-
業種・地域から探す
続きの記事
建設産業
地域性を生かしたネイチャーポジティブの在り方
【執筆】 戸田建設 技術研究所 社会基盤再生部 土木環境課 山本 凌
近年、生物多様性の喪失や気候変動などの環境問題は中長期的に世界経済に影響を与える深刻なリスクとされ、これらに対する国際的な取り組みが加速している。英国では「生物多様性ネットゲイン」を国レベルで初めて法制化し、土地の造成を伴う開発において、開発前と比べて生物多様性を10%以上増加させることを事業者に義務づけた。このように、国際的にネイチャーポジティブ(自然再生)へ向けた社会・経済の仕組みを構築する動きがみられる。戸田建設は2010年に「戸田建設生物多様性行動指針」を策定し、グリーンインフラの提供などを通して、生物多様性の保全と再生に努めてきた。ここでは、緑地の面積を増やす単純な量的拡大ではなく、その地域の特性を生かしたネイチャーポジティブに関する当社の取り組みを紹介する。
地域性在来植物のみを使用したビオトープ
-
地域性在来植物のビオトープ ~つくば再生の里~
当社技術研究所(茨城県つくば市)では、2018—21年にかけて「つくば再生の里」と呼ぶビオトープを整備した。本ビオトープの最大の特徴は、地域に由来する在来植物(以下、地域性在来植物)のみを使用し、緑地を構成している点である。
近年、緑地を構成する際に在来植物を使用する重要性は広く認識されているが、在来植物であっても、その地域に本来分布しない場所へ持ち込んだ場合には、外国の植物と同様にその地域の生態系を脅かす危険性が指摘されている。本ビオトープでは導入植物を地域性在来植物に限定することで、遺伝子の違いによる異なる形質が交雑することを防ぎ、地域固有の生態系を保全している。
つくば再生の里の整備では、文献調査と現地調査で計画地に適した在来植物と植生を把握し、遺伝子群の隔離要因とされる地理的条件をもとに、植物の調達範囲を定めた。
植物の採取から導入の過程では、生物多様性保全協会が発行する「地域性在来植物トレーサビリティの管理・認定基準」に則り、選定した在来植物の採取地や計画地までの移動経路を管理・記録することで、トレーサビリティー(履歴管理)を明確にする取り組みを実施している。
また、採取植物の育成養生時には、育成場所での花粉の飛散や受粉、種子の飛散を防ぐため、可能な限りビニールハウスで養生し、採取植物および育成場所への遺伝子のかく乱が起こらないよう注意した。
整備後のモニタリング調査では、茨城県の準絶滅危惧種に指定されている希少な生き物も確認されており、良好な生息環境を創出できている。在来植物に地域性を意識した本取り組みは外部機関からも一定の評価を得ており、つくば再生の里を含む技術研究所の敷地全体の緑地で、環境省の「自然共生サイト」に認定され、都市緑化機構の「社会・環境貢献緑地評価システム(SEGES)」で「そだてる緑」の認定を取得している。
植生の地域らしさを考慮したまちづくり
-
将来的に樹林を形成する外構植栽
所沢市第2一般廃棄物最終処分場(埼玉県所沢市)では、約1万9400平方メートルの広大な緑地に対して、地域本来の植生を考慮した緑化計画を行い、生物多様性の回復を図るとともに自然と共存するまちづくりに関する取り組みを行った。所沢市による本事業の課題として、地域住民に受け入れられる周辺環境と調和した整備計画が求められていた。緑化計画では建設場所の地形や気候条件から、自然植生に至る遷移系列を「シラカシ群集」「クヌギ—コナラ群集」「チガヤ—ススキ群落」と推定し、導入する植物種を決定した。
本事業の植栽は在来種のみで構成され、植物の調達についても産地証明が可能な本州中北部で生産された植物材料を使用することで、地域の違いによる遺伝子のかく乱を最小限としている。また、市民利用の観点から、レクリエーションや憩いの場として幅広い活用用途に対応する在来種を用いた芝生広場の整備や生物多様性に関して学べる看板を設置するなど、自然に触れながら環境学習ができる場を設けた。
これらの取り組みを実施することで、最終処分場として求められる安全・安心のための機能を満たしつつ、周辺の自然環境と調和し、生物多様性と地域貢献性が高い施設整備を実現した。本取り組みによる生物多様性への貢献度の評価として、日本生態系協会が定めるハビタット評価認証制度「JHEP」のA+ランクの認証を取得している。
「木財トレーサビリティ」と「森を忘れないプロジェクト」
当社新社屋「TODA BUILDING」(東京都中央区)での新オフィス「TODA CREATIVE LAB」では、当社と地方創生に関する包括連携協定を締結している北海道下川町と連携し、木材の産地から使用者までの流れを可視化する「木財トレーサビリティ」の取り組みを実施している。
本取り組みでは、木材がどこで育ち、どのように加工され、どの空間に使われているかをデジタル技術で記録し、2次元コード(QRコード)から確認できる仕組みを構築した。また、産地・加工業者・施工者が連携し、端材や規格外木材を什器や内装に活用することで、森林資源の無駄を減らし、持続可能な木材利用に取り組んでいる。使用する国産木材では、FSCジャパンが普及を行う「FSC森林認証」のプロジェクト認証を取得し、FSC認証材の産地である北海道下川町が掲げる「持続可能な森林経営」の実現に貢献している。当社では、木材活用による二酸化炭素(CO2)固定効果や木の温もり・暖かさに加え、デジタル技術を活用した木の記憶という付加価値を持つ建築「森を忘れないプロジェクト」を提案し、森林生態系の再生・ネイチャーポジティブにつながる建設を目指していく。
現状の課題と今後の展開
-
壁および天井ルーバーに木材を活用した役員廊下(エスエス提供)
地域性を生かしたネイチャーポジティブを推進していくためには、地域固有の生態系を保全することの重要性を認識し、地域性在来植物を積極的に導入していくことが求められる。しかし、産地証明やトレーサビリティーが担保された植物材料の流通数は限られており、材料生産にかかるコストも通常より高くなることが課題だ。
今後、緑化植物の採取地情報の公開を一般化することや、地域圏での流通網が確立されることなどにより、地域性在来植物を導入しやすくする枠組みの制定や技術的支援の充実が図られることを期待する。
