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建設産業
建設業、2024年問題などの働き方改革
時間外労働「月45時間・年360時間」
建設業における2024年問題では、働き方改革関連法による時間外労働の上限規制が24年4月1日に適用された。働き方改革の課題として時間外労働の上限規制が適用され、労働環境の変革が求められており、知っておかなければならない重要事項と改善課題が多い。
■はじめに
働き方改革関連法では時間外労働の上限が原則「月45時間・年360時間」となる。これに違反すると罰則が課せられ、原則としてこれを超えて働かせることはできなくなる。これは法定労働時間である日8時間/1週40時間と法定休日である週1日を超えて労働させる場合に、労働基準法第36条に基づく労使協定と労働基準監督署長への届け出を行う36協定を締結・届出していても適用される。
特別の事情がある場合は例外的にこの上限を超えてもよいが、時間外労働が年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満という条件を守る必要がある。ただし、災害時の復旧や復興事業に関しては例外規定にのっとる。時間外労働の上限規制に違反した場合は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される。また、36協定を結んでいたとしても時間外労働の上限を超えることはできない。
■働き方改革が求められている理由について
建設現場では現場人材の高齢化と若者の不足が顕著である。国土交通省では21年の建設業就業者のうち55歳以上が35・5%である一方、29歳以下の若者は全体の約12・0%である。高齢者の退職は今後増えることから、次世代の若者たちにとって魅力ある建設業へ変化することが望まれる。
また、20世紀後半から建設業の人手不足は慢性化しており、労働環境の改善に向けた取り組みが望まれる。建設業の就業者数はピーク時の1997年が685万人に対して、21年は485万人で約30%減少している。
さらに、建設業の年間実労働時間は21年度では1978時間となっており、製造業は104時間少ない1874時間である。この労働時間の差を見ると、建設業における長時間労働は24年問題における大きな改善が必要である。
現在までに建設業が取り組んできたこととしては、週休2日制と長時間労働の減少、情報通信技術(ICT)の導入、技能に見合った賃金の支給、福利厚生などの各種手当の充実、であった。特に長時間労働の是正が公共工事ではすでに導入されているように、民間工事でも週休2日制導入により労働環境を改善し、若者が建設現場へ入職しやすい職場環境を整えた。
■働き方改革による労働状況の改善について
適正工期算定プログラムによる施工時期の平準化の推進について述べる。
建設工事に従事する全ての者が時間外労働の上限規制に抵触することのないよう、工事の内容と規模および難易度、地域の実情の把握、自然条件、施工条件などを確認し、準備期間、週休2日や祝祭日、年末年始・夏季休暇といった、施工管理技術者や技能労働者の休日確保と適正工期を設定することが行われてきた。日本建設業連合会では建設工事の適正工期算定プログラムを作成している。多くのゼネコンや設計事務所がすでに活用しており、施工時期の平準化を行っている。また、工事着手前に工程表を作成した上で工事の進捗状況を元請と共有している。
建設業の時間外労働の削減には、労働時間の管理強化や効率的な業務運営が必須である。業務の効率化を図るための勤怠管理システム導入により、労働時間の管理を強化するといった業務プロセスを見直した上でICTを活用することが重要である。
次に社会保険における法定福利費などの確保の徹底について述べる。
労務費や社会保険の法定福利費、安全衛生管理経費、建設業退職金共済制度などに十分対応できるような代金設定と見積書や請負代金内訳書に明示することによる確保の徹底が行われている。また、工事着手前に労務費や社会保険の法定福利費、安全衛生経費などの必要経費を盛り込んだ見積書や請負代金内訳書を作成している。
次に建設工事の生産性向上について述べる。
建築工事では建築プロジェクトのフロントローディング・実施設計・施工・維持保全・解体工事などの全ての段階において3次元(3D)モデリング技術「BIM」活用の徹底が図られた。土木工事ではドローンによる3Dレーザー測量やデジタル写真測量による現況測量・出来型測量の実施、ICT建機、情報共有システム、プレキャスト製品などの導入・活用およびフロントローディング時による詳細な検討などによる生産性向上が行われている。
最後に下請負契約における週休2日の徹底について述べる。
下請負契約においても長時間労働の是正や週休2日の確保などを考慮して適正な工期を重視した内容が設定されている。特に人手不足や高齢化の著しい建設業では、ワークシェアリングの導入も効果が期待できる。
1人が8時間働く代わりに、2人で4時間ずつ働くというように労働時間をシェアすることで、労働者への負担を軽減するとともに、技能不足の解消も行なっている。多様な休暇制度の導入ではリフレッシュ休暇や育児・介護休暇の充実、時間単位での年休取得が実施されており、仕事とプライベートの両立を図りやすくなり、長期的な視点での健康管理やキャリア形成が可能となった。
■改善結果と今後の課題について
これらの取り組みにより建設業は働き方改革を推進し、施工管理技術者や技能労働者の働きやすい環境を整備した。建設現場人材のモチベーション向上や生産性の向上が図られ、結果として企業の競争力強化へとつながった。
今後の課題としては、大手・準大手・中堅・地方の各ゼネコンにおいて働き方改革の推進状況の温度差が大きく、まだ労働状況の完全なる改善には至っていない。さらに、サブコンに時間外労働の制限を設けることで、これまで得ていた労働賃金が減少し、普段の生活にまで影響を及ぼす結果となった。
事業主やゼネコンは技能労働者の賃金単価を上げるなどにより、これまでの技能労働者の賃金収入を上回る措置を講じる必要がある。
執筆者
ものつくり大学 技能工芸学部 建設学科 教授 三原 斉
参考