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南東京特集
品川・大田両区がW選定/SDGs未来都市&自治体SDGsモデル事業
国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が2015年9月25日に採択されてからまもなく10年。30年までの目標達成期限まではあと5年となった。内閣府はSDGsを原動力とした地方創生(地方創生SDGs)を推進しており、東京都大田区を23年度に、同品川区を24年度に、SDGsの達成に向けて優れたSDGsの取り組みを提案する「SDGs未来都市」と、特に優れた先導的な取り組みを行う「自治体SDGsモデル事業」の両方で選定した。30年のあるべき姿や取り組み状況などについて、森沢恭子品川区長と鈴木晶雅大田区長に聞いた。
東京都 品川区長 森沢 恭子 氏/ウェルビーイング向上を推進
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東京都 品川区長 森沢 恭子 氏
—品川区の30年のあるべき姿をどう描いていますか。
「24年10月策定の『品川区SDGs未来都市計画』では、子育てや教育といった次世代の担い手の育成を主要テーマに捉えている。安心して子どもを産み育てられる環境に磨きをかけるとともに、産業集積地の強みを最大限に生かし、多様な連携を推進しながら区内全体のウェルビーイング(心身の幸福)の向上を図っていく」
—具体的な施策は。
「産業分野では、区内には古くから製造業が集積する。近年はIT企業やAI(人工知能)などのスタートアップが大崎・五反田エリアに集積し、『五反田バレー』と呼ばれている。製造業やIT企業、スタートアップの力を生かし、次世代の産業を育むエコシステム(生態系)の構築を図る。産業の持続的な活性化とゼロカーボンシティーの実現を目指す。子育てや教育分野では、先駆的な施策を他自治体に先駆けて展開している」
官民共創で地域課題・行政課題解決へ
—経済・環境・社会の三つの側面での相乗効果を発揮させるモデル事業の進捗(しんちょく)は。
「統合的な取り組みとして『しながわSDGsパートナーシッププロジェクト』を掲げた。24年9月に立ち上げた『しながわSDGs共創推進プラットフォーム』は具体的な取り組みの一つだ。区内外の企業や団体などが参画し、SDGsの達成に向けた取り組みの推進と、地域課題や行政課題の解決に向け、多様なステークホルダー(利害関係者)の相互交流を促進する」
「交流会を24年9月と25年2月に開き、官民共創の社会動向や先進事例を紹介する講演会などを通じて機運を醸成した。25年度も同時期に交流会を予定する。9月4日の交流会では利用者が少ない公園の利活用といった区からの課題発信ピッチなども行う。多様なステークホルダー同士の交流機会や発信機会を設けていく」
—官民共創のオープンイノベーションの実践の場として24年9月に「しながわシティラボ」も設立しました。
「民間が持つ技術・アイデアなどのシーズ(種)と、区が抱える課題解決に向けたニーズを結びつけるために、区と企業・団体・大学などとの連携を強化し、新サービス創出の“お試し”ができる仕組みを構築した。品川区をフィールドに社会実装を目指す民間提案を募集している」
—これまでにどんな事例がありますか。
「課題解決型の事例としては、区が発信した課題『中小企業における脱炭素化の推進』に対して提案した東京科学大学発ベンチャーであるTreeLab(ツリーラボ、東京都港区)との実証実験がある。業務用エアコンの室外機に外付けした端末で室外機の電力量を制御し、省エネルギーによる電気料金の削減効果を図るものだ。6月末から区内施設で実証中だ。中小規模の建物への省エネ化につながる地域社会のゼロカーボン化促進策として注目している」
「実証実験提案型の事例としては、JR大崎駅前に家庭料理のテイクアウトステーションを設置する提案があった。実証実験第1号で、親子で過ごす時間が増えるとともに、子どもや家族の『食』の選択肢が増え、『子育て家庭の食』に関する課題解決につながるというもの。一定の成果が見られたため、本格的に実施している」
—今後の展開は。
「子育て支援、環境、まちづくり、防災、福祉など多様な分野でシーズを掘り起こし、さらに実証の幅を広げていく。産学官連携を推進し、品川区発の社会的価値創出モデルを全国に展開したい」
—SDGsの目標年まであと5年です。
「求められる公共サービスは多様化・複雑化している。行政のあり方を根本から問い直し、民間企業や地域団体、大学などとの連携による課題解決型行政への転換を進める必要がある」
—区内の中小企業経営者にメッセージを。
「地域に暮らす人々の生活に直結したサービスや製品を作る皆さまが街のウェルビーイングを支えている。SDGsは『地域の中小企業こそが主役』とも言える。官民共創の取り組みは、自社技術やアイデアを行政課題の解決に活用できる貴重な機会になるだろう」
東京都 大田区長 鈴木 晶雅 氏/産業成長と環境保全を両立
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東京都 大田区長 鈴木 晶雅 氏
—大田区の30年のあるべき姿をどう考えていますか。
「産業の成長はもちろん、水と緑と文化を守り、生かし、つなげ、それらを発信し、インバウンド(訪日外国人)需要にも応えられるような30年の都市像を描いている。『誰一人取り残さない』持続可能な大田区の実現に向けて、経済・環境・社会の三つの側面から着実に進めていく」
—取り組み状況は。
「経済面では旧羽田空港ターミナル跡地に整備された複合施設『羽田イノベーションシティ』を起点に、新しい産業や技術の動きが生まれている。区内の中小製造業の技術と組み合わせることで、新たな価値が育ってきている。環境面では脱炭素や資源循環の取り組みを着実に進めている。産業の成長と環境の保全を両立できる都市の姿を常に意識している。社会面では、子育て支援や人材育成をはじめ、誰もが安心して暮らせる街を目指し、施策の充実に力を入れている」
SAF供給を推進/スカイパートナー制度開始
—環境面の取り組みの一つとして、羽田空港(東京都大田区)における持続可能な航空燃料(SAF)供給を推進しています。
「羽田空港との共存共栄を目指している自治体として、二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に削減させる効果を持つSAFへの取り組みは極めて重要だ。区は24年11月に、日本航空(JAL)と区内に店舗を有するスーパーマーケット運営各社と連携協定を締結した。各事業者が区内スーパーに回収ボックスを設置。家庭で揚げ物などで使った廃食用油を持ち寄ってもらうことで、SAFの原料として回収している。6月までに1423リットル回収した。SAFが脱炭素化に貢献するものであることをより広く区民に周知するとともに、廃食用油の回収手段を増やして区民の利便性の向上につなげたい。こうした取り組みなどを通じて東京都が目指す『カーボンハーフ(30年の温室効果ガス〈GHG〉排出量を00年比半減)』と、政府が目指す『カーボンニュートラル(GHG排出量実質ゼロ)』の実現を目指したい」
—23年12月策定の「大田区SDGs未来都市計画」で、30年のあるべき姿を示しました。
「『羽田から未来へはばたく おおたSDGs未来都市の実現 —新産業と匠の技が融合するイノベーションモデル都市—』をあるべき姿とした。実現に向けて持続可能な都市像を描くための方針として『おおたの未来創造プロジェクト』を策定した。モデル事業としてのプロジェクトで、柱は三つある。新産業を『つくる』取り組みとして、『HANEDA GLOBAL WINGS(ハネダ グローバル ウイングス)』、多様なステークホルダーを『つなぐ』取り組みとして『大田区公民連携SDGsプラットフォーム』と『おおたフード支援ネットワーク』、次世代に向けて『はばたく』取り組みとして、区独自教科の『おおたの未来づくり』による人材育成を推進している」
「『つなぐ』の枠組みから発展した仕組みとして、区独自のSDGs認定制度『SDGsおおたスカイパートナー制度』『SDGsおおたゴールドスカイパートナー制度』を始めた。これまでに125事業者をスカイパートナーとして認定。47事業者をゴールドスカイパートナーとして認定している」
—SDGsの目標年が近づいています。
「30年は重要な節目だが、我々にとっては通過点だ。行政と民間、地域の多様な主体が一体となって未来を構想し、実現に向けて力を合わせていく姿勢が、これまで以上に求められている。30年、その先の未来に向けて、皆さまと共に考え、共に進むことで、区が持つ豊かな資源と可能性を引き出していきたい」
—区内の中小企業経営者にメッセージを。
「モノづくりで培われた皆さまの技術、地域の暮らしに寄り添うサービス、そうした日々の取り組みの一つひとつが、街を支え、未来への礎となっている。皆さまが地域とともに歩みながら積み重ねてきた経営の姿勢そのものが、持続可能な社会の実現につながっていると考えている。我々の手で次の世代に誇れる未来の大田区を共に築いていきたい」
