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工作機械産業
日進月歩するデジタルツイン 特徴と導入事例
デジタルツインとは「現実世界の情報を収集し、仮想のデジタル空間に現実世界と同じ状況を再現する技術」である。デジタルツインはスマートシティー設計や大規模プラント操業の効率化などの分野で、実装に向けた研究開発が進められている。現在では産業基盤となる工作機械業界や、モノづくりを支える技術者教育への導入が試みられ、日進月歩している。ここでは、その特徴について歴史を含めて概観し、2024年現在の導入事例や課題について解説する。
デジタルツインとは
デジタルツインのツインという言葉は双子を意味しており、現実の工場・生産現場の環境・状態をデジタル空間上にうり二つの双子のように再現する。これにより、現実世界ではできない検証やテストをデジタル空間上で行えるようになる。これがデジタルツインの概要である。では、デジタルツインにより具体的に何が実現できるか。それは「未来予想」だといえよう。まるでSFの世界のような話であるが、昨今ではこのデジタルツイン技術に大きな注目が集まり、産業での活用に向けて、研究が進んでいる。
デジタルツインの歴史自体は古く、この言葉が生まれたのはさかのぼること30年余り、1991年である。米イェール大学のデビッド・ゲレルンター博士の著書の中で、人々の未来の姿としてデジタルツインの概念が提唱された。その後、2002年にフロリダ工科大学のマイケル・グリーブス博士がデジタルツインの概念を産業分野に取り入れ、デジタルツインを用いた生産プロセスの効率化を提案した。概念はありながら技術が追い付かず、いったん下火となっていたものの、画像処理半導体(GPU)による高度な画像処理技術、インターネット、IoT(モノのインターネット)、バーチャル技術の発展を受け、17年頃から新たな価値として再注目されている。
機械加工における活用
工作機械業界においても、デジタルツイン活用に向けた研究が進んでいる。一つは加工のデジタルツインである。これは機械単体の物理モデルを可能な限りデジタル空間上で再現し、加工状態や結果を予想するものである。切削加工で例えると、現実世界で起こる切削の物理現象を、デジタル上で再現するということだ。加工コンピューター利用解析(CAE)シミュレーションとの違いは、機械全体がデジタルツイン上で再現されるため、実際に加工を行ったときと同じ機械の挙動が再現されることだ。これにより寸法精度や表面性状までもが予想可能となる。シミュレーションというよりデジタル空間上でのテストカットという方がイメージに近いだろう。
またデジタルツインの強みは単なる未来予想だけでなく、予想した未来を元に「デジタルから現実へのフィードバック」も可能であることだ。例えば、現実の生産工程全体をデジタル空間上に再現し、製造工程や動線、生産計画などの最適化を行うデジタルツインも存在する。通常の生産シミュレーターとの違いは、一台一台の機械のプログラマブルコントローラー(PLC)から細かな稼働情報を取得し、それをデジタル上で再現していることである。
実際の工場とまったく同じ状態の空間がデジタル上に存在することになる。そして、デジタル空間上でその空間の時間を早送りしてやれば、未来で起こりうるトラブルを予測することができるのである。あとはその結果を元に、トラブルが起きないように現実世界で今何をすべきかを算出し、現実の生産現場にフィードバックする。このように、現実からデジタル、デジタルから現実の双方向での活用がデジタルツインの強みである。
技術者教育における導入事例
技術者教育におけるデジタルツインの導入事例としては、共創設計と仮想空間における試験検証が挙げられる。従来の設計は、個々の設計者があるコンセプトや条件を基にCADによりモデルを構築し、その後アセンブルする手順が踏まれていた。
クラウドCADはその手法を共創へと変えた。設計データをクラウドに置き、リアルタイムでデータにアクセスし、共有できる。これにより、空間を共にしない複数の設計者がオンラインで議論しながら効果的に、迅速に設計を行うことができる。
また複合現実ゴーグルを利用することにより、デジタル空間にあるモデルを現実空間に融合することが可能となる。例えばプレス加工機に搭載する金型やダイセットを設計する場合、現実世界にある加工テーブルにデジタル空間で設計した金型を合成し、その干渉などを確認できる。また複合現実下でプレス成形を実施し、同時にCAE解析を重ね合わせることで、応力状態、変形挙動、伝熱を確認することが可能になる。このようにCAD、複合現実、CAEを基本技術として創造されたデジタルツインから、現実空間の金型やダイセットの実機製作ができる。
デジタルモノづくり教育
国立高等専門学校では、このような新しいデジタルモノづくり教育を実施し始めている。高専では、高度な金属3次元(3D)プリンターや、5軸マシニングセンター(MC)などの工作機械設備導入が積極的に進められているが、その機器利用は導入校の学生に限らず、広く開かれているべきである。デジタルツインによって、前述の通り空間を共にしない複数のキャンパスの高専生が共創し、遠隔から機器利用を行える。
また、それぞれの学生が持つ技術やアイデアを仮想空間で提供し合い、独自性のあるモノづくりを実践することができる。今後このデジタルツインによる共創は国際展開され、世界の共通課題となっているサステナブルやサーキュラーエコノミー(循環型経済)を重視したモノづくり活動に発展していくであろう。
課題とその克服
デジタルツインは工作機械業界や技術者教育の進歩に大いに役立つ夢のような技術である一方、課題も多く存在する。一つは、機械からの情報のフィードバックである。デジタルツインを構築するには、現実世界の情報のフィードバックが不可欠である。しかしながら、現場には最新の機種ばかりではなく、デジタルとは無縁の時代に生まれた機械もまだまだ現役で稼働している。そういった機械からいかにして情報を取得するか、またその際のコストやリソースはどうするか、といったレトロフィットの側面での課題が大きい。
また、そもそもの仕事の取り組み方の意識の問題もある。日本の製造業ではデジタル化の遅れが指摘されており、デジタル変革(DX)が叫ばれる昨今においても、まだまだデジタル技術を活用するモチベーションは低い。
このような課題の克服にチャレンジするには、機械工学、電気電子工学に加えて人工知能(AI)、IoT、データサイエンスといった発展著しい情報工学の進歩にアジャストできる人材の育成が必要となる。このような背景から現在、高度情報専門人材の育成が日本の技術教育施策の一つとしてスタートしている。
今後のデジタルツインの発展には、特にデジタルネーティブと呼ばれる若い世代の力や価値観がカギとなるだろう。また、中堅以上の技術者においても今までの働き方の延長線上ではデジタルツインは生かせないため、意識改革やリスキリングが必要となるだろう。
【執筆】
鳥羽商船高等専門学校
情報機械システム工学科
准教授 児玉 謙司
しぶちょー技術研究所
技術士(機械部門)
谷津 祐哉
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