-
千葉県知事 熊谷 俊人 氏
―任期最終年を迎えました。3年間の成果をどう評価しますか。
「各分野で施策を前進できた。千葉市長経験者として、オール千葉県で課題に取り組む体制を作るため、県内全ての市町村を訪問し、コミュニケーションを密にしている。災害時やコロナ禍でもさまざまな形で連携できた。教育面では、県独自に専科教員やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどの多様な人材を学校現場に配置した」
―残りの1年で注力することは。
「各分野の施策をしっかり結果につなげていく。特に防災危機管理には終わりがない。1月の能登半島地震を受けて、同じく半島である千葉県で同様の災害が起きた場合の対応について、県民の意識や期待が高まっているだろう。能登への支援や、私自身が現地視察で得た経験や教訓を生かし、大規模災害が起きたとしても確実に県民を守れる危機管理体制を構築する」
大規模国際物流拠点プロジェクト始動
―産業経済政策での成果は。
「企業立地が順調に進んだ。特に成田空港の機能強化を千葉県産業の起爆剤に変えるため、国との折衝により農地を含む土地利用規制の弾力化を実現した。その結果、物流大手の豪グッドマングループとヒューリックによる2件の大規模国際物流拠点のプロジェクトが動き出した。物流に限らない産業立地をどう進めるかが次のフェーズであり課題だ。場合によっては国に土地利用規制の弾力化の対象拡大を求めたい」
―マイナス金利解除の影響をどう見ていますか。
「現時点では金利が大幅に変動することはなく、日常生活や企業活動に大きな混乱は生じていないと認識している。ただ、緩やかではあるが金利が上昇し、一部の中小企業では元々経営状態が厳しい中で借り入れ負担の増加が痛手になっているようだ」
「県としては2023年度9月補正予算で、デジタル変革(DX)による省力化や生産性向上のための設備投資に対し、独自の補助金を新設した。また、中小企業の相談対応や経営支援、プッシュ型支援といった伴走型支援に注力している。中小が困難な局面を乗り越えられるよう、前向きな動きを支えていきたい」
中小のデジタル化支援を拡充 生産性向上・人手不足解消 後押し
―24年度に中小企業のデジタル化支援を拡充しました。
「全国の中小企業の約7割がデジタル化を実施していないと言われている。必要性はわかっていても、デジタル化を担う人材がいない、効果や成果がわからないといった理由で二の足を踏むケースが多く、県内企業も同様の課題を抱えている。この課題は補助制度を用意するだけでは解決しない」
「そこで製造業を中心とする中小企業への直接訪問によるプッシュ型の支援制度を始めた。これは全国的にも珍しい取り組みだ。具体的には、産業振興センターの担当スタッフによる企業訪問を通じてデジタル技術の導入が必要な企業を掘り起こすとともに、4月に新設したデジタル推進課に配置した専門人材が、ITベンダーとのマッチングなどを進め、デジタル技術の導入を図っていく。このことにより、デジタル技術の活用が広がり、生産性向上や人手不足解消など、県内企業の成長や活性化につながることを期待する」
企業誘致推進 補助金制度 柔軟に見直し
―23年度はメルセデス・ベンツ日本の本社、SMCの研究開発拠点などの企業誘致が実現しました。
「企業誘致にあたってはいくつかのキーファクターがある。まずは立地企業補助金制度を実態に合わせて柔軟に変化させること。従来は数年に一度しか制度を見直していなかったが、私の就任後は企業のニーズや他自治体の施策を鑑みて毎年見直している。産業用地が枯渇する中でも企業を呼び込むため、24年度から工業団地以外に工場を立地する場合も立地企業補助金の対象とした」
「もう一つは積極的に企業訪問すること。呼び込みたい企業だけではなく、すでに立地した企業も訪問することで、操業状況や追加投資、取引先の新工場計画などの情報をつかみ、新たな企業立地の種を生み出せる。担当課は23年度に950件の企業訪問を行った。私も企業誘致セミナーや都内での要望活動の合間など、機会を捉えて役員クラスと意見交換している」
―今後の企業誘致方針は。
「千葉県は首都圏中央連絡自動車道(圏央道)や北千葉道路(の全線開通)、成田空港の機能強化を控え、拠点性が高まるいい時期を迎えている。この機を逃さず、県経済全体のパイを広げていけるような企業立地や投資を獲得したい。アジアの主要空港周辺は、思い切った国策によるプロジェクトが進んでいる。成田空港を持っている県として、アジアと戦っている意識を強く持たなくてはならないし、国に対してももっと大胆にコミットするよう訴えていく」
―能登半島地震に加え、県内でも千葉県東方沖で地震が多発しています。企業の防災・減災の取り組みをどう支援しますか。
「自然災害や感染症、サイバー攻撃、(災害などの影響で)電力が途絶した場合などのリスクに備えるには事業継続計画(BCP)策定が非常に重要だ。千葉県では産業振興センター内に『チャレンジ企業支援センター』を設けており、BCP対策を含めた相談に対応している。また、22―23年度のBCP策定支援事業を通じて事例が積み上がっており、業種や各社の環境に応じて横展開させていく」