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第54回 日本産業技術大賞
「第54回日本産業技術大賞」(日刊工業新聞社主催)の受賞4件が決まった。最高位の内閣総理大臣賞には自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター、NTTデータ、NTTデータグループ、ゼロボード、dotDの「『ウラノス・エコシステム』による自動車および蓄電池サプライチェーン企業間でのデータ連携サービス」が、文部科学大臣賞には宇宙航空研究開発機構(JAXA)、三菱電機、三菱重工業、IHIエアロスペースなど13社による「小型月着陸実証機『SLIM』が輝いた。審査委員会特別賞には日立製作所、日立ハイテクネクサス、日立ソリューションズの「農水産物の輸出拡大に貢献する温度管理サービス『MiWAKERU』」と、鹿島、岡部、丸久、楠工務店の「型枠一本締め工法」の2件が選定された。日本産業技術大賞は革新的な大型技術、システム技術の開発を奨励するため1972年に創設、わが国の産業社会の発展に貢献した技術成果を毎年表彰している。贈賞式は4月2日11時から東京・大手町の経団連会館で開く。
【審査委員会特別賞】型枠一本締め工法
鹿島/岡部/丸久/楠工務店
アルミ製パイプ1本による締め付けを可能にした
鹿島など4社が共同開発した「型枠一本締め工法」は、コンクリートを流し込むための型枠工事で、70年以上にわたり変化がなかった在来工法の部材を徹底的に見直し、軽量化や簡素化を実現した。技能者の肉体的負担を大幅に軽減するとともに、生産性の大幅な向上にも結びつけている。
建物の躯体などの型を構築する型枠工事は、建設工事に必要不可欠な工程だ。このうち柱や壁の工事に関しては、上下2本1組の鋼製パイプ(1本3・5メートル、9・56キログラム)を技能者が手で支えながら、フォームタイで締め付けていく。1950年代に普及が始まったこの在来工法は、現在でも一般的に使用されている。
伝統的な工法とはいえ、型枠工事は躯体工事に要するコストの35%を占め、しかも労務費が60%超と典型的な労働集約型の工種。また近年では、技能者の高齢化や若年入職者の減少、外国人労働者の増加など、建設業界全体が多くの課題を抱えており、技能者の身体的負担を軽減するとともに、誰もが簡単かつ確実に施工できる新たな工法に対する期待は大きかった。
こうした状況を踏まえ、鹿島が新工法の開発を本格的にスタートさせたのは2018年頃。折しも都心では再開発事業が活発化しており、「技術開発の担当として、何か貢献できることを検討し始めた」(掛谷誠建築管理本部建築技術部技術企画グループ課長)。
大工の意見反映
研究開発の全体を統括する鹿島を中心に、建材メーカーの岡部、非鉄製品の販売を手がける丸久(福岡県志免町)、型枠工事などを行う楠工務店(東京都杉並区)がパートナーとして参画。仕様や性能へのこだわりはもちろん、使い勝手の良さを重視し、利用者である大工の意見を反映させながら開発に取り組んだ。
チームとしての結束力を一層強める上で、一つのターニングポイントとなったのがコロナ禍だった。予算の削減という危機的な状況に直面しながらも開発継続を訴え、必要な資金の拠出も申し出るパートナー企業の声を受け、「予算が減っても続けていく気持ちが固まった」(同)と振り返る。
肉体的負担―大幅に軽減/型枠工事“軽い・簡単・早い”
当たり前を改善
柱・壁工事における型枠工法とパイプ重量の比較
「締め付け用のパイプはなぜ2本なのか」―。型枠大工やメーカー、ゼネコンの従業員らが疑問を持たないまま在来工法を長年使用してきた理由や背景について、開発メンバーは徹底的に掘り下げた。その結果、型枠の強度を確保するためのポイントや、作業従事者にとっては当たり前すぎて気づけなかった改善ポイントを発見し、アイデアとして形にした。
新工法は、一つの作業にかかる手間を数値化した「歩掛」を約20%向上。型枠工事の“軽い・簡単・早い”を実現した。
パイプに関しては、アルミニウムを採用。在来工法で使っていた1メートル2・73キログラムの鋼製パイプと比べて、アルミパイプは同1・62キログラムと大幅に軽量化するとともに、高強度化を図った。これにより、柱や壁の工事においては、パイプの使用本数を在来工法の2本1組から1本に半減。また新型アルミパイプをつなぐパイプジョイントを新たに開発し、かぶせてはめ込むだけの簡単施工を実現している。
両手で安定作業
「ロ」の字形状の新型フォームタイ 施工方法の簡素化により、誰でも簡単・確実に締付けが可能
コンクリートの圧力で型枠が開くのを防ぐための締め付け用ボルト「フォームタイ」に関しても、ロの字型の新型タイプを開発した。下のボルトに新型アルミパイプを預けられるため、締め付けの際にパイプを片手で支える必要がなくなり、両手で安定した作業が可能となった。
新工法の導入による効果は大きい。組み立てや解体時にフォームタイがパイプを支えるため、施工時の安全性が高まるほか、使用するパイプの軽量化・本数の削減により運搬に伴う作業の安全性も向上する。さらにパイプの使用本数の半減により、運搬に伴う二酸化炭素(CO2)排出量を半減。リサイクル率の高いアルミ製パイプの使用により環境負荷の低減にも寄与する。
開発後、鹿島は社有施設「ドーミー南長崎アネックス」新築工事(東京都豊島区)など全国の現場に新工法を導入。同工事では、柱・壁・床の型枠工事全体を在来工法と新工法の2分割で施工し、型枠面積約7500平方メートルに導入した。その結果、在来工法と比べてパイプ荷揚げの総重量を約56%低減し、生産性の向上に寄与することを確認した。
さまざまな利点に加えて、人手不足や24年4月に建設業界への適用が始まった時間外労働の上限規制などを背景に、適用先は急速に拡大している。「この1年、問い合わせが非常に多かった」(同)と話す通り、24年5月末時点で12件だった同工法の導入現場は、1年もたたないうちに21件となった。
汎用性に優れるため、建設・土木の現場に広く展開することによって、建設業界全体の生産性向上につながることが期待されている。鹿島は新工法の利用促進活動を積極的に展開しており、「より多くのユーザーに使ってもらいたい」(同)と、今後も一層の普及・浸透に力を注いでいく考えだ。
第54回 日本産業技術大賞審査委員
■審査委員長
東京大学名誉教授 外務大臣科学技術顧問 松本 洋一郎 氏
■審査委員
科学技術振興機構 理事長 橋本 和仁 氏
産業技術総合研究所 副理事長 村山 宣光 氏
新エネルギー・産業技術総合開発機構 副理事長 横島 直彦 氏
東京科学大学 特別顧問 益 一哉 氏
理化学研究所 理事 吉田 稔 氏
内閣府科学技術・イノベーション推進事務局 統括官 柿田 恭良 氏
文部科学審議官 増子 宏 氏
経済産業省イノベーション・環境局 イノベーション政策統括調整官 福本 拓也 氏
日刊工業新聞社 社長 井水 治博
(2月28日審査委員会時点)