-
業種・地域から探す
続きの記事
東北産業特集
スペースフロンティアの地へ
東北から広がる宇宙産業
東北が生んだ作家・宮沢賢治は、銀河鉄道に乗って夜空を旅する物語「銀河鉄道の夜」で宇宙を身近に感じさせてくれた。例年、多くの人が杜(もり)の都・仙台を訪れる仙台七夕まつりは、仙台藩祖・伊達政宗公の時代まで遡り、古くから七夕の行事があったとされる。織り姫とひこ星の出会いに、東北の地で人々は夜空にそれぞれの夢を願った。さて、時代は令和の世。東北の地から空を見上げる光景は、ロケットなどの輸送手段を使い、モノや人が宇宙と行き来するような新たな夢を描こうとしている。
新たな夢へ関連企業集結
点から面へ—。宇宙産業を東北の地に根付かせる新たな夢が各地で動き出している。その動きはまだ始まったばかりでもある。宇宙に関連する働く場を広げる。宇宙関連分野をなりわいとする宇宙スタートアップをはじめ既存産業、国・自治体、大学、金融がそれぞれの力を合わせようとしている。
空を見上げる
-
AstoroXによる小型ロケット「FOX1号」の打ち上げ(昨年11月、福島県南相馬市)
宇宙には人を引きつける未知の魅力がある。2024年11月、福島県南相馬市小高区で、ニュースペースとも呼ばれる宇宙スタートアップ企業のAstoroX(南相馬市)が全長6・3メートルとなる自社開発ロケットの打ち上げに成功した。関係者をはじめ地元住民など数百人が見守る中、ごう音とともに天空に上った。福島県郡山市から来た男性は「ぜひ見てみたかった」と興奮を隠さなかった。
東日本大震災から14年が経過。震災後、南相馬市にはドローンやロボットを実際に動かせる広大な実証試験場「福島ロボットテストフィールド」が生まれた。それに伴い、同市にはロボット関連企業が集まり、今はニュースペース企業が集まりだした。
次の一手は宇宙だ。ただ、産業創出は南相馬だけでは完結できるものではない。東北全体を見渡してみよう。広い視点で見つめ直すと、東北には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)角田宇宙センター(宮城県角田市)、同能代ロケット実験場(秋田県能代市)などエンジンの燃焼試験施設がすでにある。ロケット開発には、“実証の場”となる燃焼施設の存在が欠かせない。
地域のポテンシャル
東北の地を“面”で捉えた宇宙産業の広がりについて、具体的な物語はまだ見えていない。そこで、25年度、東北経済産業局は、「東北地域におけるニュースペース企業の成長加速化および宇宙産業の拠点形成に向けた可能性調査」に乗り出す。こうした宇宙関連の調査は今回が初の試みになるという。
ロケットなどの輸送手段の開発を手がけるニュースペースには、「近くで使える燃焼施設がほしい」とのニーズは高い。今回の調査では、具体的な実証の場がどのように使われているのか。東北のポテンシャルを確かめることになる。燃焼施設のニーズが高まる中、燃焼施設の新たな適地(エリア)の検討などを展望、地域への経済波及効果の展望なども見込む。一方で、同様の調査を南相馬市も25年度に実施する。東北経産局と同市は、調査実施で話し合いが進んでいる。
宇宙産業を福島から、そして東北全体へ。宇宙産業の広がりが地域に夢を膨らませる。
エンジン燃焼試験 実証拠点の整備が課題
福島・南相馬市
-
昨年11月のAstoroXによるロケット打ち上げには多くの人が集まった
福島県南相馬市は、宇宙関連産業の誘致と集積を進めており、25年7月時点で宇宙スタートアップの拠点が市内に5社ある。南相馬で部品の製造や、小型ロケット発射など、各社がこの地でそれぞれの成長を目指している。同市は縁の下の力持ちとして、環境整備に目を向ける。
11年の東日本大震災後、津波や原子力発電所事故で失われた産業の再興には、新産業の創出が不可欠と南相馬市は考えた。その後ロボット・ドローンの研究開発拠点「福島ロボットテストフィールド」が同市に整備されることになり、それを求めて関連企業が南相馬に進出してきた。
その中でロボット・ドローン分野は、ロケットや衛星などの製品開発を伴う航空宇宙分野との親和性が高いとされる。そのため南相馬市では宇宙スタートアップ企業の受け入れを積極的に進めてきた。市は24年に「宇宙関連産業推進室」を開設。25年度には職員を前年度の3人から5人へ増やした。また市内には小型ロケットの打ち上げ場があり、24年度は計3基が空に昇った。25年度も計3基の打ち上げが計画されている。
現在、宇宙スタートアップ企業からは「エンジンの燃焼試験ができる拠点を南相馬市内で整備できないかといった相談が複数寄せられている」(市担当者)。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の燃焼試験設備を使うこともできるが、使用には条件があるため、自由度の高い自社燃焼設備が必要という。
ただ、燃焼試験には騒音が発生するため広大な土地が必要で、さらに土地取得や試験をするには地元住民の理解が欠かせない。そのため市として「企業が実証できる環境を構築していく」(同)方針。これらの試みを通じて「『南相馬に行けば何か相談に乗ってくれるのではないか』と思ってもらえる存在を目指す」(同)と次なる飛躍を誓う。
福島スペースカンファレンス2025
今月8日、宇宙スタートアップをはじめ民間企業、国、自治体などの宇宙産業関係者が宇宙産業の未来を議論するため、福島県南相馬市に集結した。今年で3回目となる「福島スペースカンファレンス2025」だ。南相馬市が共催、内閣府宇宙開発戦略推進事務局などが後援した。3会場で複数のセッションが行われ、各会場は熱気に包まれた。特に「量産化への動き」と「自治体の受け入れ」に焦点を当てた。
セッション/福島沿岸地域と東京 産業はいかに立ち上がり、量産化するのか?
-
それぞれの立場で産業化への課題などが話し合われた
構想や資金、人材が集まる東京。一方、「実証の聖地」福島。部品実証から量産化まで段階的な開発が求められる宇宙産業。どのように連携を模索していくのか。意見が交わされた。
開発にスピード感が求められる宇宙産業。サプライチェーン(部品供給網)を担う地元企業の立場から、南相馬航空宇宙産業研究会の高山慎也会長は「中小企業は背伸びをしないと追いつけないところはある」と強く指摘した。時間や資金。全てを宇宙にシフトするには厳しさもある。宇宙産業に参入する際の地元企業への応援をもっと厚くすべきとの意見だ。
行政側からは「政策の連携が欠かせない」との視点を示し、広い意味で地域に根ざした横の連携が求められている。宇宙スタートアップ側からは「『地方VS都会』の図式ではない。どちらも結びつけていく対話がまだまだ必要」とし、どちらのポテンシャルも高め合う政策づくりが新たなエンジンになると見通す。
確かなことは実証の場は、大都市では厳しいこと。地方、特に福島沿岸部では「実証ができる場がある」ということだ。
セッション/福島沿岸地域の宇宙開発 新たな産業を受け入れること
-
自治体の取り組みをそれぞれ紹介した
大手製造業の航空宇宙部門の受け入れに始まり、近年は宇宙スタートアップが集まる福島沿岸部の自治体。新たな産業の成長を支えていくことはどのような姿勢なのか。各自治体の取り組みが紹介された。
一つのキーワードはやはり「連携」。南相馬市商工観光部の森政樹宇宙関連産業推進担当課長は「自治体間の連携が一段と必要」と強調。みんなで取り組んでいく姿勢を呼びかけた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)角田宇宙センターが立地する宮城県角田市。1965年7月に、前身の航空宇宙技術研究所が同市に進出し、すでに50年が経過。26年春には、同宇宙センター西地区内に新たな施設「官民共創推進系開発センター」の運用が予定される。角田市産業建設部商工観光課の安達宗平主査は「産業としての『特色』をいかに形にしていくか。集積化による発展の可能性が期待できる」とし、宇宙産業を支える広域な連携体のあり方を指摘した。
自治体としては研究機関や企業の立地を進める中、「宇宙スタートアップなどとそれぞれの地元企業とを結ぶサプライチェーン(部品供給網)の構築」が一つの目指す方向でもある。そのためには、「点」を「面」に展開し、東北全体で宇宙産業を盛り上げる熱量とともに新たな仕組みづくりが期待される。宇宙産業の集積化は、まだ幕が上がったばかりだ。
