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建設産業
グリーンインフラ活用事例
建設産業への実装期待
グリーンインフラとは環境保全に役立つ自然の多様な機能や仕組みを、社会資本整備や土地利用に積極的に活用する取り組みのことである。環境・社会・企業統治(ESG)投資や自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)など、事業の資金調達や顧客の経営評価に貢献する要素を含んでおり、持続可能な社会の実現に向けて建設産業における実装が期待されている。ここでは、グリーンインフラを取り巻く動向と具体例として当社の事例を紹介し、課題と今後の展望を示す。
■グリーンインフラの活用が進む背景
気候変動の影響、および経済や生活の基盤となる生物多様性の損失や自然資本の減少が現実的な課題となる中、有効かつ普遍的な取り組みとして、国土交通省が2023年9月に「グリーンインフラ推進戦略2023」を発表した。その中で、あらゆるインフラ整備にグリーンインフラをビルトインすることが示されている。国、自治体、民間を問わず、グリーンインフラの活用による多様な機能を持つ価値の高いインフラ整備と生物多様性の回復が求められている。
■生物多様性の建設インフラへの影響
自然環境に直接影響を及ぼす建設産業では、これまで建設事業や開発事業においてミティゲーション(緩和、補償)により影響を最小限にし、ゼロにすること(ノーネットロス)が求められてきた。今日、国際的な枠組みとして生物多様性の損失を食い止め、回復軌道にする(ネイチャーポジティブ)方針が示され、ゼロにするだけでは不十分という時代になった。
英国では生物多様性ネットゲイン(損失分以上の環境的な価値を生みだすこと)政策が行われ、自然環境を事業前より10%以上回復させなければ開発許可が下りないことになっており、生物多様性に関する国際標準化も進められている。今後、民間企業だけでなく公共事業においても、事業を通して生物多様性を豊かにすることが求められてくる。
建設産業では企業施設などの建設や開発にあたり、事業地の緑地を自然植生などに配慮して整備し、モニタリングと管理、および自然共生サイトなどの認証登録まで請け負う会社も増えている。また、補助金と連動した緑地整備の国の認証制度では、緑地率だけでなく多様な機能を持つグリーンインフラが求められつつあり、緑地の認証や便益を土地の資産価値評価や資金調達に反映する制度づくりも進められている。これらを背景に、グリーンインフラの多様な機能の見える化やモニタリング技術、自然資本経営に貢献するノウハウの開発や実績づくりも進められている。
■グリーンインフラの具体例
フジタは「自然を 社会を まちを そして人の心を 豊かにするために フジタは たゆまず働く」を企業理念として、以前からグリーンインフラに取り組んできた。
【建築の事例】
大和ハウスグループみらい価値共創センター「コトクリエ」では、保水・浸透性の高いレインガーデン、雨水貯留槽、調整槽、緑地を景観などに配慮して配置し、95パーセンタイルの降雨量の雨水流出を抑制している。また、トイレ洗浄水、水景補給水、散水に100%雨水活用を実現した。
緑地率を事業前の約9%から約26%にし、長期的には樹冠被覆率が約50%になる計画で、周辺の自然植生や奈良市に由来する万葉植物に基づいた在来種の植物が植栽された。多様な生物の生息場になっており、竣工後2年間で鳥類・昆虫類など218種の生物を確認し、チョウゲンボウなど希少種も確認され、ネイチャーポジティブを実現している。
また、建物の各階、室内から緑視率を高めるバイオフィリックデザインを取り入れ、緑地には散策路なども整備されている。グリーンインフラにより、治水や生物多様性回復、健康増進など、サステナブルな施設となっている。
【街づくりの事例】
大阪府内の土地区画整理事業では希少動植物を自主的に事前調査し、ヒメボタル(大阪府の準絶滅危惧種)の生息が確認された緑地の生息環境の回復に取り組んだ。ネットワークカメラなどで夜間に点滅発光するホタルの発生状況を効率よく高い精度で把握できるホタルモニタリングシステムや環境調査データから幼虫の生息適地を評価する手法を開発。幼虫の生息に適した地形や土壌環境になるよう緑地整備を行った。
また、緑地面積を事業前より約1・6倍増加させ、植樹による光害対策なども実施した。その結果、施工した翌年の23年5月にはヒメボタル成虫のピーク時の発生量が施工前より増加したことを確認し、生息地のネイチャーポジティブを実現した。この緑地は、自治体と環境保全団体が「ヒメボタル保全地」に指定して管理されている。これらの二つの事例の緑地は、自然共生サイトに登録申請される予定となっている。
【DXの事例】
建設産業ではグリーンインフラにおいてもDXが進められており、当社ではドローン測量技術などを活用した緑地の把握と生態系サービスの定量化に取り組んでいる。23年度から復興庁が福島県浜通り地域で実施している「浜通り復興リビングラボ」では、地元の自治体や林業関係者からの要望に対応し、複数の山林で実証データを取得してきた。建設で培っている情報通信技術(ICT)をグリーンインフラに適用し、防災や森林整備、復興への貢献に努めている。
■現状の課題と今後の展開
グリーンインフラを社会実装するには、グリーンインフラの認知度が低いことが課題であり、ネイチャーポジティブの取り組みと協調して推進していくことが有効である。また、多様な機能の定量評価やエビデンスとなる情報が海外と比較して不足している。
日本建設業連合会では、環境技術部会のワーキングで実務担当者向けの参考資料の作成に取り組んでいる。グリーンインフラ官民連携プラットフォームでも会員から課題を抽出し、エビデンス情報の整備が検討されている。
今後、産官学民で協調した社会実装が進展し、社会課題の解決と地域・自然の価値を向上するグリーンインフラ、およびそれに有効な技術や人材を提供できる建設産業にさらに進化していくと考える。
執筆者
フジタ 土木本部 土木エンジニアリングセンター
企画部 インフラ環境グループ
特別主席コンサルタント 島多義彦