-
業種・地域から探す
続きの記事
建設産業
人口減少社会における持続可能な都市の再構築
モデル分析が示す未来と建設産業の役割
【執筆】 日本大学 理工学部 交通システム工学科 助教 菊池 浩紀
急速な人口減少と高齢化は従来の都市構造の維持を困難にしている。ポストコロナ社会ではテレワークの普及や生活様式の変化により、従来の人々の移動や暮らし方の前提も揺らいでいる。こうした中、「コンパクトシティ」に加え、「15分都市」といった新たな都市構造が注目されている。ここでは、中長期のモデルシミュレーションの分析を通じ、人口減少時代の都市の方向性と、それを支える建設産業の役割を考察する。
■背景・課題
現在、日本の地方都市は二つの大きな転換点に立たされている。一つは、少子高齢化と人口減少による都市規模縮小という構造的課題だ。日本の総人口は減少の一途をたどり、医療・福祉・交通などの公共サービス維持が年々困難になっている。
もう一つは、コロナ禍を契機に広がったテレワークや生活のオンライン化といった機能的変化である。通勤や買い物などのライフスタイルのパターンが変わり、これまでの都市計画が前提としてきた「人口集中」の構造が揺らいでいる。これら二つの変化は、従来の拡散型都市構造を維持する限り、行政サービスやインフラの持続がより困難になることを意味し、都市構造の抜本的転換を不可避としている。
徒歩圏に機能集約「コンパクトシティ」
■都市構造転換の方向性
こうした課題への対応策として注目されるのが「コンパクトシティ」と「15分都市(15―minute city)」だ。コンパクトシティは、公共交通機関を基軸に都市機能を集約・再編し、インフラ維持費やエネルギー消費を削減しつつ都市サービスを効率化する構造で、日本では立地適正化計画に基づく「コンパクト・プラス・ネットワーク」型の都市形成が進められている。富山市の事例が代表的だ(図1)。
一方、15分都市は自宅から徒歩や自転車で15分以内に医療・教育・商業・文化などの主要機能へアクセスできる空間構造を目指し、生活の利便性と環境負荷低減の両立を図る(図2)。欧米での事例が多いが、日本でも導入可能性が議論されている。
将来の日本では地域特性や人口動態、ライフスタイルの変化を踏まえ、両モデルを複合的かつ柔軟に組み合わせる戦略が不可欠である。
■事例:千葉市を対象としたシミュレーション分析
筆者は千葉市を対象に、鉄道駅を中心とする徒歩圏に人口と公共施設を集約する「コンパクト・プラス・ネットワーク型」の都市構造を仮定し、共同研究者であるウィーン工科大学のギュンター・エンバーガー教授らが開発した土地利用・交通モデルMARS(Metropolitan Activity Relocation Simulator)を用いて中長期にシミュレーション分析した(※❸)。
その結果、施設の統廃合と拠点集約により公共施設維持管理費用を最大約17%削減できる一方で、施設の種類によっては住民の移動負担が増える可能性も示された。これは、行政効率化と同時に生活行動やアクセシビリティーへの配慮が不可欠であることを意味している。
さらに、徒歩15分圏内に主要な都市施設を配置する「15分都市」型の都市構造を仮定し、千葉市での集約効果を定量的に分析した(※❹)。施設を鉄道駅周辺に再配置することで行政コストを約2—3割削減できる可能性が示された一方、施設によっては移動距離増加や利便性低下も生じる結果となった。単純な集約ではなく、機能特性・地域性を踏まえた戦略的配置の重要性が示された。
■テレワーク普及の影響
新型コロナウイルス感染症の流行以降、テレワークの普及は都市構造にも大きな影響を与えている。筆者は同モデルを用いて、テレワークが普及すると仮定したシナリオでの都市の将来像を分析した(※❺)。その結果、都市中心部の通勤需要は大幅に減少し、郊外などへの人口分散の傾向が見られた。
一方で、公共交通の採算性低下や中心市街地の空洞化といった副作用も顕在化し、都市の持続可能性に複雑な影響を及ぼすことが明らかとなった。これらの結果から、都市計画は「集約」と「分散」、「効率性」と「利便性」、「短期」と「長期」のバランスを取りながら最適解を探る段階にあることが分かった。
街の設計、時間・行動も考慮
■建設産業への期待
地方都市の持続可能性向上には、コンパクトな都市構造と柔軟な就労・居住スタイルの組み合わせが不可欠だ。その実現には、都市空間の設計・運用を担う建設産業の役割が大きい。従来の「整備・拡張」から「選択・集中」「再編・最適化」への転換が必要とされる中、建設産業には以下の機能が求められる。
①多機能複合施設の統廃合と再編(医療・福祉・教育・行政の集約)
②拠点間をつなぐLRT(次世代型路面電車)・BRT(バス高速輸送システム)・歩行空間といったモビリティー基盤の整備
③BIM/CIMやGIS(地理情報システム)、デジタルツインなどを活用した都市計画の可視化とライフサイクル管理
④除却跡地のグリーンインフラ化(雨庭・都市林・透水舗装など)の推進
■結び
これからの都市づくりには、「空間」だけでなく「時間」や「行動」も含めて設計する「“スマート”なアーバンマネジメント」の視点が欠かせない。テレワークやMaaS(乗り物のサービス化)、オンデマンド交通、エネルギーマネジメントなどの技術統合により、柔軟性とレジリエンス(復元力)を兼ね備えた都市を構築できると考えられる。
人口減少時代の持続可能な都市づくりは、「量から質」への本質的な転換が必要だ。ハードとソフト、制度と技術、行政と住民、そして都市と建設産業が一体となり、未来の都市像を描き、その実現へと踏み出すことが求められている。
※出典・参考文献
❶富山市都市マスタープラン(お団子と串の都市構造)
❷パリ市,https://www.paris.fr/pages/la-ville-du-quart-d-heure-en-images-15849
❸Kikuchi, H., Emberger, G., Ishida, H., Fukuda, A., Kobayakawa, S. (2022). Dynamic simulations of compact city development to counter future population decline. Cities, 127, 103753.
❹菊池浩紀,福田敦,北方暁:人口減少下の都市にける15minute cityを前提とした都市集約の効果分析—住民の移動コスト及び公共施設維持管理費用に着目して—,第64回土木計画学研究発表会・秋大会,2021年12月.
❺Kikuchi, H., Fukuda, A., Emberger, G. (2025). Can diffusion of telework after COVID-19 sustain shrinking cities? Simulation analysis using a dynamic land-use and transport model. Asian Transport Studies, 11, 100155.
