-
業種・地域から探す
続きの記事
住宅産業
エネルギー効率の良い住宅
建築物の高断熱化が進み、エネルギー効率の良い住宅のニーズが拡大している。4月から全ての新築建築物は、国の省エネルギー基準への適合が必須となった。国の支援策を受け、住宅・建材メーカーが省エネ性を高めた商品を相次ぎ投入するなど対策を強化する。新築住宅への対応が進む一方、膨大な既存住宅の高断熱化や省エネ化が課題とされている。建築コスト高に伴い住宅価格が上昇する中、各メーカーは顧客に寄り添った提案に磨きをかける。
省エネ基準適合 義務化/長期優良住宅 補助金・税を優遇
2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成に向け、国は住宅性能を高めるための規制強化を推進する。25年4月から全ての新築建築物に対し、建築物省エネ法で定める省エネ基準の適合を義務化した。この基準を30年までに、建物のエネルギー消費を実質ゼロにするネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)水準に引き上げる予定だ。
国は省エネ型住宅のさらなる普及を図る。24年には、ZEH水準を大幅に超える省エネ性能という「GX(グリーン・トランスフォーメーション)志向型住宅」の基準を設けた。50年を目標として、既存住宅が全体平均でZEH水準の省エネ性能を備え、太陽光発電設備などの再生可能エネルギーの導入が一般化する将来図を描いている。
長い期間にわたり安心して快適に暮らせる住宅を増やそうと、09年には認定制度「長期優良住宅」を開始。新築一戸建て住宅に対し省エネ性や耐震性、居住環境などの基準を設ける。
長期優良住宅の認定を受けると、新築・増改築ともに補助金や税制特例などが受けられる。認定を希望する建築主は建築や維持保全の計画を所管行政庁に申請する仕組みだ。
建築資材や人件費の上昇により住宅価格の高騰が進む今、このような国の補助は新築住宅を中心に活用される傾向にある。ハウスメーカーは顧客ニーズに対応しようと省エネ・断熱性が高い新築商品の開発に力を入れる。注文住宅の販売戸数は年間約30万戸とされているが、既存住宅は約5400万戸もあるという。そのうち省エネ基準を満たす住宅は22年時点の推計では2割に満たないのが現状だ。膨大な既存住宅への対策が急がれる。
既存住宅—高断熱化/窓の断熱改修で快適な住まい
既存住宅の断熱性能を向上するため、建材メーカーが連携を強化している。日本サッシ協会(東京都港区)は7月、会員の三協立山、不二サッシ、LIXIL、YKK APによる広報チーム「快適な住まい情報室」を設立。心地よい住まいを追求し、省エネ化を進める窓の断熱改修を訴求する狙いだ。既存住宅の快適性を高める施策や国の支援策など消費者のメリットになる情報を中立・公益的な立場で周知しようと活動を続ける。
国土交通省と環境省、経済産業省は2023年度、既存住宅の省エネ化を推進するために窓の断熱改修を支援する「先進的窓リノベ事業」を開始。改修費の約半額相当を最大200万円まで補助する制度で、日本サッシ協会によると同事業を活用した改修戸数は23—24年度で約57万戸だった。3年目で集中支援の最終年度とされる25年度は、補助金申請額が予算の1350億円に対し8月半ばで2割台だったが、10月に入り約4割となっている。
住宅の構造で熱の逃げ道が最も大きいのが窓などの開口部といわれる。日本サッシ協会によると、既存住宅の約7割はアルミサッシと単板ガラスを組み合わせた断熱性能の低い従来の窓が使われている(図)。樹脂サッシとLow—E(低放射)トリプルガラスを組み合わせた高断熱窓との性能の差は、数値が高いほど熱損失が大きいことを示す「熱貫流率で約7倍になる」(同協会)という。
高断熱窓を導入することで光熱費の削減効果も期待できる。公表される試算では、一戸建て住宅で全ての窓を高断熱窓に改修した場合の削減額は年間2万2000—2万7000円程度になる。だが、主に内窓の設置と外窓の改修に分かれる窓の断熱改修には課題もある。内窓は価格や施工が手頃だが開閉の手間が増えるほか、外窓が劣化すると窓の間に結露が発生する可能性もある。一方、外窓の改修は内窓と比べて高性能だが費用が割高になる。住宅の条件や予算に合わせた提案がカギとなるだろう。
ZEH新定義/「断熱等級6」 対応着々
-
住友林業のセミオーダー商品「フォレストセレクション」(イメージ) -
大和ハウス工業の一戸建て住宅主力商品「ジーヴォシグマ」(イメージ)
新築の住宅商品は高性能化が先行する。4月に全ての新築住宅と非住宅施設に対し適合が義務化された断熱等級4は、1999年に制定。大和ハウス工業は当時、自社の一戸建て住宅で断熱等級4相当をすでに標準化。30年には断熱等級5が義務化予定だが、積水ハウスは22年から一戸建て住宅と賃貸住宅で断熱等級5を標準化している。住友林業は20年から、一戸建て住宅で地域によっては断熱等級6に対応可能としている。
ここにきて、ZEHを取り巻く状況変化も商品力向上を促す。大和ハウスは一戸建て注文住宅で断熱等級6を標準化すると7月に発表。主力商品の軽量鉄骨造の「ジーヴォシグマ」や木造の「ジーヴォグランウッド」などから適用を始めた。現行のZEHの定義では断熱等級5が実質的な要件だが、27年4月に適用される新しいZEHの定義「GX ZEHシリーズ」では断熱等級6が要件になる。大和ハウスはこの新定義に対応し、省エネ性能を高めた住宅提案を強化する方針だ。
積水ハウスも新たに販売する一戸建て住宅と賃貸住宅で、半分以上が断熱等級6をクリアしている。住友林業は20年から一戸建て住宅で、断熱材や構造材、Low—E複層ガラスの窓で高断熱化を図る「360度トリプル断熱」を標準採用。断熱等級6に対応する状況だ。
住宅商品の断熱等級は高まるが、ハウスメーカーは地域によって異なる気候や気温などの条件を考慮する必要がある。建築費の高騰も踏まえ、性能とコストのバランスを考慮した最適な提案が求められるといえそうだ。
