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建設産業
「通常外」を想定内に変え、DXをムダにしない業務再設計へ
【執筆】 改善コンサルタント 技術士(経営工学部門) 小松 加奈
働き方改革の進展、共働き世帯割合の上昇、就業者の高齢化などにより、建設業を含む多くの業界で1日に投入できる工数は減少している。従来と同じ期間で同じ出来高を確保することは難しく、生産性向上は避けて通れない課題だ。IT化やデジタル変革(DX)は有効な手段である一方、業務を整理しないまま導入すれば、かえって新たなムダを生みかねない。ここでは、経営工学における改善の基本である「ECRSの原則」を起点に、ムダ削減、段取り改善、「通常外」への対応、型化、そしてDX活用までを一貫した業務再設計として整理する。
改善の基本は「ECRSの原則」
ECRSの原則は排除・結合・並べ替え・簡素化の順に改善を検討する考え方であり、改善を進める上での基本となる原理原則である。
業種や業務内容、現場か事務かを問わず、「何を残し、何を減らし、どこを変えるのか」を判断するための共通言語として機能する(表1)。
特に重要なのは順番だ。最初に「排除できないか」を問わずに簡素化へ進むと、本来なくても成立する仕事を温存したまま、改善活動そのものがムダになりかねない。
建設業では、過去の経緯や慣習により「なぜやっているのかわからない仕事」が蓄積しやすい。ECRSの原則に立ち返り、目的に直結しない業務は排除し、重複する確認や資料は結合し、詰まりやすい工程は並べ替え、最後に簡素化する。この整理が、すべての改善の出発点となる。
このように、ECRSを起点にさまざまな業務の改善を行うことができる(表2)。
ムダは「現場系」と「事技系」の両方に存在する
ムダの把握には「七つのムダ」の視点が有効だ。現場系の七つの無駄は「加工、在庫、つくりすぎ、手待ち、動作、運搬、不良・手直し」である。これらは出来高や品質に直結し、比較的見えやすい。一方で、近年の建設業では、事務・技術・管理に潜むムダが、生産性低下や残業の大きな要因となっている。
事技系の七つのムダとして挙げられるのが、「会議、根回し、資料、調整、上司のプライド、マンネリ、ごっこ」である。目的が曖昧な会議、承認のためだけの根回し、読まれない資料、関係者間の調整作業、前例を守るための判断、理由なき踏襲、やっている体を保つだけの業務。これらは、一つひとつは小さく見えるが、積み重なると判断時間と集中力を奪い、確実に生産性を下げる。
ECRSの原則で業務構造を整理した上で、現場系・事技系双方のムダを洗い出すことで、「やらなくてよい仕事」が明確になる。生産性向上とは、作業を速くすることだけではなく、やらなくてよい判断や調整を減らすことでもある。
段取り改善の基本技術としての「内段取り・外段取り」
「内段取り・外段取り」は、段取り作業を「その時・その場でしかできず、他の作業を停止して行う必要があるもの(内段取り)」と、「事前に、または作業と並行して進められるもの(外段取り)」に分類し、内段取りを外段取りへ移行することで処理量を高める段取り改善の基本技術だ。
建設業においても、段取り作業を同時進行・並行作業・事前準備へ置き換えることで、作業の中断時間を減らし、出来高を安定させることができる。重要なのは、作業者の頑張りに依存しないことである。
建設業特有の課題としての「通常外」
建設業の特徴は、天候変化、資材遅延、欠員、他工種の進捗遅れなど、計画時点では完全に制御できない「通常外」が高頻度で発生する点にある。通常外そのものをなくすことは難しい。問題となるのは、通常外が発生するたびに判断・確認・調整が増え、現場が止まることである。
したがって、重要なことは通常外を例外対応として扱うのではなく、運用の中に組み込むことである。例えば、雨天時には品質や安全の観点から「やらない作業」を先に定義し、屋内で進められる作業や段取り・準備へ切り替える。欠員や資材遅延についても同様に、切り替え条件と代替案をあらかじめ用意しておく。これらにより、通常外が発生しても判断会議や手待ちを最小化できる。
型化によって判断を減らし、継続可能にする
生産性向上を一過性で終わらせないためには、物事の観点をチェックリスト化し、判断をパターン化し、組み合わせて使う「型」を持つことが重要だ。型があれば、毎回ゼロから考える必要はなく、状況に応じて組み合わせ、最後に微調整するだけでよい。
これにより、考えたり迷ったりする時間が減り、同じ時間で処理できる量が増える。時間切れによる作業の先送りや諦めが減り、ミスやモレの防止、他者との共有、若手への移管にも効果を発揮する。型化とは、判断を減らし、業務を安定させるための仕組み化である。
DXは「型」を前提に業務を加速させる
DXには情報の集約や共有、進捗の可視化、管理負荷の低減など、さまざまな目的がある。これらは生産性向上に寄与する重要な要素だ。
一方で、業務内容や判断基準が整理されないままDXを導入すると、入力項目の増加や確認作業の追加など、従来にはなかった作業が発生し、かえって現場の負担が増えるケースも少なくない。
DXは業務を「代替」するものではなく、「増幅」させる性質を持つ。整理されていない業務をそのままデジタル化すれば、ムダや迷いもそのまま拡大される。したがって、DXの効果を引き出すためには、先に業務の構造を整えておく必要がある。
ECRSの原則に基づき業務を整理し、不要な仕事を排除し、ムダを減らした上で、段取り改善や通常外対応を型として整える。この状態でDXを活用することで、入力や判断は最小限となり、情報は意思決定や改善に直結する。結果として、業務全体の処理は安定し、改善のスピードと再現性が高まる。
おわりに
生産性向上と働き方改革を両立させるために重要なのは、流行の手法や技術を先に導入することではなく、業務の本質を捉え直すことである。ECRSの原則に立ち返り、やらなくてよい仕事を減らし、段取りを整え、通常外も含めて業務を運用として設計する。その上で型として定着させることで、改善は属人化せず、継続可能なものとなる。
原理原則を軸に、現代の技術を推進力として活用することが、建設業をはじめとする多くの業界において、限られた工数の中で持続的に価値を伸ばしていくための土台となる。
