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ライフサイエンス
認知症領域―競争激化
製薬企業はアルツハイマー病(AD)治療薬の開発を活発化させる。エーザイと米バイオ医薬品大手バイオジェンが開発を手がけたAD治療薬「レケンビ」(一般名レカネマブ)が2023年に米国で初めて承認され、世界で実用化が進む。認知症領域では、高齢化社会の進行を背景に、高まる医療ニーズへの対応と競争の激化が予想される。
レカネマブ
エーザイのレカネマブは、早期のAD型認知症患者を対象とした治療薬。現在使われている医薬品とは働きが異なり、脳内に蓄積して病気の原因になるとされるたんぱく質「アミロイドベータ(β)」を除去し、症状の進行を抑制する効果が期待される。レカネマブによる治療はこれまでの臨床試験の結果から、疾患の進行を平均約3年遅らせると推定される。23年に承認取得した米国、日本に続きアジアでも実用化が進み、現在世界6地域で承認されている。
エーザイはレカネマブの他に、ADの原因と考えられるたんぱく質「タウ」をターゲットとした治療薬候補「E2814」を30年度にも米国での承認取得を目指し、開発準備中だ。早期AD患者数は32年には世界で約2億4000万人に上り、そのうち約300万人がエーザイの手がける認知症治療薬の投与対象となる見込みだ。エーザイは疾患の原因となる物質に働きかける医薬品を複数展開し、患者の治療選択肢を増やすとともに、認知症領域の医療をリードし事業成長につなげる。
ドナネマブ
こうした中、米製薬大手イーライリリーが開発したAD治療薬「キスンラ」(一般名ドナネマブ)が7月、米食品医薬品局(FDA)に承認された。エーザイのレカネマブと同様、アルツハイマーの原因となるたんぱく質を脳内から除去する働きを持つ医薬品で、レカネマブの競合品となりそうだ。
競合品の実用化の動きを受け、エーザイの内藤景介代表執行役専務は「(レカネマブの)売り上げへの影響も考えられる」とした上で「ステークホルダーとの強固な関係を築いてきた。実臨床にも自信を持っており、24年度はレケンビがしっかりシェアを維持できる」と強調。イーライリリーのドナネマブの実用化を受けても、レカネマブの24年度の売上高は565億円を確保できると見込む。
今後、二つの薬剤の違いが市場浸透にどのように働くかが注目だ。重要となる要素として、薬価が挙げられる。ドナネマブの1年間の治療費は3万2000ドル(約520万円)で、レカネマブの2万6500ドル(375万円)よりも高額となる。ドナネマブが高額なのは原因たんぱく質を取り除いた後は治療をやめることが可能という特徴を反映しているという。
また、患者にとっての利便性も重要だ。レカネマブの投与は2週に1回、18カ月間投与するのに対し、ドナネマブの投与間隔は1カ月に1回で、患者は通院や投与の負担が抑えられるというメリットがある。一方、エーザイはレカネマブの皮下注射製剤の実用化を目指し、米国での承認申請手続きを開始。皮下注射製剤が実用化されれば自宅での投与も可能となり、利便性は大きく向上する。治療回数や費用、また投与方法といった違いが、シェア獲得にも影響しそうだ。
AD治療薬の領域ではさらなるプレーヤーの増加も見込まれる。武田薬品工業は5月にスイスのバイオ企業ACイミューンが開発中の医薬品候補「ACIー24・060」を1億ドル(約156億円)で獲得。ACIー24・060もAβをターゲットとした医薬品候補で、武田薬品が同物質を標的にした医薬品開発に着手した格好だ。
レカネマブは欧州やカナダなどでも近く実用化が見込まれるほか、ドナネマブも日本で承認申請中だ。製薬企業による医薬品の開発、実用化が進むものの、認知症領域はまだ治療が限られ、アンメットメディカルニーズ(未充足の医療ニーズ)も高い。製薬企業は開発に注力し、差別化しながら競争力向上を図る。