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住宅産業
長く安心して快適に住み継ぐために知っておきたい 長期優良住宅
【執筆】 住宅ジャーナリスト 山下 和之
住宅の建築や取得を考える場合だけではなく、市場の動向を理解する上でも知っておきたいのが「長期優良住宅」だ。長期にわたって良好な状態で住み続けることができる住宅のことで、国が定める条件をクリアして認定を受ければ、税制の優遇が受けられ、住宅ローンの金利が引き下げられるなどのメリットがある。いまなぜ長期優良住宅なのか、長期優良住宅とはどんな住宅で、どんなメリットがあるのかを紹介する。
100年・200年と住み続けられる住宅
日本の住宅政策は戦後の住宅難に対応するため、大量生産が最優先で、品質は二の次にされてきた面がある。それが、総住宅数が総世帯数を上回るようになり、住宅政策も量より質に転換された。その象徴が長期優良住宅といっていいだろう。
住宅の質の向上を図るため、国土交通省では住宅の性能に関して基準を定め、それを持たす住宅を「長期優良住宅」として認定している。税制の優遇措置を適用し、住宅ローン減税額を増やしたり、住宅ローンの金利を引き下げるなどして、普及の促進を図っている。
長期優良住宅は名称からも分かるように、長期にわたって住み続けることができる住宅で、具体的には(表1)にある条件を満たす必要がある。耐震性に優れ、通常の使用であれば100年、200年と住み続けることができる。
2009年からスタートした制度で、当初は大手ハウスメーカーなどが中心に建設が進められたが、次第に中堅のビルダーや中小の工務店でも対応できるようになっている。
新築4割近くが長期優良住宅
長期優良住宅の認定戸数は着実に増加している。国交省によると、24年度の新築住宅のうち長期優良住宅の認定戸数は、一戸建てが13万6842戸で、一戸建ての新設着工戸数の39・3%と、ほぼ4割を占めるようになっている。ただマンションはまだまだ少なく24年度は8231戸で、新築マンション着工戸数の1・8%にとどまっている(図)。
これは、マンションが一戸建てに比べて、長く住み続けられると消費者の間で広く認識されているので、あえて費用をかけてまで認定を受ける必要がない、と考えるデベロッパーが多いためといわれている。
しかし、認定を受ければ消費者には税制などの特典が多いので、今後はマンションの認定件数を増加させることが大きな課題といっていいのではないだろうか。
1戸当たり100万円の補助金
長期優良住宅の条件を満たすには、一般の住宅に比べて基本性能を高める必要がある。建築費が多少高くなるが、その分を価格に転嫁しても、購入する消費者にすればさまざまなメリットがあり、価格上昇分をカバーできる可能性が高い。
大手のハウスメーカーでは、標準仕様として長期優良住宅が当たり前になっていて、注文住宅や分譲住宅でも、長期優良住宅にするための追加費用を求められることはなくなっている。その流れは中堅ビルダーにも及んでおり、いずれ中小工務店でも追加費用なしで、長期優良住宅を建てられるようになるだろう。
その上で、長期優良住宅であれば、消費者はさまざまな優遇策を享受できる(表2)。
新築時には100万円の補助金が出るし、住宅ローンを利用する場合、ローン控除額が多くなる。省エネルギー基準に適合しない住宅はローン減税の対象にならないが、子育て世帯であれば、長期優良住宅なら13年間で最大455万円の控除を受けられる。登録免許税の軽減など税制面での優遇策も実施されている。
年間光熱費が10万円—20万円安くなる
このほかにも長期優良住宅に住む人にはさまざまなメリットがある。
まず、安心して快適に住み続けることができる。地震大国日本においてはどこに住んでも地震の不安から免れることはできないが、長期優良住宅は耐震等級2以上、または免震建築物であることが条件となっている。このため、震度7クラスの大地震でも倒壊することなく、軽微な損傷で済み、地震後も継続して住み続けられる可能性が高い。
また断熱性能に優れ、省エネ性能が高く、快適に生活でき、夏の熱中症や冬のヒートショックのリスクが小さくなるなど、人にも優しい住まいになる。
さらに、家計にも優しい。住まいの断熱性が高いので、光熱費負担が少なくなる。大手ハウスメーカーの試算では、太陽光発電を搭載した長期優良住宅であれば、一般の住宅に比べて年間光熱費が10万円から20万円安くなるという試算もあるほどだ。
マンションデベロッパーの取り組みが課題
さらに、断熱性能が高い長期優良住宅は二酸化炭素(CO2)排出量を削減でき、地球環境負荷低減にも貢献する。住む人にとっては、地球環境の保全に役立っているという満足感にもつながるのではないだろうか。つまり、長期優良住宅は住む人に優しく、家計や財布にも優しく、地球環境にも優しい住宅ということになる。
そうしたメリットの理解が進めば、消費者の間では、多少価格が高くなっても積極的に長期優良住宅を取得しようという意識が高まるはず。そうすれば、住宅を供給するハウスメーカー、デベロッパーの間でも、積極的に長期優良住宅を供給しようとする動きが強まる。特にマンションについては、長期優良住宅認定件数がまだまだ少ないだけに、その増加に期待がかかる。
中古住宅の長期優良住宅化
そのためには、長期優良住宅の認知度を一段と高める必要があるだろう。政府や業界団体、ハウスメーカー、デベロッパーなどが一体となって広報活動に取り組み、積極的に長期優良住宅の供給を促進していく必要がある。
まずは一戸建て住宅、マンションにかかわらずに新築住宅を原則的に長期優良住宅とし、中古住宅についてもリフォーム、リノベーションによって長期優良住宅化しなければならない。住宅といえば長期優良住宅というのが当たり前になる日がやってくるのを期待したい。
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住宅ジャーナリスト 山下 和之
【執筆者プロフィール】
住宅ジャーナリスト 山下 和之
住宅・不動産分野に関して新聞・雑誌・単行本などで執筆、各種講演、メディア出演などを行う。『住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)、『はじめてのマンション購入絶対成功させる完全ガイド2022—2023』(講談社ムック)などの著書がある。
