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東北産業特集
新たなモノづくりへの挑戦 東北の企業・支援機関 ①
2025年度に入って間もなく半年。東北地域の景況は「持ち直しの動きに足踏みがみられる」との認識が強い。「極端な落ち込みがある」との声は少ないながら、「踊り場にある」との声は多い。現状は体力強化を図り、新たな飛躍への準備が進む。先行きに不透明感が残る中、各企業の戦略が一段と問われる。次の一手へ。そこで、東北の企業・支援機関の将来に向けた取り組みを紹介する。
和同産業(岩手県花巻市)/電動除雪機を刷新
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新型のインバーター発電機
除雪機を主力とする和同産業(岩手県花巻市、三国卓郎社長)は、市場の深耕に向けて新たな製品を投入した。電動スノーブレード(除雪機)のフルモデルチェンジ機となるのが「e—SB81」。4月から先行予約をスタートしており、段階的に浸透を図っている。
前モデルを刷新したe—SB81は、住宅や小規模駐車場などの雪寄せに対応する。“簡単な操作”にこだわったのが大きな特徴だ。電源は右手側に配置したスイッチ一つで対応できる。リチウムイオン電池(LiB)を搭載し、フル充電で約60分利用可能。対応する雪質は、新雪に近い状態を推奨する。
一方で開発を進めていた新型発電機も市場投入した。定格出力3000ボルトアンペアのインバーター発電機「WG3000is」だ。軽量かつコンパクトな設計を採用した。全長510ミリ×全幅300ミリ×全高480ミリメートル。本体重量は24・5キログラムになる。精密機器にも使える安定した電力供給ができる。
イワフジ工業(岩手県奥州市)/新型木寄せウインチ
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新型の木寄せウインチ
林業機械のイワフジ工業(岩手県奥州市、有吉実社長)は、モデルチェンジした小型でパワフルな木寄せウインチの受注を4月から始めた。新たな油圧ウインチ「TW—2SA」は、従来機と比べ引っ張り力を45%向上させた。
重量は150キログラム(ベースプレートを含む)。グラップルとの併用により、集材から引き寄せ・整理など木寄せ一連の作業を一台の機械で効率的に行える。通常はワイヤロープに対応。オプションにより繊維ロープにも対応できる。現場のニーズにより選択可能とした。
創立75年を迎えた2025年。イワフジ工業は、これまでの歩みを振り返るとともに、持続可能な林業の未来を見つめながら、会社の新たな「ロゴ」を打ち出した。単なるデザインの刷新ではなく、「新たな決意を示す一歩」を示した形だ。ロゴのリニューアルでは、①「変化への挑戦」②「一貫した信頼性」③「イワフジ工業の未来」—の三つの思いを込めた。
福島製作所(福島市)/水力発電部品で日大と共同研究
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福島製作所が手がける複葉弁
福島製作所(福島市、太田光一社長)は2025年から福島県郡山市にある日本大学工学部機械工学科流体システム工学研究室と、水力発電機器向け入口弁の共同研究をスタートさせた。大学の流体力学に関する知見を活用し、機器内を流れる水の通り道に設置される入口弁の最適な構造などを探り、その成果を同社の部品開発に生かす。
同研究室の出身者が福島製作所の技術者として働いている縁から共同研究が始まった。水力発電機器は再生可能エネルギーの普及拡大で需要が伸びると見られ、同社は水力分野に注目する。
取引先の電力会社からは入口弁の中でも、ちょう形弁から複葉弁への更新引き合いが増えているという。水力損失が少なく価格も比較的安価に抑えられる複葉弁において、理論的な裏付けデータをもとに改良し、より水力損失を低減した複葉弁の開発などにつなげる。同社責任者の伊藤智庸技術部部長は「研究で生み出した複葉弁を地元で作り、福島の産業発展になれば」と話す。
スズキハイテック(山形市)/モルフォ蝶の羽構造を数値解析
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「新たな挑戦」を強調する鈴木社長
「かなりチャレンジングな試みになる」—。スズキハイテック(山形市)の鈴木一徳社長は、新たなプロジェクトの取り組みをこう強調する。今回のプロジェクトは、モルフォ蝶(ちょう)の羽が青く見える構造を数値解析し、工業的に再現するバイオミメティクス(生物模倣)技術の研究開発を進めるものだ。環境配慮型の着色技術の確立を目指す。
経済産業省の「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go—Tech事業)」の採択を受けて取り組む。研究開発期間は3カ年を予定。メッキ会社のスズキハイテックが事業リーダーとなり、山形県工業技術センター、山形大学などが研究開発で連携する。管理機関は、やまがた産業支援機構が担う。
現在、MEMS事業などの新規事業にも力を入れるスズキハイテック。2022年度から3カ年で取り組んだGo—Tech事業では、フナムシの脚表面にある微小流路構造を再現する生物模倣シートの開発を進めた。一段のレベルアップを狙う。
伊藤製作所(山形市)/部品増産へ備え
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生産性向上に取り組む伊藤製作所の本社工場
半導体製造装置関連部品、自動車用各種機能部品、建設機械関連部品などの精密切削加工、組み立てなどを手がける伊藤製作所(山形市、伊藤明彦社長)。現状の景況感について、伊藤社長は「いい意味で横ばいにある」との認識を持つ。主力の半導体関連に関しては、本年度について調整局面の動きが見られ、今後の動向を注視している。
大手の設備投資の動きに鈍さも見られるが、一部で前倒しの動きもあるという。伊藤製作所としても新たな投資に前向きな姿勢を示す。11月頃をめどにバー材供給機能付きの新たな加工機の導入を計画。半導体関連部品などの増産に備える狙いだ。これに伴い、「工場内のレイアウトも変更していく」(伊藤佑一郎取締役)としている。新設備は2026年1月の稼働を目指す。
生産管理面を向上させる新システムの運用は、一部機能で始まっており、付加価値の高いモノづくりへの進化を狙う。生産管理システムとしての本格運用を視野に入れている。
中小企業基盤整備機構東北本部/中小企業応援士に経営者3人
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委嘱状を手渡された大和三光製作所社長の大和輝明氏㊧
中小企業基盤整備機構東北本部(仙台市青葉区、矢内友則本部長)は、2025年度の東北管内における「中小企業応援士」を計3人の経営者に委嘱した。同応援士は、中小機構の支援メニューなどを地域の中小企業に伝える役割を担う。この取り組みは19年度に設けられた。本年度は東北を含めた全国で計35人への委嘱が決まった。
東北での中小企業応援士の委嘱状は、中小機構東北本部から直接手渡された。25年度は山形県から1人、福島県から2人の経営者がそれぞれ地域中小企業の応援に意欲を示した。山形県からは高橋型精(山形市)社長の高橋光広氏、福島県からは、矢吹町に福島工場を置く大和三光製作所(東京都新宿区)社長の大和輝明氏、サンブライト(大熊町)社長の渡邉忍氏にそれぞれ委嘱状が手渡された。
中小機構の専門家派遣などによる「ハンズオン支援事業」を活用する大和氏は「地域の企業に中小支援施策の利用を呼びかけたい」と決意を示した。
