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建設産業
土木・建築連携による複合災害へのレジリエンス強化
【執筆】 工学院大学 建築学部 まちづくり学科 教授 久田 嘉章
近年、少子高齢化や人口減少、財政赤字が進む中で、震災や風水害が多発している。従来のシングルハザードを想定した土木・建築など分野別の対策から地域固有のマルチハザードを想定した複合災害にも柔軟に対応し、速やかな復旧・復興を可能とするレジリエンス(復元力)性能の強化が求められている。そのためには、土木・建築など分野を超えた連携が必須だ。ここでは、水害と土砂災害の調査研究事例を紹介する。
人口減と財政赤字 既存設備の維持管理困難
近年、震災に加え異常気象による水害や土砂災害、林野火災、豪雪などの自然災害が多発し、災害の連鎖により被害が拡大している。例えば、2024年1月の能登半島地震では活断層帯地震の激しい揺れと津波により、多数の老朽家屋の倒壊・流失や延焼火災、急傾斜地や盛土の崩壊、液状化などが発生した。
さらに、ライフラインの復旧や生活再建の途上で同年9月に奥能登豪雨が発生し、土石流や急傾斜地崩壊、洪水で被害が拡大した。被災地は現在も復旧途上にあり、直接死228人に対して災害関連死は475人に上り、死者数は増え続けている。
従来の対策は建築分野での耐震・耐火、土木分野での治山・砂防・治水・海岸保全など分野別に行われている。各対策は大いに進展して被害低減に寄与しているが、複合災害では効率が悪いだけでなく、災害種によっては矛盾する場合がある。また、大規模な防潮堤や砂防堰堤(えんてい)などの防護施設は景観・環境保全・維持管理の困難さなどさまざまな課題も懸念され、想定被害からの速やかな復旧(レジリエンス性能)の検討も不十分である。
例えば、洪水や津波の場合、再現期間が数十年から数百年程度の規模である「L1想定」では堤防・河川整備などの土木分野のハード対策で被害を防ぎ、千年に一度程度の規模である「L2想定」では警戒避難体制の強化などソフト体制の整備が主要な対策となる。
しかし、近年は人口減と財政赤字が続く厳しい状況にあり、L1想定の防護施設の整備だけでなく、既存施設の維持管理も困難だ。さらに、L2想定の水害の可能性は極めて低く、避難警報が発令される場合でも大半は軽微な被害であり、多くの住民は避難しないのが現状だ。
RC造建物などを活用し、防災対応強化へ
一方、新しい建物には高い耐震・耐火性があり、現在では水害や土砂災害に対してもさまざまな対策が可能となっている。特に人口が集中する都市域では、大災害時に混乱を避けるため、最近では在宅・在勤避難が奨励されている。高い耐震性がある建物は津波や洪水、土石流などの水平荷重にも有効であり、特に重量と高さのある鉄筋コンクリート(RC)造の建物は避難ビルだけでなく、導流壁や土砂流入防止壁の役割も担い下流側の地域への公共的な貢献も期待できる。
木造建物でも最新の耐震基準であれば、3メートル程度までの浸水深の津波や洪水でも流失・倒壊の可能性を大きく低減できる。古い木造住家で補強や建て替えが困難であれば、RC造の壁や塀の設置などが即効的で経済的な対策となる。
図1は24年奥能登豪雨の際の輪島市久手川町の塚田川洪水後の古い木造住家である。浸水深が2メートル以上の氾濫流で周辺の木造家屋や倉庫は全て流出したが、RC造の塀により流失を逃れていた。さらに下流に隣接する木造住家の止水壁の役割も果たしており、2棟とも2階以上は生存空間(サバイバルスペース)が確保されていた。
土砂災害やがれき・流木などが建物に衝突する場合でも、重量と高さのあるRC造建物であれば流出・倒壊の可能性は低く、上階には生存空間も確保できる。木造建物でも上流側にRC造の壁や塀の設置や、1階をRC造や重量鉄骨造とする混構造などの対策により被害を大きく低減できる。
図2は21年7月に発生した静岡県熱海市の土石流の被災状況である。周辺の木造家屋は全て流失しているが、図2にある①の2棟のRC造建物は残存し、2階以上に生存空間が残されていた。また、図2の②は混構造(1階が重量鉄骨造のピロティ式駐車場、2階が木造住家)であり、土石流は1階を通り抜けており、2階の住家はほぼ無被害であった。
自助・共助で災害対策
土木・建築分野が連携し、水流や土石流などの流体シミュレーション技術などを活用することで、従来のような大規模な河川改修や堤防、砂防堰堤に頼ることなく、効果的に導流壁や流入防止壁、防災林などを配置し、盛土・高床・ピロティなど建築的な手法を採用することで費用対効果が高く、景観や自然環境にも配慮した対策が行える。
実例として、23年の台風13号で浸水被害が生じた日立市庁舎(茨城県日立市)では、氾濫河川の改修と庁舎の止水・防水対策による土木・建築の専門家が連携した補修工事を行っている(❸)。
今後、少子高齢化や過疎化が進む地域では大規模な公共事業に頼るだけでなく、短期的な対策として建築的対策の採用が有効だろう。長期的な対策としては、世代交代や建て替えを契機として被災リスクの少ない地域への居住誘導も検討すべき時代だ。
災害対策の基本は自助と共助であり、震災と火災に関して社会的にも認識されているが、水害・土砂災害では公共事業や被災後の公費解体、生活再建費など公助に過度に依存しているのが現状だ。流域治水に代表されるように、近年では被災の可能性がある全ての関係者による対策が求められている。
自助・共助の推進には可能性の低い最大規模想定だけでなく、可能性の高い中小規模のハザード情報も必要であり、洪水に関しては1級河川での多段階の水害リスクマップ・浸水想定図が公開され、建築分野でのハード・ソフト対策も徐々に進みつつある(❹・❺・❻)。
今後は土砂災害など他の災害も統合したマルチハザード情報の整備が必要であり、土木・建築など分野横断による費用対効果の高い建築・まちのレジリエンス性能の強化が求められている。
【出典・参考文献】
❶久田嘉章,令和6年9月能登半島豪雨災害に関する調査速報,日本建築学会,2024
https://saigai.aij.or.jp/saigai_info/20240921_heavy_rain/20240921_heavy_rain.html
❷久田嘉章・藤内健太郎,2021年熱海市伊豆山地区の土石流による建築物の被害調査,日本建築学会技術報告集,29巻,71号,p.549—554,2023
❸日立市,庁舎安全対策計画,2024
https://www.city.hitachi.lg.jp/shisei/johokokai/1011957/1014068.html
❹国土交通省,水害リスクマップおよび多段階の浸水想定図,2022
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/ryuiki_pro/risk_map.html
❺文部科学省,水害リスクを踏まえた学校施設の水害対策の推進のための手引,2023
❻国土交通省・経済産業省,建築物における電気設備の浸水対策,2024
